番外編
1000%の衝動に当然のように負ける女
こんにちは、石井です。
突然ですが、私達はいま真剣に話し合っています。教室内にはもう私達以外の生徒居ません。私の机の上に、二人で肩から太ももまでくっつけて座っているのです。だというのに甘い空気になることもなく、もの凄く真面目な表情で、ぐっと眉間に皺を寄せて、睨み合うように互いの目を見ています。
「悪いけど、これは譲れない」
「いや譲るとかじゃないから。石井の意志は関係ない」
「ある。あんまり私をバカにしない方がいいよ」
「バカのくせに」
「抵抗したって無駄だよ。私は諦めるつもり、ないから」
「じゃあ無理矢理私を組み敷いてみたら?」
「それは無理ですごめんなさい平和的に解決したいです」
負けました。私は手で顔を覆って「うおおお」と言いました。別に頭おかしくなったりしてませんよ。相応の理由がちゃんとあるんです。
最近、長谷川は大会とかで忙しくしていました。それはもう、私なんか日によっては7時くらいまで待ってたり。先に帰れって強く言われていますよ。いまのところ無視してますけど。だって、二人でゆっくりできないんだから、一緒に帰る時間くらい大事にしたいじゃないですか。
っていうか私は家に帰っても勉強くらいしかすることないしっていうかほとんど勉強すらしてないし、きっと先に家に帰っても「やっぱり長谷川の部活終わるの待って一緒に帰りたかった」って後悔するからいいんです。あと、家にいると母に家の手伝いやら色々やらされるので。
先週末、その大会がやっと終わったんです。そして、明後日は長谷川の親のいない日。あとは分かりますね?
もう、ここでえっちしなかったらいつするの、今でしょって感じじゃないですか。絶対にしないといけないタイミングだと思うんですよ。だって私、2週間くらいおあずけ食らったんですよ? 自分でびっくりしてますもん、2週間も長谷川とえっちしなくても死なないんだって。まぁそろそろしないとマジで死にますけどね。
だというのに。
だ と い う の に 。
なんと長谷川は、その日は駄目って言うんです。意味分かります? 私は分かります、普通に理由を説明されているので。だけど、それに納得できないので、こうやって食い下がっているんです。
「ねぇ、長谷川」
「だめ」
「好き」
「そんなこと言っても無理なもんは無理なんだよ!」
しつこくしていると、有り難いことから長谷川からげんこつを頂きました。軽く脳が揺れましたが、軽くなのでまだ良しとしましょう。酷いときなんて、ふらってなるんで。
「私がイヤだって言ってるのに、石井は無理強いするの?」
「うん、ごめんね」
「反省したりしろよ」
長谷川は呆れた顔をしていますが、無理です。それはあんまりにも無理です、無理パーセント100って感じ。
「私は石井が期待してるだろうなと思って、あらかじめ伝えてあげただけなんだよ。検討の余地はないの、わかる?」
「分かんない」
「分かれよ、真っ直ぐな目で言うなよ」
長谷川は額を押さえて呆れているようです。まぁ呆れるでしょうね。できないって言われてるのに、ここまで駄々をこねられたら普通にウザいでしょうし。でも、私は長谷川の見立てが間違ってると思うんです。
「だって、明後日だよ? 四日目でしょ。絶対大丈夫だって」
「無理だってば。そりゃ二日目とかに比べたらアレだけど、普通にまだ出てるし」
何の話かもうお分かりでしょう。そう、長谷川は昨日から生理らしいです。今だって若干しんどそうです。いつもよりも顔色が悪い感じがしますね。だからあんまり今の彼女に負担をかけたくないんですが、明後日はえっちできないとか言われたらそれはもう駄目ですよね。全面戦争ですよね。だって私は明後日えっちするために生まれてきたんですから。
「長谷川……」
「そ、そんな目で見られても、無理だってば」
「なんで……?」
「じゃあ聞くけど、アンタが逆の立場だったらいいよって言うの?」
「言、」
あぶない。あぶなすぎる。うっかり「言うわけないじゃん」って普通に答えそうになってしまいました。これは長谷川の作戦です。「嫌なんじゃん、私だって一緒」って言うための前フリなのです。つまりここで私が言うべき台詞は一つ。
「言うよ。いいよ」
「はぁ!? 正気なの!?」
「うん。私はいいよ。だから、長谷川も、ね?」
「はぁー……分かった」
やりました。やりましたよ、みなさん。私、勝利を勝ち取りました。良かった……明後日えっちできなかったら死ぬところだったから……私、まだ生きてていいんだ……。
「アンタ次の生理いつだっけ?」
「え」
「石井は生理中にされてもいいんでしょ? だからいつだったか聞いてるんだけど」
「いや、違うじゃん。実際するかっていうのは、また別の話じゃない?」
「ううん。あと、石井がどう思おうが、私は嫌だから。石井は嫌じゃないみたいだからさせてもらうけど、私はさせないから。分かるよね」
「じゃあいいよって言い損じゃん!!!」
酷いです。っていうか、普通に私にそういうことしようとする長谷川が若干怖いです。なんか、特に最近、隙あらばって感じなんですよね。私だって嫌なんですけど、ほら、私って力じゃ敵わない系女子じゃないですか。だから、はぁ。
私はわりと本気めの半べそをかいて長谷川の腰に手を回しました。肩に軽く触れて、顔を覗き込んでみます。もうどうせ誰もいないし、いいですよね。
「ちょっちょっと、誰かに見られたら」
「別に、いい」
「……石井っ」
「うぉー……ん、えっち、したいよぉ……」
「一瞬でも真面目なアンタの顔にドキッとして損した」
私は背を丸めて、長谷川の胸に顔を埋めて泣きました。
あれ? 私の真面目な顔にドキッとしたってことは、ずっと真面目な顔してたらえっちさせてくれる? いや、絶対させてくれない、もう長谷川に聞くまでもなく分かる。スルーされて、真面目にしてるとすら認識されないまま終わる。
長谷川をなんとか論理的に説得しないと、絶対にさせてもらえない。それはこの流れで理解できました。泣き落としでいけるんじゃないかと、正直期待してましたけどね。駄目みたいですね。
「じゃあさ」
「なに。っていうか、石井、離れて」
「……離れたらえっちさせてくれる?」
「離れたら殴らないでおいてあげる」
私は身の危険を感じてさっと離れて、さきほど”じゃあさ”と言いかけた言葉の続きをして見せます。何か、そう。
グ
グ
る
のです。
「えーと、生理 早く終わらせる方法 と」
「そんなんで本当に出てくるの?」
「え、すご」
「なになに?」
「昔の人って三日くらいで生理終わらせたらしいよ」
「えっ、嘘でしょ?」
「でも書いてあるよ」
私はスマホの画面を長谷川に見せました。そこには確かに、昔の人はそこに力を入れて経血を出す術を身に付けていたと書いてあるのです。
「まぁ……確かに、生理用品とか無かっただろうし、長引いたらウザいだろうね」
「長谷川、これ実践できないの?」
「いや、無理でしょ」
「股間の鍛錬を積んで、ね?」
「いや、私がワガママでやりたくないって言ってるみたいな説得の仕方してるけど、いきなりそんなこと言われても無理だろ、分かれよ。っていうか股間の鍛錬ってなんだよ、お前ちょっと積むところ見せてみろよ」
長谷川は呆れながら、じりじりとスマホをスクロールさせていきます。私も隣でそれを見ていると、いま、え、ちょっと、見間違いかな? っていう単語が視界に入りました。
「……ないな」
「いま、長谷川でもできそうなの、あったよね」
「ない」
「あったでしょ」
「ない!」
長谷川は顔を真っ赤にしてかなり強めに私の指摘を否定します。このリアクション、やっぱり今の見えてたんだ。私は長谷川の手からスマホを取り返すと、スクロールを少し巻き戻します。
「これ」
「……や、やだ」
「なんで?」
「は、はぁ!?」
「私は長谷川としたいのに。これで早めに終わらることができたら、それが叶うのに。なのに嫌なんだ」
「……嫌な言い方するなぁ」
「そりゃするでしょ。ね」
「……やだ」
「……長谷川は、私のこと、嫌い?」
もう一押しだ。なんとなく本能的にそれが分かりました。だって、長谷川の顔が真っ赤になってるし。許してくれる時の顔をしている気がする。
「ねぇ」
「本気で言ってんの?」
「うん。だって私、明後日絶対えっちしたいし。私は別にそのままでも全然構わないけど、長谷川が嫌だっていうから対策取ろうとしてるんじゃん」
「……まぁ、そうなんだけど」
「そんなに嫌?」
「生理中に一人でするって、もう罰ゲームの類いだろ」
「でも書いてあるよ」
そうです、なんと書いてあるのです。一人えっちすれば、子宮が収縮して月経が促進される、と。まぁ本当かどうか分からないですけど。でも長谷川が一人でそんなことをしてくれるなんて、とてもエロいので大歓迎です。
……あれ、本当にそうでしょうか。長谷川だって久々なはずなのに。久々の長谷川といちゃいちゃする手が私のものじゃないっておかしくないですか? ……いや、おかしいですよね。え、おかしい。おかしすぎる。
「石井? どうしたの?」
「長谷川の手に嫉妬してる」
「頭大丈夫か」
「長谷川! 一人でするとき、私の手使って!?」
「ばーーーーか! 声デカいし! まだするなんて言ってないし! っていうかそれもう一人でするって言わないから!」
長谷川は顔を真っ赤にして私に食ってかかります。だけど、ここで抗議を止めるわけにはいかないのです。権利というものは、勝ち取る為に存在すると言っても過言ではありません。
「絶対動かさないから! 手の神経切れたみたいな感じで大人しくしてるから!」
「じゃあその手でする前に針でブスブスッって刺していい?」
「駄目だけど!? なんでそんなことすんの!?」
「それでホントに動かさなかったら使ってやるよ」
「ぐっ……!!! 分かった!!!!!」
「了承しないでよ」
長谷川はため息をつくと、じゃあ明日すると呟きました。長谷川オナニー長谷ニーやったーーーーーーーーーーー!! という気持ちと、本当の本当に私がするのは駄目? という気持ちがベイブレードみたいにキンキン! ってぶつかって同時に場外に弾き出されました。
「百歩譲って、長谷川が自分の手でするのはいいけど、明日だけじゃなくて今日もして」
「はぁ!? っていうか百歩譲ってそれって、石井調子に乗ってない!?」
「乗ってないよ! 私は明後日、確実にしたいもん! これで当日「やっぱり無理、今日できない」って言われたら、私はきっと死ぬよ!?」
「……死ぬわけないだろって断言できない勢いなのが怖い」
私は改めて説明しました。明日の夜だけじゃなくて、二日に渡って身体に働きかけた方が効果があるであろうことを。
理に適っていると思ったのでしょう、長谷川は再び深いため息をついて、長い長い沈黙のあと、耳まで真っ赤にして「分かった」と言ってくれました。
翌朝、トイレから教室への道すがら、長谷川と廊下で会うことができました。おはようと挨拶すると、視線を逸らされ、気まずそうな顔をされます。何そのお通夜フェイス。
そのまま歩き去ってしまったので、居ても立ってもいられなくなった私はスマホを取り出し、指が風圧で千切れるんじゃないかって勢いでフリック入力をします。これも日々の”ググり”の賜物ですね。
メッセージアプリを取り出して、一番上にいる、つまり間近に連絡を取り合った長谷川の名前をタップ。素早く今の気持ちを文章にして送信!
「あ、既読ついた」
気付くと、彼女にすぐにメッセージを読んでもらえた喜びが口に出ていました。
「長谷川さん?」
私の顔と手元を交互に見て、そう言ったのは栄子さんです。そうです、私には長谷川とお母さんと姉くらいしかメッセージをやりとりする人がいないので。だけど、それを認めるのは少し恥ずかしいので、ちょっと笑って誤摩化してみます。
すると、すぐ後ろを歩いていた日比谷さんが明るい表情で言いました。
「石井ちゃんメールする相手なんていたんだ!」
「ねぇ」
彼女の中で私はなんなんでしょう。いるよ。いますよ。三人もいるんだから。甘く見ないでね。
悲しくなりながらスマホの画面を見ると、長谷川から返事がきていました。彼女はかなりドライというか、多分文章を書くのとか得意じゃないんでしょうね。重たい感情をぶつけるわりに、メールの文面は素っ気ないことが多く、既読を付けるだけ付けておいて、会ったときに返事をしてくる、なんてことも結構あります。
ちなみに、私が送った文面は「私なんかした? あと昨日一人でした?」というものです。朝っぱらから彼女に送る文面として、これほど最低なものはないと思います。でも、限界だったんです。
本当は昨日の夜、12時くらいに「ちゃんとしてる!? 今してる!?」とメッセージを送りたくてたまらなかったんですが、それをぐっと堪えたんです。私が何かやらかしたか聞くついでに、約束の行動について合わせて訊いてしまうのは、もはや自然の摂理です。
二つ質問したら一つくらい答えてくれそうじゃないですか。どちらを答えてもらえても私は嬉しいです。本当は両方答えて欲しいですけど。私は逸る心を押し殺しながらスマホをタップします。これで”死ね”なんて返事が来てたらショックで本当に死んでしまうかもしれません。
『死ね』
ねぇいま私そういう返事来てたら死ぬって思ってたところだからやめて。死ななきゃいけなくなったじゃん。
腕に抱きついてくる日比谷さんを無視したまま、私は「酷くない!?」と送ります。もうそれ以外の感想がないですよ。教室に到着したので、私は自分の席に座って返事を待ちました。
しかし返事はきません。既読はすぐに付きましたが。それだけです。結局、その日は放課後まで、長谷川と言葉を交わすことはありませんでした。
「今日は5時まで。教室に戻ってくるの面倒だから、それくらいの時間になったら昇降口に居て。じゃ」
「待ってよ。今日素っ気ないじゃん」
「別に」
「返事くれないし。なんならここで答えてよ。した?」
「死ね」
ホームルームが終わったばかりで活気付いた教室。部活に雑談に、思い思いに生徒が過ごす中、久しぶりに私達が交わした会話はこれです。しめは死ね。
日に二回も彼女に死ねって言われる女、なかなかいないだろうなぁ……。
教室に残った子達と適当に会話をして過ごし、私は時間を潰しました。最近、友達が増えたせいか、時間を潰すのが苦じゃありません。いや、前までだってそんなに嫌じゃなかったんですけどね。長谷川のこと考えながら長谷川のこと待つって、それはそれで楽しいですし。
でも、こうやってだらだらと人と話したり、時にはちょっとした用事に付き合ったりしながら過ごした方が、健全そうではあります。
長谷川はそういう私を見ていてイライラすることもあるらしいですが、かと言って長谷川の為に全てを捨てる私なんて見たくないでしょう。さじ加減が難しいなぁと思う今日この頃です。
時計を見ると、そろそろ5時になる頃でした。私は一緒にいた面子に軽く挨拶をすると、教室から出ます。
真っ直ぐ昇降口に向かうと、そこには既に長谷川がいました。私の方が早いと思っていたのに。っていうか、これは変ですね。おかしいです。まだ5時になってないし、どうやらたった今ここに着いた感じでもなさそうです。
「長谷川、来てたんだ」
「……うん」
「なんで終わったって連絡くれなかったの?」
「え? あ、あぁ……ごめん。帰ろ」
本当に怖いんですけど。長谷川がこんなずっと冷たいって、実はあんまりないです。あったとしても私が明確に怒らせていたりで、何かしら理由があったことしか。身に覚えのないことで冷たくされたまま、一日が終わろうとしているなんて、これまで一度もありませんでした。
「待って。ちゃんと説明して」
「石井……?」
「朝から変だよ。私、何かした?」
「そ、それは……」
「あとさ、昨日一人で」
「死ね!!!!!!!」
長谷川は私の顔面に鞄を投げつけると、先に行ってしまいました。私は長谷川の鞄も持って靴を履き替え、ドアを開けると彼女の背中を追うように駆けます。と言っても遅いんですけどね。
「ほんっと最低。誰かに聞かれてたらどうすんの」
「長谷川の言うことも尤もだけど、私は最初にメールで聞いてるじゃん」
「うっ……」
「そのときに長谷川が返事をくれていれば、私だってあんなところで聞いたりしなかったよ」
長谷川は言葉に困って俯いています。というか珍しいです。私達がこんな力関係になるの。こうやって正論を突き付けるのはどちらかと言うと、長谷川の仕事でしたから。仕事っていうか、私が脱線したり意味分かんないことばっか言うからなんですが。
こうして話してみて、やっと自分の気持ちを少しずつ知っていきます。そっか、私、怒ってるんだ。冷たくされたことは、別にいい。怒ってるっていうか、悲しいって気持ちの方が強い感じ。それよりも、イライラしてることがある。
「長谷川」
「……なに?」
「もういいよ」
「えっ?」
「隠さなくていい。長谷川は、最初からしたくないって言ってたし」
「は、はぁ? なにが?」
「一人でしてないんでしょ。だから私を避けてる」
「なっ……」
「でもさ、長谷川、するって言ったじゃん。いやだけどいいよって言ったじゃん。やらないんだったらさ、いいよなんて言わないでよ」
そう、私は長谷川が期待させるだけさせといて地上3500メートルくらいの高さから地面に叩き付けるような真似をされたことに怒っているのです。
だって昨日の夜やらなかったら、それって絶対今日の夜もやらないじゃん。明日までになんて絶対終わってないじゃん、つまりエッチできないじゃん。
いくら私でもこれだけお預けくらった上に、楽しみにしてたエッチが中止になったら怒るよ。私がどんだけ長谷川とえっちしたかったと思ってんの。絶対分かってない、本当にムカつく。
「期待させるだけさせといてさ! 私がどんだけ長谷川とえっちしたかったと思ってんの!? これえっちできないじゃん! えっちしたいのに! このままじゃ!」
「道端でえっちえっち言うな! 黙れ!!!」
薄い鞄の鋭い面で切るように頬を打たれると、私は電柱に激突しました。だってしたいもん、したいもん。こうなったら長谷川の生理が終わってなくても誘ってみるしかない、当日の予定について考えていると、長谷川は周囲をきょろきょろと見てから、私に耳打ちしました。
「……したよ」
「えっ」
「だから、したってば……」
長谷川は顔を赤らめながら私の脛をタコタコ蹴っています。手持ち無沙汰な感じなのは分かるけど普通に痛いからやめて。
「ホントに? じゃあなんでいままで黙ってたの?」
長谷川との距離をつめ、小声でも会話できるようにしてから聞きました。あと蹴られるのを回避する目的で。
したっていうの、そんなに恥ずかしかったんでしょうか。いや恥ずかしいでしょうけど。でも、なにも、ここまで恥ずかしがります?
「……石井のこと、考えながら、した」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………そっか」
あっぶな。一瞬死んでた。だって。え、こんなこと言われると思ってなかったんですけど。私のこと考えながらした? 天使か? 類い稀なるご褒美じゃん。無理。しかもそれで今晩も一人でするんでしょ?
もう普通にえっちしたい。今したい。すぐしたい。血とかどうでも良くない? 一人で血流してるの恥ずかしいなら私も今から気合いで生理になるし。
「石井、やっぱ引いてる……?」
「あっ、いや、ううん、ちょっと動揺しちゃって」
「ホントに……? 気持ち悪いって言われるかと思った……」
「そんなこと言うわけないじゃん! なんで朝からそっけなかったの?」
「だ、だって、なんか、顔合わせにくかったっていうか……」
長谷川のこの気持ちには全く共感できないっていうか、意味が分かりません。私の顔を見たら昨日一人でしたこと思い出した的な? はぁ? エロ漫画擬人化か?
私がイマイチ長谷川の気持ちを理解できずに、難しそうな顔をしていると、彼女が言いました。
「だって、罪悪感? みたいな。あと普通に恥ずかしいっていうか、なんか後ろめたんだよ!」
「なんで?」
「……石井は、私でそういうのしたこと、ある?」
「……まぁ、うん」
元々一人でするとかAV観るとか色々言われてるというかバレているので、この辺はあんまり隠しません。さらっと流しちゃった方がいいことって、世の中にはあると思うんです。私はさっと肯定して長谷川の出方を見ます。
「その次の日とか、顔合わせにくいじゃん」
「え? なんで?」
「……じゃあ聞くけど、私のこと考えて一人でした次の日も、ケロッとした顔で私と普通に話してるの?」
「うん」
「きもい……」
「この流れは酷くない!!?!?」
ひどすぎる。
それとこれとは別じゃないですか? っていうか罪悪感ってなんですか? どんだけエグい妄想に耽ってたらそんな感情湧くんですか?
っていうか長谷川でした翌日に気まずく思うって、それすごい頻度で顔見れなくなるんですけど。そんなのいちいち気にしてたら身が保たないですよ。
まぁ長谷川はほとんど経験がないというか、前にこういう話したときはしたことないなんて言ってたし、きっと初めてだったんでしょうね。……いや、私、彼女にすごいことさせてません?
「あー…その、ごめん。一人でするの、初めてだったんだよね?」
「え、え? いや、初めてではないけど」
「……でも、初めてえっちする時さ、したことないって言ってたじゃん」
「……はぁ?! 死ね!!」
見ました? 今の完全に逆ギレですよ。
ついぽろっと言っちゃったんですよ、多分。長谷川ったら、いつの間にそんなこと経験してたんですか……?
あとこの人何回死ねって言うんですか?
「恥ずかしいのは分かったけどさ。いつから?」
「……っさいなぁ。別にいいだろ」
「良くないよ、教えてよ」
「帰れよ」
「帰ってるよ」
「今日の石井なんか生意気なんですけど!!」
「そうかな」
私が生意気っていうか、長谷川の余裕がないだけだと思うけど。私の質問攻めが辛かったのか、何故か涙目になって私の服の裾を掴んでいます。多分無意識です、これ。私は服の袖を長谷川の好きにさせ、顔を覗き込みました。
「今日もしてね」
「……分かってるよ」
「今のうち言っとくけど、明日出来なかったら本当にそのときは長谷川の股からっていうか私の手首から血が流れることになるからそれだけは肝に命じておいて」
「死ね死ね言ってた私が言うのもなんだけど、軽率に死のうとするなよ」
翌日、お泊まり当日の放課後、私はドキドキしながら自分の教室にいました。ホームルームから自分の席に座りっぱなしです。朝、長谷川に聞いたときは「うぅん……まだちょっと様子みさせて欲しい」という返答をもらっています。様子見た結果、どうだったのか教えて欲しい。
だけど、それで「ごめんやっぱ今日無理ね」と言われたら、もうそれって死ぬしかないじゃないですか。本人にどうだったか聞く事ができず、結局彼女の部活が終わる時間帯になっています。
机に突っ伏して頭の上に手を置いて、ぐぇーとかうわぁとか言っていると、勢いよく教室のドアががらっと開きました。
「は、長谷川」
「お待たせ。石井、行きたいとこあるんだけど、ちょっといい?」
「う、うん」
本当にすごい勢いです。私の手を掴むとズンズンと大股で歩いていきます。どこに行くんでしょう。あ、外ですね。これ外だ。靴を履き替えたと思ったらまたズンズンですよ。
まぁいいんですけどね、私は。長谷川と手を繋いでズンズンするのも。結構人に見られてると思うんですが、彼女はどこに行こうとしているのでしょうか。
ズンズンの先に見えてきたのは、ドラッグストアでした。
「……え、何するの? あ!」
私はピンときました。血は止まらない。だけど私が自害を決行してしまうからえっちはするしかない。つまり消去法で、長谷川はゴムを買いに来た、ということになります。というかゴムなら、私が握り拳を買った時のものが残っていたというか使わずに置いてあったと思いますが。
「ちょっとどこ行くの?」
「ゴム、こっちの方にありそうじゃない?」
「はぁ? 石井はゴム欲しいの? まぁ買えばいいけどさ」
「長谷川がゴム探してるのかと思ったの! 私自身は要らないよ! いっつも生だもん!」
「店の中でおっきい声でゴムとかナマとか言うなよ!!!!」
長谷川は私のつま先を踵で踏んで歩き去っていきました。足の痛みが回復してから彼女の姿を探すと、なんと生理用品のところにいました。うぅん? もしかして、切らしたとか?
あんまり気にしたことなかったけど、長谷川ってどのメーカーのナプキン使ってるんだろう。センターインのハネ付きとかかな。よくわかんないけど。運動する人ってハネ付き率高くない? そうでもないかな。いいな、私も長谷川のセンターにインしたいな。いや今のはあまりにもキモ過ぎるな。
「あぁあった」
「……なに、それ」
彼女が手にとっていたのは、見慣れない箱でした。貸してと言って持ってみると、結構重い。ずっしりとしています。サイズ的には生理用品とそんなに変わらないんですが。
「これ、お前買ってこい」
「え!? 私が!?」
「石井がしたいっていうから買うんだから」
「えぇ……これ、中に何が入ってるの? もしかしてローターとか?」
「ナプキンの隣にそんなもん売ってたらヤバい店じゃん」
いいから早く買ってこいと背を押され、私は訳も分からないままレジに並びます。前に三人待っているので、その間に渡されたこれがなんなのか、箱の裏を見てみることにします。
キュアシャワーと書かれたそれは、手の中に収まるボトルが4本と、ノズルが入っているらしいです。ノズル……?
え、これ、何? 飲むの……? え、え、え、あそこに入れるの……? どういうこと……? そういうプレイ……?
「お次の方どうぞー。……お次の方どうぞー」
「あ、はい!」
結局それが何なのか知る前にレジを済ませ、袋に入れられた商品を受け取ります。黒い袋です。生理用品買ったときと同じ扱いです。なんと……。
でも入れてもらったそれをわざわざ袋から出して確認するのもなんだし、私はとりあえず入り口で待っている長谷川の元へと急ぎました。
「買った?」
「買ったよ、ほら」
「んじゃ家行こ」
私達は並んで歩き始めました。長谷川は俯き気味で、表情はあまり見えません。ただ、なんとなく、少し緊張しているように見えます。
「ねぇ長谷川、これ何?」
「キュアシャワー」
「知ってるよ、箱に書いてあったもん。私はこれが何をするものなのかって聞いてるの」
「はぁ……膣内洗浄だよ」
「ちつないせんじょう!!?!?!」
「声がデカいんだよ!!」
私は長谷川のローキックを食らいながらも、とんでもないものを買ってしまったという高揚感に心が満たされていました。
そうしてググってみました。なるほど、生理後半になると子宮から降りてくる経血はなくなり、膣内に残った経血が排出されている場合がある、と。
つまり、既に蛇口は締められてるんだから、あとは残ったのをささっと処理しちゃえばOK、ってことですね。
え……ってことは、さっき箱の裏に書いてあったノズル、あれ本当に中に入れるの……?
悶々としていると、長谷川の家に着いてしまいました。私達は慣れた様子で誰もいない家に入り、長谷川の部屋のドアを開けると、とりあえず鞄を置きました。
ベッドに座ってもう一度キュアシャワーの箱を見つめます。長谷川は、なんとも微妙な、なんとなく嫌なものを見るような顔をしています。なんかうんこになった気分になるからその顔で私を見るのやめて。
「開けていい?」
「石井が買ったんだから好きにしなよ」
「じゃ、じゃあ」
私は恐る恐る箱を開くと、中からボトルとノズルが出てきました。え、ノズル結構長い……これ長谷川の中に入れるの……?
「さっきあんたもググってたけど、その、そういうことだから。貸して」
「はい?」
「いや、使ってくるから。分かるでしょ」
「いや分かんないけど」
「はぁ?」
長谷川は私を威嚇するように声を荒げます。だけど私は怯んだりしません。っていうかおかしくないですか? 長谷川こそ、自分がおかしいことを言ってるって気付かないんでしょうか。
「さっき言ったじゃん。これ買ったのは私なんだから。私が使うのが筋でしょ」
「なんでだよ、私の体に使うんだし私が自分でやりたいって思ってんだから、石井は黙って待ってるのが筋だろ。そんなに使いたいなら自分の体でやれ」
「そうですね」
論破されてしまいました。彼女の主張に反論できなかったんです。私は箱を長谷川に渡すと、いそいそと部屋を出ようとする彼女のあとをつけました。
「なんで付いてくるの?」
「トイレに行くんだよね?」
「当たり前じゃん。リビングでこんなのやったら頭おかしいじゃん」
トイレにつきました。ドアの前で、長谷川はしっしっと手を払います。彼女は何をしているんでしょうか。早く膣内洗浄とやらをおっぱじめて欲しいんですが。
「……石井、まさか」
「何?」
「……見るつもりでいるの?」
「当たり前だよね。長谷川は私の買ったキュアシャワーを自分の体だから自分で使いたいって言ったよね。私には自分で買ったキュアシャワーが正しく使用されるか確認する権利があるよね。長谷川の体には触れることはないんだし、長谷川に拒否権はない筈だよね」
「ガバガバ理論がガバガバ過ぎてもうホラーの域なんだけど」
彼女は呆れた表情で私を見つめます。今更私にそんな視線、全然効きません。……嘘です、結構効いてます。でも、ここで引いてしまったら、恐らく一生後悔します。こんなシチュエーション滅多にないでしょうし。
「いいじゃん。見せてよ」
「……石井、今回は妙に押しが強いね」
「長谷川が私のこと焦らすからこうなってんじゃん」
「はぁー……」
長谷川は大きなため息をつくと、手にしていた箱からボトルとノズルを一つずつ取り出します。透明の液体が入ったボトルの蓋を外してノズルに付け替えると、もう一度私の方を見ました。
「……こんなの見て楽しい?」
「うん。すごいドキドキする。できればその、こっちに見えるように、便座に全力で凭れるように座って欲しい」
「お前のためのショーじゃないんだよ!」
長谷川は私の頭にグーを振り下ろすと、ショーツを下ろして便座に座りました。そうしてすぐに異変に気付きます。
「ナプキン血付いてないじゃん!」
「……私が下着下ろした瞬間ナプキンの様子を観察するとか本当の本当にキモ過ぎる」
「そういう言い方やめて!? 私だって普段そんなの見ないもん! でも今はそこが一番大事みたいなとこあるじゃん!?」
私は慌てて弁明します。いくら彼女の家が豪邸とはいえ、二人で喧嘩するにはトイレは狭過ぎます。長谷川は「もう分かったからあっち見てろ!」と言って、私の肩を持って強引に反転させました。おかげで、ドアと見つめ合う格好になっています。しかし私には問わねばならないことがあります。
「血、出てないじゃん。中洗う必要ある?」
「部活だったからタンポン入れてんだってば。女のくせに察し悪いな」
「私が女性の中でも底辺であるというようなディスはやめていただきたい」
「急にどうしたんだよ」
私達は視線を交えないまま話をします。途中でべりっとか、からからとか、とにかく長谷川が準備している音が聞こえてきます。生々しくてちょっとえっちです。しかし、こんなところでエロさを感じているとバレたら、おそらくまた軽蔑されるでしょうから黙っている他ありません。
綺麗な状態とはいえ、ナプキン処理してるところなんて、見られたくないでしょうしね。え、よく考えたらすごい嫌だな。私だったら、長谷川がすぐ目の前にいたら、絶対にパンツ下ろさないな。
こうして考えてみると、長谷川の大きな愛に触れたような感じがしますね。まぁ私はこれくらいじゃ満足しませんが。どうしても長谷川が中を綺麗にしてるところを見たい。その為の準備と思ってこの時間を過ごしていましたが、おや……?
私がわざわざ背を向けているというのに、いちいち知らせますかね。もうこっち向いていいよって。見られるの嫌がってた長谷川が。
私はものすごい勢いで振り返りました。そこには空になったキュアシャワーのボトルを持つ長谷川がいました。
「っっっっっきゃーーーーーー!!!!!!」
「うるっさ……なに?」
「なんで!? 私に見せてくれるって言ったじゃん!」
「言ってないよ。頭と耳と心大丈夫?」
「そんなにたくさん心配してるのは嬉しいけど、私の心は膣内洗浄を観察できないことで傷付いているよ!!」
「違うよ。お前の心はその前から壊れてたよ。あとポジティブな解釈やめろ」
長谷川は淡々とした表情でボトルを生理用品を捨てる汚物入れに捨てながら、私の顔を見る事すらせずに言いました。頭をフル回転させます。そうして私はある可能性に気付きました。
「ちょっと待って!」
「……いや、下着戻したいんだけど」
「だめ!!」
声を大にして長谷川に注意すると、私は箱に入っていた説明書を取り出しました。白い紙を広げると、そこにはキュアシャワーの使い方が。その全てに数秒で目を通します。私のスケベパワーの成せる技と言えるでしょう。スケベ速読です。
そして私は新しいボトルとノズルを箱から取り出しました。長谷川の制止も振り切って、先ほど彼女がしたように準備をします。
「……何してんの?」
「長谷川、説明書ちゃんと読んだ?」
「読んでないよ。石井だって見てたじゃん」
「ふふ、だろうね、だろうとも。この説明書を見て。ノズルに開いたたくさんの穴から液が出てるよね」
「……まぁ。それがなに?」
「長谷川が膣内洗浄ったことに気付かなかった要因の一つとして、水洗トイレを流した音にかき消されていたというのがある。つまり、長谷川は私に気付かれないように静かに、音を立てないようにボトルを握ったということ」
「確かにそうだけど、膣内洗浄ったって言うのやめろよ」
「そしてサイレントモードで長谷川はビデったワケだけど、それには大きな問題があったんだよ。何かというと、水圧。強めに握って中を洗い流した方がいいに決まっていた、そうだよね? だというのに、控えめな勢いじゃビデ
「ビデったもやめろ。あとビデ
長谷川は私の話を聞き終わると、腕を組んで、トイレに座ったまま私を見上げました。
「……まぁ、そうかもしれないけど。でも」
「綺麗にしたいって言ったのは長谷川だよね」
「したじゃん」
「本当にいいの? まぁ私は別にいいんだけどね。長谷川の経血が手に付くくらい。元々その覚悟だったし。っていうかえっちできるならなんでもいいし」
「石井のくせに……!」
ここで「だから、していいでしょ?」と聞いてはいけません。何故か。簡単です、ダメって言われるからです。絶対にそう言われます。伊達に長いこと彼女と付き合ってません。長谷川がこういう場面で簡単に折れない子だっていうのは、さすがに理解しています。
だから私は長谷川の肩に手を置いて、顔を覗き込みました。そのまま後ろのタンクに背をつけるようにそっと押して、ボトルを持つ私の手は下へと降りていきます。
「ちょっ、石井」
「大丈夫だよ、すぐ終わるし。っていうか早くえっちしたいし」
自分でもびっくりするくらい、今日の私は強引です。やっぱり焦らされると爆発力がつくんでしょうか。
長谷川のそこを指でなぞって軽く場所を確認します。私の腕を掴む手に力が入ったのを感じながら長谷川の顔を見ると、下を向いていました。自分がされてることをガン見してるワケじゃないです。自分の身体や私から、視線を逸らすように斜め下に向けられていたのです。ちょっとむすっとしてます。これは”オッケーの時の顔”です。間違いありません。
私は指をガイドにしながら彼女のそこにノズルの先端をあてがい、中に挿入しました。長谷川は諦めたようで、私の首に手を回しています。顔が見れないのは残念ですが、目が合った瞬間殺される気もするので、これで良かったのかもしれません。
ノズルの根元はストローのようになっており、多少角度を付けることができるようになっています。とりあえず奥まで挿れようとボトルを押していくと、何かにぶつかったように手が止まりました。それと同時に、長谷川の体がびくりと強張ります。首を抱く腕の力が一層強くなり、それまでギリギリで保っていた私の理性は、そこでいとも容易く崩壊しました。
ぐりぐりと中をかき回すようにボトルを動かし、ノズルの先端で長谷川の体を内側から撫でていきます。彼女の手がようやく私の首から離れて、その手で肩を押すように掴まれます。こうなると予想が付いていた私は、彼女の抵抗を無視して、ボトルを思い切り握りました。体が反応して長谷川が無力化した隙に、彼女の手から逃れて片膝をつきます。
「ちょっ、石井っ……!」
「ごめん」
空いた方の腕を彼女の腰に回して体を密着させると、さすがの長谷川も簡単には引き剥がせないみたいですね。ノズルを引き抜くと、適当なところに投げ捨てて、私は今の今まで異物が入っていたそこに指を差し入れました。液体2本分を受け止めた中はひんやりしています。普段は体験しない不思議な感覚です。
長谷川は抵抗することも諦めたのか、私の頭を抱えるように胸に押し付けています。普段のえっちでは、彼女の服は脱がれているか最低でもはだけているので、こうしてしっかりと服を着ている状態でするのは、なんだか新鮮です。シャツの上からでも分かる彼女の胸の柔らかさと、甘ったるい匂いが、私から判断力や、なけなしの彼女への配慮なんかを奪っていくようです。
暴走しながらも、妙に冷静に状況を見ているもう一人の私が居て、そっちの私が彼女の腰を抱いておく必要はないと囁きます。手を離してみると、長谷川はそれに気付かない様子で可愛らしい声をあげていました。消えてしまったと思っていたはずの何かが、完全に吹っ飛んだみたいです。
空いた手を伸ばして、何かを掴み、体勢を少し高くすると、私の指はさらに奥へと潜っていきます。腰をこちらに向けるように、恥ずかしい格好になってしまっている長谷川ですが、今はそんなことを気にする余裕もないようです。
目が合うと、長谷川は羞恥を、私は勝手さを誤摩化すように舌を絡ませました。その瞬間、バキッという音が鳴った気がしましたが、完全に火が付いた私達がトイレを出ることになったのは、それからしばらく後でした。
****
「あのさ、いや、うん。えっとさ」
「本当にごめんなさい。本当の本当にごめんなさい」
私はトイレの足を置く狭いスペースで正座していました。本能のままに長谷川にえっちなことをしたことについて、ではありません。長谷川の家の便座の蓋を破壊したことについて、誠心誠意平謝りしているのです。
「プラスチックじゃん。割れたら取り返しつかないじゃん」
「み、見て! ネットにプラスチック用の接着剤あるよ!?」
私はスマホの画面を長谷川に見せつけて、何とかなるということをアピールしてみせますが、彼女の反応は冷ややかです。
「縁が割れただけならそれでどうにか出来るかもしれないけどさ。言っとくけど、フタ完全に取れてるからね」
「ここが折れちゃっただけだから、多分つけた状態でここを接着すればなんとかなるよ!」
「あんたが直せるならそれでいいかもしれないけど……ネットで買っていつ届くの?」
「えーと……最短で明後日……」
「それまでどうやって誤魔化すの?」
「フタ無いことに気付かない可能性もあるよね?」
「ねぇよ」
彼女はぴしゃりと言い放つと、深いため息をつきました。私と付き合ってること自体に後悔してそうなリアクション傷付くからやめて。
自分のスマホをポケットから取り出すと、長谷川は私の腕を掴んで立たせました。
「行くよ」
「え、どこに?」
「接着剤買いにだよ。分かるでしょ」
「え、でもまだえっちしたい……」
私が言い終わると同時に長谷川は私のネクタイをきゅっと引っ張って顔を引き寄せます。ねぇ、苦しい。苦しいから。
「文句あんの?」
「ないです……」
こうして私達は、せっかくのお泊りの時間を削って、プラスチック製品に使える接着剤を探す旅に出ることになりました。翌日、二人共寝不足だったのは、言うまでもないことでしょう。
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