小学館ジュニア文庫小説賞と聞いて、もっと幼児向けの作品かと想像していた。
これまで「時間の浪費か」と思って食指を伸ばさなかったが、名月明さんの作品は軒並み面白いので、「まぁ、時間潰しに読んでみるか」とスクロールし始めた次第。
脇道にそれるが、所詮、趣味とは暇潰しである。読書が金稼ぎになるとは寡聞にして聞かない。
さて、読み始めての感想は
「これって小学生相手の作品なの?」
「ジュニアって、ジュニアハイスクールの略?」
と言うもの。結構な知的レベルである。
応援コメントへの返答で作者が語っているが、「歴史には悲劇も喜劇もある」。本作品は喜劇の方だ。特に、後半のネズミ編はシュール。皮肉すら感じる。
ジョージ・オーウェルの名作「動物農場」には確か人間は出ないが、史実に基づいた本作品は動物と人間の併存を前提としている。それだけに人間社会の非合理性や滑稽さを鋭く抉り出している。
それにしても、よく小学館コンテストの二次選考を突破したもんだ。一体、募集要項の対象年齢は幾つだったのだろう?
裁判を描く作品は数多ある。
しかし、動物裁判の話を描いた作品をご存知だろうか?
私は、この作品を読むまで、まったく知らなかった。
犬が裁判に?
弁護人がつく?
――どんな話だ!
そう、読書の炎がメラメラと燃え上がることだろう。
そして、読み始めれば、登場人物の魅力がじわじわと伝わってくる。
まずは美しいお姫様のマリー。
そのマリーを慕う侍女のサラ。
冒頭はこの二人が窮地に遭ったところから始まる。
展開は実に鮮やかで、テンポよく話が進んでいくので、読む方もなかなか止まらなくなる。
実際、私は時間の合間で読んでいたので、大変もどかしかった。
子ども向けに書かれた文章は、コミカルで物語の世界に入りやすい。また、事実を基にした小説だけあり多くの教養を得られる。
私は思わず、登場人物のことを検索していた。そのくらい歴史も知りたくなる。
ちなみに、私は歴史が苦手である。それにも関わらず、だ。
読みやすさはピカイチ。
エンターテイメント小説とは、まさにこの小説のことだ!
私は読んでいて、途中からアニメを見ているようだった。
まだ読んでいない人は、実にもったいない。
中世ヨーロッパで実際に繰り広げられた『動物裁判』を題材にした小説です。
人間に危害を加えた獣害に対しても、一方的に駆除するのではなく大真面目に裁判を開くという、嘘のようで本当にあった出来事。
犬やネズミを法廷に立たせ、原告と弁護士が喧々諤々の論戦を始めるという、シュールな展開がめちゃくちゃ面白いです。
また、舞台背景の説得力も秀逸です。
花の都パリとは名ばかりの、不衛生だった町並みや世俗が克明に書き込まれ、作者様の丹念な取材力が冴え渡ります。
そんな町だからこそ動物が跋扈し、人間とトラブルを起こしやすい……という下地があるわけです。
連作短編という形式で、2つの裁判を扱っていますが、主人公の動物弁護士と助手はまだまだ健在。
今後いくらでも続編を書くことが出来るでしょう。
某社の新人賞で惜しくも三次選考落選(最終選考手前!)という結果が悔やまれます。
この作者様は他にも、最終選考候補まで残った力作も擁しており、そこら辺のアマチュアとは比べ物にならない確かな実力を持っています。
このような書き手が脚光を浴び、羽ばたいてくれることを切に願います。