5.出棺

「オチタ、ラストチャンスだ」


 きっちりデコを見せたアガリが宣言した。

 みんなはすっと立ち、片付けもせず動き出す。

 男子は祭壇につどい、棺ごと解体し始めた。


「食ったら出すもん出さなきゃな」


 と、彼らは木材を運び入口から外へ出て行く。

 オチタは女子と打ち合わせするアガリに問う。


「何を」


「出棺」


「何で」


「火葬」


「アガリ」


 司会が困り顔で彼女を呼ぶ。その指先はとあるテーブルの下。


リペアーしてくる」


 アガリはオチタを置いて、震える校長の傍にしゃがむ。


「チカちゃんはここの出身で、お母さんは東京の人で、あれはエセです」


「えっそうなの」


「お父さんは大阪らしいけど、今はまあ『なんで茅野チノ民が関西弁なんだよ!』までがワンセットで」


「じゃあウケ狙いで常時あの口調を? 狂人では」


 復活した校長はそそくさと退出し、彼女はまた他の所に飛び去る。

 戸惑とまどうオチタの袖が引っ張られた。


「ウチがエスコートしたる」



 陽は傾き肌寒い。

 校庭の真ん中には巨大な井桁いげたうずたかく積まれ、男子が松明たいまつに着火している。

 棺や祭壇は井桁に突き込まれていた。


万端ばんたんだ」


 頭にタオルを巻いたフキアゲ君が全員に告げる。

 チカちゃんは彼から松明を受け取ると、ぶんぶん振って投げ放った。


 散る火の粉。

 井桁の真上、すとん。

 中の爆竹がバチクソ炸裂さくれつ


「やるで!」


 彼女はオチタの手を取り、みんなで篝火かがりびを囲む円を作る。

 スピーカーからマイムマイム。



 諏高祭よりこうさいのフィナーレを三回ともサボっていたので、オチタは大恥を掻いた。校長やチカちゃんのお母さんまで全種完璧に踊っていたから余計に。

 できたのは音楽祭のフニクリフニクラだけ。合唱しながらやる三組の特製。三つの動作・まれに回る、以上。

 炎は盛りを過ぎ、陽は山に半身を埋めた。

 終わってしまう。


 ポクポクチーン


 踊り飽きたチカちゃんは友達と木魚やりんで遊んでいる。

 結局楽しむ同級生や故人に水を差すことは彼には不可能で、もう謝るしかできない。嘆き叫んで許しを請えば誰かもらい泣くかもしれない。


「ポクポクチンチン」


 口ずさみつつ叩きまくる彼女の顔に悲しみは無い。だが、開式前の感情が本音だとしたら、秘めたままだとしたら、あまりに辛すぎる。

 オチタは重い足を引きずり、彼女の所に向かった。






「ポクポクチンポ……やべ、チンポて言ってもうた」


「ぶふ」


 オチタは笑った、一週間ぶりに。

 すぐに下を向いたが、誰かに見られてないか戦々恐々で顔を上げた。


 みんな彼を見ていた。

 誰もが身じろぎ一つせず校庭はしんとするが、そのうち誰かが口火を切る。


「まさかここまでかかるとは」


「だから不謹慎ネタは無茶って言ったんだ」「いやカミヤのネタは総スルーだったし」「他も気づかれないの多かったな」「黒人は鉄板だと思ったのに」「あの味でダメとか。私の腕もマダマダだ」「結局下ネタ? 男って一生男根期だな」


 じきにまた静まり、一同は司会を見た。

 彼女は頷き、マイクにささやく。


「しゅーりょーです」


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