17 嵐の告白大会!

 急にゆかはげしくれ出し、カナちゃんがボクとタタリ王子に注意をうながした。


 え? ゆ、床がくずれる? なんで……。


 ズゴゴゴゴゴゴ‼ ズガーーーーーーン‼


「どわぁーーーっ‼」


「ひゃぁ~! 助けてぇ~!」


 本当に床が崩れた! ボクたちは下の階へと墜落ついらくしていく!


 下を見ると、二階の床も崩落ほうらくしていた。


「う、うわぁ~! まっさかさまだぁ~!」


 ボクが悲鳴を上げると、カナちゃんが「二人とも、わたしにつかまってください!」と言い、ボクとタタリ王子の体をつかんだ。女の子なのにすごい腕力わんりょく


 三階から二階、二階から一階へと落下していく中、カナちゃんはボクたちを両肩りょうかたにかついだままクルクルと回転して、無事に一階に着地ちゃくちした。スタントマン顔負けの身体能力しんたいのうりょくだ!


「ノゾムく……げふん、げふん! ノゾミちゃん! だいじょうぶですか⁉」


 すぐ近くには、二階から落下したらしい姫乃ひめのちゃんや俊介しゅんすけ水野みずのさん、織目おりめさん、ミイちゃん先生たちがいた。もちろん、周作しゅうさくさん、ナンバーセブンさん、服部はっとり重蔵じゅうぞうさん、とどろき熊太郎くまたろうさんたちななみん親衛隊もいる。それに、お母さんやお姉ちゃんまでもが……!


「助けに来たよ! 葉月はづきはさすがにあぶないから家に置いてきたけど!」


 お姉ちゃんがピースしながらニヤリと笑った。


 よかった……。二階から落ちたのに、みんな奇跡的きせきてきに無事みたいだ。どうやら、身体能力と腕力が超人なみにすごい姫乃ちゃん、ナンバー7さん、服部重蔵さん、轟熊太郎さんがみんなをかついで着地してくれたらしい。屈強くっきょうなおじさんたちにまじって、姫乃ちゃんがたくましすぎるけど。


「姫乃ちゃん! 俊介! お母さん! お姉ちゃん! ……みんな!」


 ボクは涙ぐみながら、みんなのもとにかけよった。とても大事なものが頭からずるりと落ちてしまっていたことも知らずに……。


「え……? か、かつら? おい、ノゾミ! おまえ、その長いかみはかつらだったのか⁉」


「ほえ?」


 タタリ王子のかなり動揺どうようした声を聞き、ボクは自分の頭をぺたぺたとさわった。


 ……ない。ウィッグがない!


「しまった! さっき落下した時にウィッグがぬげちゃったんだ!」


 まずい! 男たってばれちゃう!


「おまえ、なんでかつらなんかしていたんだ? 別にショートヘアでもかわいいのに」


 ……と思ったら、タタリ王子は女装じょそうだと気づいていない様子。


 そ、そうか! ボクがあまりにもかわいすぎて、ロングヘアのかつらがぬげたていどでは男だと気づかないんだ!


 ふぅ~。一瞬いっしゅんばれたかと思ったけど、一安心ひとあんしんだ。ボクが絶世ぜっせいの美少女(♂)で良かったよぉ~。さて、どう言ってごまかそうか……。


「ばれたら仕方しかたありません! ノゾミちゃん……いいえ、ノゾムくんは男の子なんです!」


「え⁉ ひ、姫乃ちゃん⁉」


 ボクが言いわけを考えていたわずかな時間に、姫乃ちゃんが爆弾発言ばくだんはつげんをしていた。


「な……なん……だ……と……?」


 姫乃ちゃんの驚天動地きょうてんどうちな告白に、タタリ王子は顔を真っ青にしておどろく。


姫路ひめじ。別にばれていなかったのに、ばらしてどうする」


「え! そうだったんですか⁉ ど、どうしよ~う!」


 俊介に冷静にツッコミを入れられて、姫乃ちゃんは頭をかかえて大声を上げた。横では織目さんが「ヒメヒメは相変わらず、早とちりだなぁ~」と言ってあきれている。


「そんな……ノゾミが男……男……男……」


 う、うわぁ~……。タタリ王子、顔面蒼白がんめんそうはくになってるぅ~……。

 無理もない、女嫌いの王子が初めて好きになった美少女が実は男だったんだから。ちょっと同情どうじょうしちゃうよ。すべての元凶げんきょうはボクなんだけどさ……。


「ノゾミちゃんが男だと⁉ おのれ! よくもわたしの息子をだましたなぁ~! 許さんぞ、日本人ども!」


 ボクたちがショックを受けているタタリ王子になんと声をかけようかとなやんでいると、どこからかはげしくいきどおった声が聞こえてきた。これは、ウシミツドキ国王の声だ。


 国王はどこにいるのだろう。ボクたちがボロボロになった屋敷を見回していると、がれきの山がガラガラと大きな音を立ててくずれ、その中からウシミツドキ国王が出てきた。しかも、超巨大なクマの肩に乗って。


「く、クマーーー⁉ なんでクマがこんなところに!」


 どう見ても、クマの中で一番でかいとされているホッキョクグマが子供あつかいされるぐらいでかいじゃん! もしかして、全長ぜんちょうで四メートルぐらいいってません⁉ ギネスの世界記録に申請しんせいしなきゃ!


「気をつけて、ノゾムくん! あの巨大クマとの激しい戦いのせいで、屋敷やしきはめちゃくちゃになったの。服部重蔵さんが投げた爆弾ばくだんをあのクマがはじき返しちゃって……」


「服部重蔵さん! 屋敷内でそんな過激かげき武器ぶきを使っちゃダメだよ! 忍者なんだからもっと忍べ!」


「め、面目ない。しかし、あのクマはそれがしが刀で切ろうが、ナンバー7どのがじゅうとうが、はがねのようにかた剛毛ごうもうに守られていて、かすり傷ひとつつかないでござる! あらゆる物理攻撃はまったく通用つうようしないと考えたほうがいいでござる!」


「わたしも必殺のかかと落としをお見舞いしてやろうとしたんだけど、垂直すいちょくびで二メートルしか飛べないわたしのジャンプ力じゃクマの頭に届かなかったの……」


 銃弾じゅうだんがぜんぜんきかない剛毛ってどんなのだよ!


 あと、垂直跳びで二メートル飛べる人類じんるいって姫乃ちゃんだけじゃないの⁉


「くっ……。世界中のあらゆるクマと戦って勝利してきたオレですら歯が立たないんだ。あのクマはただものじゃないぞ……」


「轟熊太郎さん……。あなた、小学校教師なのに、どうしてそんなにクマ退治たいじ情熱じょうねつやしているんですか?」


 ダメだ。ななみん親衛隊と姫乃ちゃんが一堂いちどうかいすると、ボクのツッコミが追いつかない……。


「フッフッフッ……。生身なまみの人間がこのクマに勝てるはずがないだろう。こいつは、毒草どくそうや毒キノコ、毒沼どくぬまでいっぱいのチィスウタロカ山脈さんみゃくのきびしい環境かんきょうで育った世界最強のクマなのだぁ!」


 ウシミツドキ国王が不敵ふてきな笑みを浮かべながら、そう言った。


 チィスウタロカ山脈……ち、血ぃうたろか⁉ ひ、ひぃぃぃ! そんなおそろしい名前の山脈があっただなんてぇ~! しかも、毒だらけの山とか危険すぎる! やっぱりこわいよ、ウラメシヤ王国! この分だと、クマの名前もすごくヤバイんじゃ……。


「その名も、チワワ・キュンキュングマだ! 『チワワ・キュンキュン』とは、ウラメシヤ王国の言葉で『おまえはもう、あの世に行っている』という意味だ! どうだ、おそろしいであろう! フハハハハ!」


 ……チワワがキュンキュン? 意外いがいとかわいい……。


「このクマはわたしのペットで、わたしの言うことしか聞かない! わたしの息子をだましたヤツらなど、このチワワ・キュンキュングマのエサにしてやる! さあ行け、チワワ・キュンキュングマ『ニクキュウ』!」


 ニクキュウ……肉球にくきゅう? それがこのクマの個体名こたいめい? うわっ、めっちゃかわいい。


「ノゾム。名前のかわいさにえている場合ばあいじゃないぞ。ヤツは、名前からは想像そうぞうできないほど凶暴きょうぼうだ。気をつけろ」


 俊介にそう言われて、ボクはハッとわれに返った。

 あ、危なかった。かわいいもの好きの性格のせいで、あやうくクマの名前にキュンキュンしながら食い殺されるところだった。


「ぐわぁぁぁーーー‼」


 ニクキュウはヨダレをだらだらとたらして、その巨体からは想像できないすばやさでボクたちにせまってきた。これは逃げないと本気で殺される!


「み、みんな! 早く逃げ……うわわっ!」


 逃げようとしたボクは、小さながれきの石でつまずき、ドテーンとこけてしまった。こ、こんなときにドジっ子属性ぞくせい発揮はっきしている場合じゃないのにぃ~!


 逃げおくれたボクは、ニクキュウにつかまってしまった!


「の、ノゾムくん!」


「ノゾム!」


「ノゾムちゃん! 逃げて!」


「馬鹿クマめ、弟をはなせ!」


 姫乃ちゃん、俊介、お母さん、お姉ちゃんがほぼ同時に叫ぶ。


 あわわ……。ぼ、ボク、クマに食べられちゃうのかな……。


 そりゃないよぉ~! 女の子だと勝手にかんちがいしたタタリ王子やウシミツドキ国王が悪いのに、なんでボクがクマに食い殺されなきゃいけないのさぁ~!


「がるるぅ~!」


「ひ、ひぃぃぃぃ‼」


 ニクキュウにすごい力で抱きしめられたボクは、目をつぶって死を覚悟かくごした。


 ああ……。せめて、死ぬ前に姫乃ちゃんとデートしたかったなぁ……。食い殺されるって、すごくいたいんだろうなぁ……。


 ボクはそんなことを考え、ウルウルとひとみをうるませながら、自分の「死」の瞬間しゅんかんを待っていたんだけど――。


「ぺろぺろ、ぺろぺろ。くぅ~ん……」


「ほ……ほえ?」


 なぜか、ニクキュウはかわいらしいき声でボクのほっぺたをべろべろとなめていたのである。


 あれ……? もしかして……なつかれている?


「いったい、どういうこと⁉」


 水野さんがおどろいてそう言うと、姫乃ちゃんが「わかったわ!」とさけんだ。


「ノゾムくんがかわいいからよ! ケモノでさえ戦意せんいを失ってしまうほどノゾムくんがかわいいから、あんなふうになついているのよ! 『かわいさ岩をも通す』ということわざ通り、ノゾムくんのラブリーな外見がいけんが、あのクマのハートをちぬいたんだわ! すごい、すごい! さすがは世界一かわいいアイドルななみんの息子、ノゾムくん!」


「もはやなぞの理論りろんすぎてついていけない……」


 ミイちゃん先生がポツリとそうつぶやき、水野さんと織目さんがウンウンとうなずいた。


「ば……馬鹿な。凶暴なクマをかわいさだけでしたがわせてしまうなんて……」


 ウシミツドキ国王がわなわなと声をふるわせながらそう言うと、お母さんがウフフとほほ笑んだ。


「その昔、わが国の偉人いじん聖徳太子しょうとくたいしはこう言いました。『かわいさをもってとうとしとなせ』と。かわいいものには、だれもさからえない。これこそがクール・ジャパンです!」


「よっ! さすがはオレたちのアイドル・ななみん! 良いことを言うぜ!」


 周作しゅうさくさんがほめそやし、お母さんはフフーンと自慢じまんげに胸をそらす。


「あの……聖徳太子が言ったのは『和をもって貴しとなせ』なんですが……。それに、クール・ジャパンってそういう意味では……」


 ミイちゃん先生が小声でそうツッコミを入れていたけど、だれも聞いてはいなかった。


「ウシミツドキ国王。あなたがたを守っていた警備部隊けいびぶたいは、あたしのななみん親衛隊がやっつけました。凶暴なクマさんも、ノゾムくんのかわいさの前にひざをくっしました。あたしたちの完全勝利ですね♪ ノゾムくんは返してもらいますよ?」


「ふ、フン……。男だと知っていたら、この少年を誘拐ゆうかいなどしなかったわい。さ、さっさと連れて帰れ! われわれはもう国に帰る!」


 ウシミツドキ国王はカンカンに怒っている。でも、おおぜいのななみん親衛隊に包囲ほういされているため、くやしくてもなにもできないようだ。


「さあ帰ろう、タタリ王子! ……そういえば、王妃おうひはどこだ? まだがれきの中にうまっているのか? おーい、クチサケ王妃ぃ~!」


「オレは……帰らない。まだ、日本にいる!」


「王子。おまえも母さんを探し……え? 帰らないだと⁉ な、なぜだ!」


 ウシミツドキ国王はタタリ王子の言葉におどろき、目を丸めた。ボクたちも「え……?」とつぶやきながら、タタリ王子を見つめる。


「おまえの初恋はつこいの相手は男だったんだぞ? 妃になれない男には用はない。早く国に帰ろう」


「嫌だ! オレはそれでも……男でもノゾミが好きだ! 男が、かわいい男の子を好きになって、なにが悪い!」


「は? ……はぁぁぁぁ⁉」


 ウシミツドキ国王はおどろきのあまり、危うくひっくり返りそうになった。


 ボクも、ひっくり返りそうだ。


「お……おい。王子よ、気はだいじょうぶか? しっかりしろ! 相手は男……」


「男がかわいい男の子を好きになっても、なにも悪くはありませんよ」


「お、王妃⁉」


 いつの間にかウシミツドキ国王のうしろにいたクチサケ王妃は、慈悲じひ深いほほ笑みをたたえながら、「ようやく見つけることができた、あなたの大切な人なのです。思うように生き、愛しなさい」と言った。


性別せいべつなんて関係ありません。人を愛する気持ちを知って、人間は成長できるのですから。ノゾミちゃんへの愛を通して、わがままで鬼畜きちくなあなたも少しはマシな人間になれるでしょう」


 すごくいいことを言っている……と思ったら、相変わらず天然てんねん毒舌どくぜつだった。


「は……母上! ありがとう! オレ、がんばるよ!」


 いや……いやいやいやいやいや!


 おたがいに好き合っているのなら、男と女だろーが、男と男、女と女、なんでもありだとボクも思うよ?


 でも、ボクが好きなのは……。


「ごめんなさい! ボク、姫乃ちゃんのことが好きなんです!」


 ボクはせいいっぱい声を張り上げ、カミングアウトした。


 もうり回されるのはゴメンだ! ここでボクの気持ちをハッキリさせておかないと、とことん流されちゃう! みんなの前で告白こくはくするなんて、は、恥ずかしいけど、そんなことを言っている場合じゃない!


「の……ノゾムくん……」


 姫乃ちゃんはひとみをうるませ、顔を真っ赤に染めた。そして、体をくねくね、もじもじさせながら、「わ、わたしもノゾムくんのこと……」と言いかけた。


「待て! オレもノゾムのことが好きだぞ! ノゾムにとって女の子の中で一番の存在そんざい姫路ひめじでいいが、男の中で一番の存在はオレだ! だれにもゆずらない!」


「えっ、ちょっと、俊介くん。わたしがノゾムくんの告白に返事へんじしている最中さいちゅう……」


「タタリ王子になんて負けてたまるか! ノゾムの一番はオレだ!」


 いつもは冷静な俊介が、突然とつぜん興奮こうふんしてかたり出した。


 俊介、ちょっとだけ空気読んで? 今、姫乃ちゃんがものすごーく重要じゅうようなことをボクに言おうとしてくれていたんだよ? 俊介がボクの一番の親友だということは変わらないんだから、そんなにあせらなくても……。


「ノゾムくん×ヒメヒメは王道だけど、ノゾミちゃん×俊介くんもやっぱりいいわぁ~」


「うん! うん! とっても絵になるよね! 見つめ合っている二人の背後はいごでバラが咲いているのが見えそう! はわわわぁ~」


 ほらぁ~! 織目さんと水野さんがまた妄想もうそうをはじめちゃったじゃん!


「……この告白こくはく大会の流れに乗って、わたしも告白します! タタリ王子! 実はわたし、女なんです!」


「な、なにぃ~⁉ か、カナ・シバリ! おまえ、女だったのか!」


「はい! そして、ずっと昔からあなたのことが好きでした!」


「な、なななななななにぃぃぃーーーっ⁉」


 もう、何もかもがカオスだった。収拾しゅうしゅうのつきようがない。


 だ、だれかこのカオスな告白大会を止めて……。


「ウフフ。人間は愛に忠実ちゅうじつに生きたほうが幸せなのよーん♪」


 お母さんは楽しそうに告白大会の様子を見物している。

「いや……。みんな、少しは落ち着いて相手の話を聞いたほうがいいんじゃ……」とお姉ちゃんがつぶやいていたけど、激しく同意どういである。


 かくして、ぐだぐだのうちに「ノゾミちゃん救出作戦」は終了するのだった……。

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