6日目 闇に散る花火
今日は祖母の家の近所で打ち上げ花火をやるらしい。この花火大会というか、夏祭りで僕は彼女に会ったんだよな。いよいよ明日だ。明日が勝負なんだ。はぁ、本っ当に何も考えてない、ノープラン。しかし僕はノープランでどうにかなるような人生は送ってきてないんだよなぁ。
「悠、そろそろ花火上がるみたいだから焼き鳥は諦めたら?」
「うっ、焼き鳥…じゃあ今度お母さんが家で作って……」
「それは今後の悠の頑張り次第じゃない?」
その笑顔が怖いんだって!
「……ベンキョウガンバリマス」
そんな会話をしていた直後に花火が上がった。
ひゅうぅー……ドカーン……パラパラ、ひゅうぅー……ドッカーン……パラパラパラ……。赤・緑・青・黄・ピンクの光の粒たちがパッと光っては夜空に流れていく。
この音の繰り返しと大小様々・色とりどりな色彩の変化が風流だな、と感じる。……ところで風流ってなに? それっぽい、って感じじゃダメっすかね?
終盤に差し掛かれば差し掛かるほど花火の儚さは増していく――死ぬ間際の蝉のように、最後の時を迎えるまで力強く、そして儚く消えていく。
終わった後はなんとも言えない気持ちになるんだよね。僕は昔感動して泣いてしまって彼女に笑われたっけ。懐かしい。あれから随分経ったんだな。
そんなことをぼんやりと考えていると、突然母のスマホが鳴り出す。
「ハイもしもし……えっ、うん、ホントに……?嘘じゃないのね?!……うん、そう……」
なんだこの尋常じゃ無い感じは…ちょっと嫌な予感がするんだけど……。背筋に冷や汗が流れる。周りの空気が一気に10度くらい下がった?蛞蝓に背中を這われているかのような不快感が僕を飲み込んでいく。
そんな嫌悪感を吹き飛ばすように、母は僕に向かって叫ぶ。
「悠、美亜ちゃんが目覚ましたって!!」
――、は?
「うそ、だろ……」
「本当だって……叔父さんから連絡もらったの、4年間も眠ってたとは思えないくらい元気で病室走り回ってるって……」
普通なら4年間も眠っていたのならリハビリをするまではまともに動くことすら厳しいはずなのに、走り回ってるとはどういうことだ。……まぁでも数日前も蛍を見に行くときはしゃいでたっけ。
透明だった彼女が4年越しに目を覚ました。
透明な彼女こと、美亜は4年前の夏……中2の夏に川で溺れて意識を失った。それ以来一度も目を覚ますことはなかった……というのが、表向きの事情、母たちが知っていることだ。
しかし、僕は美亜が眠っている間にも、彼女と会っている。なんなら会話もしてるし、遊びにいったりもしている。
──彼女は長い眠りに耐えきれず、幽体離脱していたのだ。
そんな『透明だった彼女』と僕の夏が終わろうとしている。そう、闇に散ってゆく花火のように…。
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