13

って、クソどうでもいい。


大和くんは真ん丸の目をしてから少し笑った。

「なんだ、会ってんじゃん」

「うん」

私は穴を開けたいくらい大和くんの瞳をガン見したけど、大和くんの目は泳がない。

「ぼろぼろだったでしょ」

「うん」

憎しみと、不穏な雷が私の心の中で暴れる。

「なんで?って、思った?」

「うん」

「あのね」

「大和くんさ」

「俺と智の問題だから」


私の心の鍵が閉ざされる音がして、同時にむかついた。

あーあ。むかついちゃった。

大和くんの声は優しかった。


なんでだろう。それからたまに大和くんはうちに居た。

私を殴ったりだとか、かじったりも、蹴っ飛ばしたりもしない。平穏。

智ちゃんは、しばらく連絡がつかなかった。電話をかけても、【ごめん掛け直す】って、返ってこないし。ただ、生きてるんだなって。私と大和くんは、付き合っていないし。たまに体の関係があるくらいで、毎回では無かった。智ちゃんともまだ付き合ってるみたいだったけど、セットで私の前に現れることは無かった。

やっぱり

私はさらに智ちゃんを嫌いになった。心配で、わけわかんなくて、生きてて、死んではいなくて、幸せなのかもわからない。


その日は、

その日はすき焼きにしようと思ったので、たとえ大和くんがうちに来なくてもそれは変わらないので、スーパーで材料を買って歩いていた。ただそれだけ。

それだけ。ちょっと買いすぎたかも、袋の中身が重たかった。ただそれだけ。

智ちゃんから電話が来た。

私は、しばらく硬直した。なにいまさら、っていうのと。生きてたんだやっぱり。っていうのと。気づいたら「生きてたんだ」っていうのが私、心のどこかで、「智ちゃんはいつか死ぬ決定」の判を押してたのか。その最後に私が居ないことだけがむかついて拗ねてたいるのか。意味不明。最低だ。


智ちゃん、大和くんがうちにたまにきてるって言ったっけ?

「はい」

恐る恐る電話に出ると

「あ、きいだ」

っていつもの声がした。

これはいつもの声であってたんだろうか。

「どうしたの」

「いや、元気かなって」

「は?」は?

「いや、しばらくだね、ごめんね」

「心配したよ」私のことなんて忘れてたんじゃね?

「連絡しようと思ってたの」

「生きてたのかよ」死んでるのも想像したよ

「生きてたよ」

「智ちゃんはいつも肝心なことを言わない」お前ら二人で私をばかにしてる

「きい」

「なに」わたしは

「怒ってるの?」

「おこってないよ」おこってるよ

「きい」

「だから、なに」


「助けて」





遅いよ。


遅いのは私だ。


まだ形になってないすき焼きとまだ切れてない電話という仲間を心で引きずり回しながら、私は智ちゃんの家に走った。涙で溺れた。


鍵は開いていて、智ちゃんの家の中は真っ暗だった。一気にドアを開けた瞬間、大和くんの匂いがして吐きそうで、部屋に入ってくと智ちゃんは傷だらけで大和くんは居なかった。

智ちゃんは前の倍くらい傷が付いていてボロボロで、喉からヒューヒュー変な音が出ていた。

涙でぐしゃぐしゃの私は智ちゃんを抱きしめると、智ちゃんは苦しそうに咳をして何も喋らなかった。目も開かない。

私は急いで救急車を呼び、智ちゃんをできるだけ動かさないように抱きしめてたら

「きい」

って智ちゃんが言った。


「強姦に合ったの」


って掠れた声で

「私は強姦にあった」

ってまた大和くんの匂いのする部屋の中で呟いた。

私の部屋も、もう大和くんの匂いがするんだろうか。「あ、なんか大和の匂いする」って智ちゃん言うのかな。

智ちゃんの顔に最悪な傷が付いてるのを見て、それを私は触れなかった。涙が止まらない。

救急車の中一点を見つめて、喋らなくなった智ちゃんの音を聞きながら私は


心で自分の臓器を煮詰めて食べた。


ひりひりひりひりひりひり

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せいしゅんゆうじょうきせきこい 青井鼠 @aoinezmi

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