15日後 再会


 僕が祖母の家とお別れをしてから2週間、やっと模試も終わってまた戻って来れることになった。


 叔父さんから聞いたのか、美亜とは連絡を取り合っていたから元気な事は知っている。それより、早く会いたいんだよ。



 祖母の家の近くの駅まで叔父さんが車で迎えに来てくれた。近いっていったってここから1時間はかかる。真夏の日差しは馬鹿にしちゃいけない。30分歩くだけで皮膚は軽く火傷を起こす。この炎天下で歩いてたら死ぬわ、叔父さんありがとう。



「おっす、悠、こないだぶり」


「やっほ、叔父さん。迎えに来てくれてありがとう」


「感謝しろー !つか暑いから早く乗れ!」



 叔父さんがはやくはやく! と笑いながら促す。僕は車の後部座席に荷物を放り投げて、しれっと助手席に座った。あー、冷房最高。文明の利器に感謝!



「叔父さんさー、あの看護師さんとはあの後どうなったの」


「……ノーコメントで……とは言えなさそうだな。あの後なー、色々あってなー」



 いやだからそこを教えてくれよ。



「あの看護師さん真紀まきさんって言うんだけどな、うちのエロ親父いるじゃんか」


「え、まさか……、エロジジィが言ってた美人さんって……」


「多分そうだ。それでエロ親父、『真紀さん、今日も綺麗だね』なんて言って口説き始めて、挙げ句セクハラし始めたから無理矢理追い出したわ。オカンに怒られればいい」


「セクハラって……、どんな?」



 いや、だって、ちょっと気になるじゃん?何したのあのエロジジィ……?



「胸とか触り始めたから俺は親父背負い投げして……骨折したから結局入院期間は長引くっつー──俺は勿論先生たちに怒られて減給処分ですわ。身内じゃなかったら減給じゃ済んでなかった」


「笑える話じゃねー、父親だったからまだよかったって話じゃんかー」


「そう、そんでそのあとも真紀さんに手出そうとする患者が耐えず……ぶちギレそうになってたのをお姉様方に見つかってだな……?」


「あー、察し。あのおばちゃん達強い」



 近所のおばちゃん'sはとにかく察しは良い、思ったことすぐ言う、口軽い、行動力滅茶苦茶ある──すなわち最強BBA(ばばあ)軍団なのである。



「んでんで?」


「まぁ色々あって、めでたくお付き合いさせていただくことになりましたー」


「ハイオメデトー」


「棒読みやめろよ! ほら、着いたぞ」



 約2週間ぶりの祖母の家。やっぱ落ち着くなぁ。僕の実家はこっちなんじゃないの?

 玄関で待っていた祖母に手を振る。



「ばーちゃんただいまー」


「おかえり」



 僕はだいぶ小さくなってしまった祖母に抱きつく。



「……ばーちゃん、また縮んだ?」


「そうそうヘルニアがねぇ……って何言わせんの!見たくない現実を見せないで!ほら、さっさと美亜ちゃんに会っておいで」


「分かった、行ってくるね!」



 着いて早々、促されたら反対することもないよな?というわけで僕は美亜に会いに行く。







 美亜とは事前に『あの公園で』と約束している。走って病院の方に向かうと、2週間前より既に肌は少し焼け、適度に筋肉も戻ってきたらしい美亜が日陰に座っていた。



「美亜」


「あっ、悠!おかえりー」


「ただいまー」



 あー、今日も可愛い。少し焼けて健康的になったのも良い、猫毛で色素の薄い茶色い髪もショート似合ってるしほんと可愛い。僕の彼女、最高か?


 ……なんて、口には出さないけどな。



「今日はどうする?」


「あぁかわ……」



 やっべ、やらかすとこだった。



「ん?」


「いや何でもねぇ。そういえば今日広場でお祭りあるんだって? あとで行こっか」


「うん!」



 とりあえず、一度二人とも家(僕は祖母の家)に帰って、夕方にまた集まることにした。うっへぇ、帰る道がもう地獄、女神のいない中でフライパンの上を歩いてるようなもんだって。




「あっつ、死ぬ、ただいまー」


「あれ、もう帰ってきたの」


「あとでお祭り一緒に行くことにした。叔父さんは真紀さんと行かないの?」


「……ノーコメント」



 はいコレ行くか誘えてないかどっちかだな(笑)まぁ叔父さんのことだから誘えてないんだろうけど、きっとあとで誘って一緒に行くんだろう。今日は確か二人とも非番のはず。



 台所の方からばーちゃんがひょっこりと顔を覗かせる。



「悠、今日お祭り行くの?」


「あーうん」


「あんたの浴衣あるから着付けてあげるよ。隆司たかしとお母さんのお下がりもあるけど嫌だろ? 新しく買っておいたんだよ」



 ……隆司って一瞬誰? ってなったけど、叔父さんか…ん、叔父さん??



「うぇ、叔父さん浴衣持ってたん?!」


「小さい頃のやつだよ。悠くらいの時彼女とお祭り行くから買えってねぇ」


「うっせ、オカンそんなこと言わんでいいから」



 黒歴史ワロタ。良い情報ありがとばーちゃん。



「ニヤニヤしてんじゃねーよ」


「いやだってぇ……いって、殴んなよ!」


「ほらほら二人とも、お昼ご飯にするよ」


「「はーい」」










 ***





 別に特段浴衣が着たかった訳では無かったのだけれど、ばーちゃんがせっかく買ってくれて着付けまでしてくれるっていうのに断るのも悪い気がして。思ってたよりサラサラとした生地が気持ちいい。……つか帯キツくね? これじゃあ焼き鳥食べれないじゃんか。



「悠ー、準備出来たー? そろそろ行こうよー」


「え、もう来たの?! ちょっと待って」



 お祭りには祖母の家からの方が近いから、美亜に来てもらうことになってたんだけど……はやくね?!



「えへへ、悠の浴衣見たくてはやく来ちゃった! すごい似合ってる!」


「恥ずかしいなぁ……美亜も似合ってるよ」



 美亜は白地にピンクや紫の蝶が描かれた浴衣だった。あぁ、彼女の周りだけ空気違うんじゃ無いかな、甘い香りしそう。キラキラしてる、滅茶苦茶可愛いしんどいむり……(笑)



「じゃあそろそろ行こっか!」


「ばーちゃん行ってくるね」


「はいはい行ってらっしゃい」




 外に出て、自然と手を繋ぐ。なんかくすぐったいなぁ。

 沈んでいく太陽に照らされ、何処かの家の風鈴の音と、カラコンコロンという下駄の音が混じり会う。ずっとこの時が続けば良いのに。そう願わずにはいられない。時間が止まって二人だけの世界になってしまえばいいのに。









「ねぇ悠?」


「なに?」



 突然彼女が僕に問いかける。



「来年も再来年も……10年後もこうして一緒にいられるかな?」


「僕はそうしたいよ──ずっと、美亜がおばあちゃんになっても、僕と一緒に居てくれる?」


「もちろん! ずっと一緒にいようね」



 周りに誰もいないことを確認してから、そっと彼女に口付ける。今日も甘酸っぱい微炭酸のようだ。僕は彼女に酔って溶けてしまいそう。



「さ、お祭り行こう!」


「うん」














 今日も僕の彼女は最高だ。



          Fin.


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