エピローグ

結果はダメ金だった。

県大会に行くことは出来なかったが、最高の演奏だったと思う。涙を流す者が一人もいなかったので、きっと皆もそう思っているはずだ。

会場のロビーでミーティングをしていると、篤哉は桃花がいないのに気が付いた。こっそりと周りの目を盗んで桃花を探しに行く。

人気の少ない端の方で桃花の姿を見つけた。呼びかけようと挙げた手を、篤哉は咄嗟に引っ込める。

桃花は泣いていた。

かわりに側に行こうとしたが、桃花の隣に人影を見つけて足を止める。

「先輩、すみません。私、県大会行きたかったのに、行けません、でした」

樹は優しく微笑みながら桃花の頭を撫でる。

それを見届けてから篤哉は踵を返した。


ミーティングはまだ続いていた。篤哉は何事も無かったかのように輪の中に入る。すると隣の人に脇腹をつつかれた。篤哉は小声で制止する。

「やめろよ、零」

「どこ行ってたんだよ」

「ちょっとトイレに」

零は訝しげな顔をした。篤哉はおどけたように肩を揺らす。

「結果、どう思った?」

「まあ僕達にしては上出来なんじゃない」

零は相変わらずだなと苦笑する。篤哉は真っ直ぐ前を向いた。

「俺、ピアノ続けるよ」

零はちらっと篤哉を見る。

「そんで、音大に行く。お前もトランペット続けるだろ?一緒に行こうぜ」

「…考えとく」

零の返事はぶっきらぼうだったが、その目はどこか嬉しそうだった。


コンクールからの帰り道、篤哉はふと空を見上げた。星が遠くで瞬く、夏の夜空だった。その夏もあと少しで終わる。

篤哉は視線を戻して再び歩き始めた。

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リズム @Banana11061117

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