6.閉式

「お前にも笑って欲しかったんだと」


「じゃあ、最初のは」


「笑っちゃいけない状況の方が逆に笑いやすくなるって。止めたけど」


 チカちゃんは言いよどんだので、ネタバラシはカミヤが代行した。


「で、でも何でチカちゃんや俺の為にそこまで」


 二人と仲良くない同級生の大半は、驚きの眼差まなざしを向けられると顔を伏せた。


「別に。楽しんでただけだけど」


 と、フキアゲ君。


「俺らには、お前みてーなクソマヌケ、できねーし」


 彼らは『ふーん』の後を生きていたのだった。

 覚悟を決めたチカちゃんはやっとオチタの前に来て、頭を下げた。


「ウチのせいでこんなんなって。オチタ君、落ち込んで部屋から出ないって聞いて。謝ってもどうにもならんし、ウチにできるのはこれぐらいや。今日も最初ウチのこと避けてたし、」


「違う!」


 オチタは恥を捨てた。ひざまずき、彼女と目を合わす。


「悪いのは俺の方だ。部屋から出られなかったのは、助けらんなくてチカちゃんに合わせる顔が無かったのと、クソダサくてみんなにバカにされそうだったのと……遺体見つけた時に、感極まって好きだったことを言ったり……言わなかったり……」


 突然の告白。

 彼女は首をかくかく動かしたりきびすを返したりしてからようやく答える。


「……そんなん、死んでたんやから知らんわ」


 顔は真っ赤だ。

 一方、周囲はセンシティブな話題にてついた。


「あのさ、オチタってアガリと付」


 はっきり言うタイプの男子は直ちに口を塞がれ、一同の視線は彼女に集中する。

 幼馴染は首を横に振った。


「なら!」


 パン、と手を叩いたのはウエノさん。


「返事は~?」


「えっ」


 二人とも窮地に立たされたが、彼女らは追及を緩めない。


「どうするの?」「保留は無しな」「見せ場だ」「どう転んでもウケる」「チカのちょっといいとこ見てみたい!」「チクサクチクサク!」「ホイホイホイ!」


「チクサクコールで催促さいそくすなっ!」


 彼女は一喝して前進。


「チカちゃん」


 オチタは返事を待つが、それは訪れなかった。


 今日一番の大歓声。


「チクサクチクサク!」


「やめろや!」


 チカちゃんがすぐ怒ったので二人のキスはすぐ終わり、後はもう揉みくちゃであらゆる祝福がなされた。



「みんな」


 しばらくして、察したアガリが呼びかけた。

 人々は居ずまいを正して故人を見る。

 微笑む彼女はみんなに見えるよう、燃え尽きる炎の近くに移動した。

 咳払いを一つ。


「コホン、えー」


 するとクルッと回り、歌いながら踊りだす。



  フニクリ フニクラ

  フニクリ フニクラ

  ンコッパ イヤンモ イヤ

  フニクリ フニクラ



 冷気が舞台を清め、陽と月と星と熾の光が彼女を愛でた。

 終わると一礼。


「オカン! みんな! ありがと、さよなら」


 大きく手を振ってから、恋人には面映おもはゆそうに告げる。


「オチタ君、また明日」


 そして、チカちゃんは足が地面に浸り、するっと根の国まで落下していった。

 葬式はこれで終わり。






「娘の為に今日までありがとうございました」


 喪主が参加者一人ひとりにお礼して回る。

 チカちゃんの友達はみな嗚咽おえつを漏らしている。そうじゃない大半は曖昧あいまいに顔を強張こわばらせ、蒼白になって空を仰ぐのはフキアゲ君ぐらいだ。ウエノさんは怠そうに周りとお喋りしているし、校長はいつもどおりぼんやりしている。人数分の終わりがあった。

 不機嫌なアガリもいた。


「みんなそんな顔するんだ。あんなに最後まで笑っててって言われたのに」


 オチタは彼女の呟きにびっくりして振り向く。暗くてよく見えないが、いつもの快活さは掻き消え、ピリピリ緊張感が漂っている。


「本当にありがとう、アガリさん。本当に、頑張ってくれて」


 お母さんは彼女に何度も何度も感謝してから他の人の所へ行った。


「僕、本当はチカちゃん苦手だったよ」


 オチタにだけ聞こえる声だった。


「集団行動できないのも。バカなのも。すぐ騒ぐのも。良い子なのも」


「アガリ」


「そもそも僕らの傍にいれば、ちゃんと避難できてた。バカじゃなければ、わざわざ袋小路に逃げ込むこともなかった。騒がなければ、煙を吸って死ぬこともなかった。良い子じゃなければ、オチタの好きな人にもならなかった」


 オチタはその顔をどうにか見ようとして、できない。

 黄昏がアガリを誰でも無いものに変え、語りえぬ全てをかたどる力を与えた。


「オチタがチカちゃんを好きじゃなければ!」


 だが、そうして紡がれた仮定の未来は。

 それを悟った彼女は、口元を覆いわななくのが精一杯だった。


「僕もあの時……」


 ふらっとき火の方に歩き、地べたに腰を下ろしたアガリは既に人間で、オチタが横に座るのを億劫おっくうそうに許す。

 やがて、待たれていると感じた彼は口を開く。


「面倒かけてごめん」


「言うの遅すぎ」


「でさ、明日の葬式。笑うのはヤバいけど、泣くのはセーフだから」


「だから何?」


「よければ二人分、涙の海を天国のインスタに上げたい」


「は、おもしろ。何様だよ」


 失望混じりの笑いの後、オチタの頬を上へ向かう気流が撫ぜた。

 跳ね起きたアガリの眼にはもう光が宿っている。



「やってやる」



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笑ってはいけない好きな子のお葬式 あたし黒髪のようにとけそうな気がする @hailingwang

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