第9話 雨のち晴れ


 最近やっと、雨傘が傘を差す様になったってのに、傘置き場に、雨傘の傘が放置されてる。

 今日は、雨。

 雨が降る度に、気温は上がっていき、梅雨が明ける頃には、熱いと感じる日も来るだろう。

 そんな思考を巡らしていると、雨傘の姿を見つける。

「アイツ、やっぱり、傘放置していったのか」

 奏の傘は、水色。何処にでもある色に、形。付いているキーホルダー。記憶にあるのと一緒だ。間違えるはずがない。

「やっぱり、晴くんが持ってきてくれた。お願いしたしね」

「織り込み済みかよ」

「だって、ワザと忘れたんだもん。晴くんなら、持ってくるかなって」

 受け取った傘はやっぱり、差す様子は無い。

「あのね、決めた事があるんだ。晴くんが傘を持ってきてくれらた言いたい事がある」

「なんだよ」

「好き。ボクは、晴くんが好き」

 そんなもん、今更だ。

「なんだよ、いきなり」

「この、ツンデレさんめ」

 その通りなのは、明白だ。雨を降らせていないだけ。感情が高ぶれば、少しづつ雨は激しさを増す。

「そんな態度でも、天候は嘘をつかないよ。ボクが、キミの、晴くんの傍に居たいだけ。振りまして、絶対にボクを見てもらうから。晴くんの雨は優しさで来てるんだよ?」

 変人するぎる。とは言えねえか。俺も、その範疇だ。

「ほんと、ブレねえな、おまえはよ」

「あのね。返事は、どうかな? 因みに、断ると、分かりやすく晴れる」

 不安げな表情。それを俺に向けて反応を見てる。大丈夫だ。表情は変わってないはず。

 俺の反応を変わらないのを確認して、にぃっと、気分が良さそうに言葉にする。

「ま、晴くんが首を縦に振るまで付きまとうだけだけど」

「付き合っても付き合わなくても、それじゃ一緒だろ」

 つまり、どっちに転ぼうと今まで通りなわけだ。

「あ、分かった?」

「あ、分かった? じゃねえよ」

 髪がぼさぼさになるらいに頭を撫でまわして、雨傘が、ギブギブとタップするまで続ける。

「照れ隠しにも程があると思うんだ」

 真っ直ぐ俺の目を見てきた雨傘から視線を逸らす。この時点で負けだわな。

「ね? 名前、呼んでほしいな。奏って」

「あぁ、分かったよ、奏」

 負けだ負け。俺も奏と一緒に居ると、気分がいい。

「まさかの告白成功とは、自分でも思わなかった」

 ここまで思いを形にされれば、嫌でも分かる。

「それに、今の晴くん顔が緩んでるよ。もしかして、晴くんって、チョロイ?」

「おまえなぁ」

 頭をぐりぐりして、攻撃する。少し力を入れるだけでも痛いはずだ。ま、自業自得だけどな。

「あ、いたたただだだぁ!?」

「アホな事言うからだ」

「デコピンより攻撃力が上がってるってオカシイ」

 恨めしそうな顔で見てるが、これは前座だ。

「これで、少しは晴くんに返せたかな?」

 いつぞやの出来事を思い出す。そういえば、そんな事もあったな。

「そんなもん気にすんなよ」

「晴くんってさ、無口なわりに、ごちゃごちゃと頭で考える人なのは知ってる。それで、感情が表にあんまり出ないっていうのも」

 ホント、良く見てる。色んな所が見透かされてるってのも、雨傘相手なら、そう悪くないか。

「で、雨に彼女が打たれてる。そうしたら、してあげる事は、一つなんじゃないかな?」

 俺の気持ちも回る分かり。これ以上はツンデレじゃねえか。

「悪かった、悪かったって。そんな顔すんなよ。だけどな、こんなの初めてだから加減なんて分かんねえ。苦しくないのか?」

 俺の力を少しでも入れれば折れちまいそうなほどに細い。こんなのが、一人で立ってるっていうんだから、不思議だ。

「暖かいよ」

「ならいいんだ」

 こうして雨を見てると思う事がある。俺の降らせた雨は、彼女の、奏の涙そのものなんじゃないか、ってな。悲しいと晴れ間を覗かせる彼女の代わりに……

 おかしなオカルト現象だ。何でもありあり。感情で天気が変わるなんて、それこそ居るかも分からない神様ってやつの悪戯。

 きっと、このおかしな現象は続いていくんだろう。

雨が降って、また晴れる。そんな日々が。

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雨のち晴れ 月見酒 @peregrinus

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