エピローグ
魔王の過去、そして……
――――アランが、先代魔王から役目を引き継いだ後のこと。
勇者の瞳に、それまでなかった金色の輝きがあることに、仲間たちは戦慄した。
「アラン、おまえ……」
「どうしてアランが……!」
勇者の、魔王の、真の存在意味を知った仲間たちは、誰もがアランの未来を嘆いた。嘆いてくれた。
だから、アランは覚悟を決めた。
「どうやらそういうことですので、私はここに残ります」
「でも、アラン!」
「私は嫌よ! どうしてアランだけ犠牲にしなきゃいけないの? いくらなんでも……これは……っ」
「いいのです、ミファ。それに、聖女ともあろう者が、そんなことを言ってはいけませんよ」
「アラン……! でも私、私はっ」
聖女が泣き崩れる。それを魔術師の男が支えた。
剣士の男は怒りも露わに眉根を寄せて、ままならない真実に舌打ちする。神官の女は、ぎゅっと裾を握って涙を堪えているようだった。
「アラン、おまえを一人、ここに残すことなんてできねぇよ。だって俺たち、仲間だろっ?」
「キース」
「そうだよアラン。僕たちは、ここまで苦楽を共にしてきたじゃないか」
「エントス」
「二人の言うとおりですです! 私も、共に残りますです!」
「ニーナ」
「お願いアラン。私たちも、一緒に頑張らせて!」
「ミファ……」
剣士も、魔術師も、神官も、聖女も。
誰もがアランを心配してくれた。これから独りで立ち向かっていかなければならない勇者――魔王に、誰もが優しい言葉をくれた。
仲間だから、これからも一緒だと。
「ありがとうございます、みんな」
でも、仲間だから。
「ここでお別れです。私は、誰も巻き込みたくない」
「アラン!?」
アランが魔王になって初めて使った魔術は、人の記憶の改ざんだった。
魔王討伐隊は、立派に魔王を倒した。たった一人、勇者を犠牲にして。
アランが死んだと思い込み、悲しみに暮れる仲間の背を見送ることは、言葉にできないほど辛く悲しいものだった。
でも、とアランは目を瞑る。
(歴代も、同じ選択をしていましたか……)
記憶を視る。そこには、面白いくらい全員が同じ道を辿る過去が視えた。
どの勇者も、仲間の記憶を書き換えていた。
(そうでもしないと、未練が残ると分かっているからでしょう)
人としての未練が。
役目を放り出し、世界を滅亡に追い込まないように。自分が、本当の〝魔王〟になってしまわないように。
(ここから、いったいどれだけ独りでいればいいんでしょうね……)
空を見上げる。
灰色の雲が薄く伸びている。薄気味悪い空だ。まるでこの先の人生を、暗示しているかのような。
(……考えても詮無いことか。戻りましょう)
今日からここが、アランの城になる。
ここ、魔王城が。
始まりの記憶は、いつだって絶望の瞬間からスタートする。
――〝アラン!〟
だからまさか、こんなに明るい未来があったなんて、あの頃のアランは知らなかった。
――〝黙らっしゃい!!〟
絶望の中の希望。彼女はまさに、そんな存在で。
――〝ねえ、アラン。ずっとずっと、愛してるわ〟
こんなにも幸せなことが、この世にあったのかと。
――〝だからあなたも、ずっとずっと、愛していてね〟
当然だ。ずっとずっと愛している。彼女に誓おう。
たった一人、孤独から救ってくれた彼女に。愛を教えてくれた彼女に。
彼女と、彼女の遺した者たちを。
ずっとずっと、この先も。
それが、アランの見つけた幸せなのだから。
魔王は今日も、愛を胸に生きていく。
〈了〉
聖女の護衛は魔王です!? 蓮水 涼 @s-a-k-u
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