エピローグ

 あれから一週間後――。


「お母さん、いってきまーす」


「いってらっしゃーい♪ 車に気をつけてねぇ~」


「ニクキュウがいるからだいじょうぶぅ~」


 家を出たボクとお姉ちゃん、葉月は、庭で寝ていたニクキュウの背中にまたがり、「ニクキュウ、ゴー!」と言った。


「くぅ~ん!」


 ニクキュウはクマとは思えないかわいらしいき声を出すと、通学路をドスン! ドスン! ドスーン! と地ひびきを立てながら四足歩行で走り出した。


「うわーい! うわーい! 気持ちいい~!」


「葉月。しっかりつかまってなきゃダメだよ? 振り落とされちゃうからね?」


 お姉ちゃんがそう注意すると、素直すなおな葉月は「はーい!」と元気よく返事をした。


 ここのところ葉月はご機嫌きげんである。前から飼いたい、飼いたいと言っていた念願ねんがんのペットを飼うことができたからだ。


「まさか、クマを飼える日が来るとは思わなかったなぁ~。泥棒どろぼうとかもこわがって絶対ぜったいにうちに侵入しんにゅうしないだろうし、こうやって学校のおくりむかえもしてくれるし、便利べんりだよぉ~。最強美少女ノゾミちゃんさまさまだね!」


「や、やめてよ、お姉ちゃん。ボク、別になにもしていないし……」


「なに言ってんのよ。かわいさで世界最凶のクマをしたがわせちゃったんだから、あんたは最強の美少女(♂)に決まっているじゃない」


 ニクキュウは、ボクになついた後、お母さん、お姉ちゃん、葉月、それに姫乃ひめのちゃんや織目おりめさん、水野みずのさん、ミイちゃん先生、カナちゃんにまでなつくようになった。というか、かわいい女の子の前だと、「くぅ~ん、くぅ~ん」と鳴いて甘えてくるようになったのだ。


「これは、おそらく、えにめざめたのだと思います。あらぶるケモノだったニクキュウが、世界一かわいい美少女ノゾミちゃんと出会ったことでかわいいものを愛でることの喜び、かわいいものを守ることのとうとさを知ったのです。だから、ニクキュウはもう凶暴なケモノじゃありません。世界の中心で萌えをさけぶケモノへと進化しんかしたんです!」


 姫乃ひめのちゃんが鼻息はないきあらくそんな感じのことを力説りきせつしていたなぁ~。


 なにはともあれ、ずいぶんとおとなしくなったので、街を歩かせても人におそいかかる危険性きけんせいがないのは安心だ。女性や子供などのニクキュウがかわいいと判断はんだんした人間にはすぐになつくし、わが街の名物としてニクキュウは人気者になりつつある。

 ただ、ウシミツドキ国王(ノイローゼで日本の病院に入院中。たぶん、ボクのせい)や校長先生などのニクキュウがかわいくないと思う存在そんざいを見ると、顔をゆがめて「おええぇぇぇ……!」ときそうになるのがちょっとかわいそうだけど、これもおそう心配はないみたいなので良しとしよう。


 あと、ギネスにはちゃんと申請しんせいした。







 ちなみに、タタリ王子は、いまでもボクたちの学校の生徒として日本に残っている。わが家周辺しゅうへんに建てられたウラメシヤ王家の別荘べっそうもそのままだ。まだボクと結ばれることをあきらめていないらしい……。


 しかも、タタリ王子だけでなく、今日からまでボクたちの学校に転校することになったのだ――。


「ええとぉ~。またまたウラメシヤ王国からの転校生がうちのクラスの仲間に加わることになりましたぁ~」


 朝のホームルームの時間、ミイちゃん先生がそう言うと、ガラガラと教室の戸が開いて一人の少女が入って来た。


「タタリ王子のボディーガード、カナ・シバリともうします! 現在、王子に求愛中きゅうあいちゅうです! 日本のみなさん、よろしくお願いします!」


 女子の制服を着たカナちゃんは、とってもかわいかった。

 いきなりクラスのみんなの前で爆弾発言ばくだんはつげんをされて、タタリ王子が「お、おい……! 人前でよせ!」とあわてていたけど、タタリ王子だってみんなの前でずかしいことばかりしてたじゃん。


「ノゾムさん。あなたに背中を押してもらったおかげで、勇気を出すことができました。これからは、自分をいつわることなく王子にアタックしていきたいと思います!」


「がんばってね、カナちゃん!」

 

 彼女には本当にがんばってもらいたい。カナちゃんとタタリ王子が両想いになったら、僕はタタリ王子から解放かいほうされるわけだし……。


「か、カナには悪いが、オレにはノゾミというフィアンセが……」


「ボクはタタリ王子と婚約こんやくしたおぼえはないよ。第一、ボクはもう女装じょそうをやめているし」


「ぐっ……今日も相変わらずオレだけに冷たいんだな。だが、そういうところもかわいい。……しかし、なぜ女子の制服を着なくなったんだ? あんなにかわいかったのに」


「そりゃ、性別せいべつをいつわる必要がなくなったから……」


 ボクはもうこの国のトップシークレットでもなんでもない。ごくごく平凡へいぼんなかわいいもの好きの男の子なんだ。


「たのむ! たまにでいいからまた女装をしてくれ!」


「そ、そんなことを言われてもなぁ~……」


 タタリ王子はボクに「女子の服を着ろ」としつこく要求ようきゅうしてくる。しかも、タタリ王子だけでなく、他のクラスメイトたちまでもが、ボクに女の子のかっこうをもう一度してほしそうな雰囲気ふんいきだったり……。


「はぁ~……。もう一度でいいから、女装したノゾムくんと俊介しゅんすけくんが見つめ合っているところが見たいよぉ~」


糸子いとこさん。実はわたし、二人をモデルにした恋愛小説を小説投稿とうこうサイトにのせたんだけど…………読みたい?」


「ま、マジ⁉ 真奈美まなみ先生、見せてください‼」


 織目さんと水野さん、どんどん深みにはまっているような気が……。


「な、なあ、俊介。水野さんがボクたちをモデルにした小説を書いているらしいけど……」


「ん? 別にいいじゃないか。オレたちの熱い友情が小説になるなんて、おもしろそうだ。オレも読みたい」


 ダメだ、俊介はぜんぜんわかっていない……!


 ボクが頭をかかえていると、昨日きのう席替せきがえでボクのうしろの席になった姫乃ちゃんがボクの背中をツンツンとつつき、小声で話しかけてきた。


「の……ノゾムくん。あ、あのね。今度の日曜日、いっしょにケーキ屋さんに出かけませんか? 女の子同士で来店したらケーキが半額はんがくで食べられるサービスを今やっていて……。の、ノゾムくんとおそろいのかわいい洋服を着て、お出かけしたいなぁ……」


 う、うう……。姫乃ちゃんに上目づかいでそんなお願いをされたら、ことわれない……。それに、ボクも「とびきりかわいい女の子のノゾミちゃん」をひそかに気に入っているし……。


 タタリ王子のリクエストで「ノゾミちゃん」になるのは嫌だけど、姫乃ちゃんのためならまた女装しようかな?


「あんた。人生初のデートで、女装する気?」


 お姉ちゃんにそうからかわれるかもだけど、別にいいよね。


 だって、「かわいければすべて良し」っていうことわざもあるでしょ?


 え? それを言うなら「終わり良ければすべて良し」だって? おっかしいなぁ~……。

                                     



                了









最後までご覧いただき、誠にありがとうございます!


初めて書いた「女装ものラブコメ」でしたが、いかがでしたでしょうか……?


感想等ございましたら、コメント欄や私の近況ノートにぜひぜひお書きこみください。作者が泣いて喜びます(≧▽≦)


また別の作品でお会いいたしましょう~!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女(?)はトップシークレット! 青星明良 @naduki-akira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ