今日降らないよ?

 大学3年の秋。

 私は未だに友達がいない。

 人見知りでコミニュケーション能力が無い上ビビリである。

 大学なんて友達が自然とできると思っていたけどそうでは無いらしかった。

 と、今更ながら思う。

 入学当初は話しかけられたりしたけど、みんなサークルに入ったりして行くうちに離れて行ってしまった。


(私といるよりサークルの人といる方が楽しいんだろうな)


 学食でみんなで仲良く食べているを見ていると切なくなる。いつの頃からかすれ違っても挨拶すらしなくなっていた。

 私が緊張しちゃって1回スルーしちゃったのが原因かもしれないけど。


 サークルさえ入ってれば違ったかもしれないけど、勧誘もされなかったし自分から行く勇気が持てず、その内と思ってる内にタイミングを逃した。


 そんなこんなで今日も1人で授業を受ける。

 もちろん席は前の方。後ろは賑やかな人たちがいて居心地が悪い。

 そして出来れば隣は空席の場所が良い。


 いつものように前から3列目で隣に誰もいない席に座った。

 授業が始まって10分くらいすると扉がゆっくり空いて、茶髪の男が静かに入ってきたと思ったら私の隣の席に来た。


「この席座って大丈夫ですか?」


 小声で問いかけてくる。勿論私には席を取っといてあげる様な友達はいない。


「はい。」


 小声で軽く頷きながら答える。本当は嫌だったけどそんな事言えるはずもない。

 茶髪男は座るといきなり寝だしてしまった。

 そして、授業が終わるチャイムが鳴るとまだ先生が話しているにも関わらず帰る支度をする。

 こういうタイプは嫌いだった。そんな度胸は無いが説教したくなってしまう。

 授業が終わり茶髪男はすぐ席を立ち帰ろうとしていたが、ふとこちらを見ると、不思議そうな顔をして動かなくなった。


(え?何?怖いんだけど……。)


 私は急いで片付けて席を立ち出口へ急いだ。


「ねぇねぇ!」


 茶髪男が声をかけて来た。

 私は恐る恐る振り返り返事をする。無視して陰口言われるのはボッチといえど辛い。


「はぃ。」

「なんで傘持ってんの?」

「いや、天気予報で雨降るって言っていたので……。」


 なんだそんな事か。と一瞬安堵するが質問して来た意味がよく分からず混乱した。


「今日は1日晴れだよ!雨は明日じゃないの?」

「え? そうなんですか? そういえば誰も持ってませんね。見るとこ間違えたのかも」

「あははは!今気付いたの!?もう4限だよ!おねぇさん友達いないでしょ?」


 間違えただけでそんなに笑われる筋合いは無い!それに冗談のつもりかもしれないが本当に友達のいない私にとって最後の一言は刺さった。


「すみませんでした。」

「いや、ちょっと!」


 私はちょっとキレ気味に謝ると、静止する茶髪男を無視して教室を出た。

 傘を持っている事が恥ずかしくなり5限は出ずに急いで家まで帰った。


 次の日、今度こそ雨が降る日だと確信して傘を持って家を出る。


(よし!みんな傘持ってる!)


 学校に着くなりしっかりチェック。

 今日は2限からなので授業を1つ受ければもう昼休みだ。

 学食へ向かいお気に入りのカツ丼セットを注文。空いてる席へ座る。


「あ!傘子さん!」


 嫌な声がした。茶髪だ。


「隣座っても良い?」

「はぁ。」


 適当に返事をする。


「昨日は何か変な事言っちゃったみたいでゴメンね。俺は3年の佐久間龍太!よろしく!」

「どうも。」

「いや、傘子さんの名前教えてよ」

「はぁ。」


 教える気は無かった。当然仲良くなる気などさらさらない。


「龍太〜一緒に食べよー!」


 サークル仲間だろうか。派手な女子3人とチャラチャラした男が2人龍太の周囲に座る。私の目の前には派手な女子が来た。


「この子誰?友達?」

「おう。授業一緒で昨日ちょっと話したんだよね!」

「あ、もしかして昨日言ってた傘子さん!?」


 コイツはあの程度の会話でも友達になるらしい。そして昨日のことを言いふらしているらしい。


「名前なんて言うの?」

「知らない。今聞いてるとこ。」

「何それ。早く教えてあげなよ〜。傘子さ〜ん。ねぇ傘子さ〜ん。」


 女の子達が私を囃し立て始めた。だんだんイライラして来て我慢できなくなって来ていた。


「あの……」

「やめろよ!そういうの苦手な子だっているんだからさ。言いたくないならそれで良いじゃんか。無理に聞くことないよ。ごめんね?変なあだ名もつけちゃって。もう呼ばないよ。」


 私は急に茶髪、いや龍太さんに庇われ面食らった。名乗らないのは失礼だっただろうか。


「いえ、こちらも名乗らずすみませんでした。私は水野清香って言います。」

「清香ちゃんか!よろしくね、きよっち!」


 そのあだ名センスはどうなのだろう。


「はい、よろしくお願いします。」


 それからというもの、学食や授業、龍太さんは私を見つける度に寄ってくるようになった。私は相変わらず塩対応。

 本当はもっと仲良くなりたいのに上手く喋る事が出来ない。


「ねぇねぇきよっち。」

「はい。」

「いつまで敬語なの?タメ口でいいんだよ?」

「あぁすみません……」

「まぁいいや、今度の土曜日遊びに行かない?きよっちの好きな所でいいからさ」


 突然の誘いに戸惑う。


「いえ、私が行くと他の皆さんが戸惑うと思うので遠慮させて頂きたいです。」

「ううん。2人で。」


 余計意味が分からなかった。

 私はずっと疑問に思っていた質問をぶつけて見る。


「なんで私を誘うんですか?もっと仲良い人いますよね?私があの時傘を間違えて持ってたのがそんなに可笑しかったですかね?」

「いや、そうじゃなくて……。」


 なんだか止まらなくなった。龍太の事は庇ってくれたあの時からもう嫌いじゃない。いつも1人でいる私を気に掛けてくれるのも実は凄く嬉しかった。

 学校行くのが楽しみになったし、私からもこっそり探すようになっていた。

 龍太を見つけると自然と笑みが零れた。

 でも、だからこそ、ずっとせき止めていた心の中で抱えている不安、疑いが爆発する。


「貴方みたいな人が私と仲良くする理由は何ですか?からってるんですか?裏でみなさんで笑ってるんですか?ボッチが珍しいですか?」

「違うって!!聞けよ!」


 突然大きな声で静止され驚いて黙ってしまった。


「も〜しょうがないな〜予定が狂うけど、俺さ〜一目惚れだったんだよね。あの日教室を出ようと思った時に何故かふと隣見てさ。そしたら何かビビッと来て……でも話す事ないなーと思ったら傘見つけて……。」


 この人は何を言っているのだろう。理解が追い付かない。


「えーと。そのー。きよっち?大丈夫?」

「あ、はい。すみません。えと……。」

「本当は土曜日言いたかったんだけどここまで言っちゃったから。

 清香さん、もしよかったら付き合って下さい。」


 訳が分からない。好きってなんだ私には分からない。

 でも心が熱くなった。

 人種が違いすぎて考えないようにして来た気持ちが湧き上がって来た。

 涙が溢れて来ていた。


「は、はい……よら、よろしく、お願いします。」


 私らしくない。ボロボロと泣きながら、つっかえながら返事をする。

 なんでこんなに嬉しいのだろう、なんで嬉しいのに涙が止まらないのだろう。


「本当に!?やった!!!あときよっち、傘持ってるけど今日は晴れだよ」


 また間違えて傘を持っていた私に悪戯っぽく教えてくれる。


「ううん。目の前が水でいっぱいです。これは大雨が降っている証拠です」


 まだ涙が止まらない。訳の分からない事を言ってしまった。


「本当だね。」


 龍太は私の傘を取ると私達の顔が隠れるように傘をさした。

 唇には柔らかな感触。

 雨が止んだ。

 そして、これまでに無いくらい晴れやかな青空が広がっていた。

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花山パンダ @amesp

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