相対性持論

てこ/ひかり

相対性持論

 僕が小学生の頃、銀河の星屑を取った時の話、したっけ?


 知らないの? ウチの田舎だけかな……夏祭りの、星掬いの出店で星取り網を掲げてさ。夜空いっぱいに散らばった星屑目がけて、網を思いっきり振るんだよ。そうすると、星が取れる。取れた星はカゴに入れてさ。長いやつだと何百万年と光り続けるんだぜ。


 宇宙には珍しい星がいっぱいあるだろ。ガラスの雨を降らす星だとか、お酒をまき散らす星だとかさ。ホントさ。ウソだと思うなら、その手に持ってるやつで調べてみろよ。まあとにかく、当時小学生だった僕は、ナポリタン星が欲しかった。一日に一回、スパゲティナポリタンを作ってくれる星さ。それさえあれば、いつおなかが空いてもどうってことないだろう? 


 だけどナポリタン星が観られるのは、地球じゃ何千年に一度だった。

 その星を取るチャンスが、たまたま僕が小学生の時に巡ってきたんだ。

 定暦三〇四五年八月三十八日の、夜中の十時半から十時四十分の間。

 これを逃せば、次はいつ巡ってくるか分からない。

 僕はその年六月くらいから計画的にお小遣い貯めて、意気揚々と一回三百円の星掬い屋に向かったんだ。


 さて、いざ掬う段階になったけど、これが中々難しい。

 網は飴細工で出来てるんだけど、これが良く宇宙空間でふやけちゃって。

 高望みしなければ、近くの星は取れるんだけどさ。目当ての星を取ろうとすると、背の低い僕には結構大変だった。つま先で立って背伸びしても、全然届かなくって。次第に十時四十分が近づいてきた。

 

 僕は腕に力を込めて、めちゃくちゃに網を振りまくった。

 だけどナポリタン星は、僕の網を上手にふわっと避けて、遠くの方で橙色に淡く輝くだけだった。


 あとほんのちょっと、もう少しだけ時間があれば。

 僕は泣きそうになって、すがるような目でお店の人を見上げた。


 すると。

 

 あと五分だけね。


 そう呟いて、お店の人がちょっと楽しそうに笑った。

 それからひょいと先端に金網のついた長い棒でナポリタン星を捕まえて、僕が取りやすいところまで放り投げてくれた。おかげでナポリタン星の軌道は変わって、十時四十五分まで僕のすぐ近くで浮いてたんだ。



 これでこの話は終わり。

 

 終わり、なんだけれど……。

 

 きっとあのお店の人は、僕に会ったことすら含めて、全部忘れてるんだろうな。僕にしたって、あの人の名前も知らないし、道ですれ違っても気づかないと思う。


 だけど……。


 だけど、僕はいまだに、夏になるとあの人のことを思い出すんだ。

 もうナポリタン星は無くしちゃったけどね。

 家に帰って、次の日お父さんとお母さんと、みんなで食べたナポリタン、おいしかったなあ。

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相対性持論 てこ/ひかり @light317

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