キラキラ宝石

綿麻きぬ

キラキラと濁り

 あぁ、あの子はキラキラしてるな。


 私は人がキラキラしてるのを見ることができる。そのキラキラが最初は何だか分からなかった。


 いつだったかな、それが今その人が持っている大事な物だってことが分かった。それはとてもストンと私の中に落ちてきた。それと同時に私はキラキラがないことに気がついた。だって、見えないだもん。


 あぁ、あの人は濁ってる。


 濁りも見える。キラキラが濁っている。それは、なにか嫌な感じがする。そして、それは人に移って行く。私にもきっと移っている。見えないだけで。


 あぁ、私の隣の同僚は一杯キラキラしている。それに濁ってもいない。


 きっと大事な物が一杯あって、嫌な感じではないのだろう。何がそうしてるのか。きっといい人生を送ってきたのだろう。羨ましい。


 あぁ、私が濁っていくのが分かる。


 いつからだろう。こんなに濁ってしまったのは。あの時かな、などと言う時期はない。いつの間にか濁っていった。


 ただ、私にもキラキラしていて濁ってない時期があったのは覚えてる。きっと遠い遠い昔だろう。


 そういや、昔は手に一つ、小さな小さなキラキラがあったな。まだ、小さい小さい時に。


 それからキラキラは増えていって、両手に一杯になった。小さい小さい時からいくらかたった時に。


 それから少したった時に一つこぼれ落ちた。それはそれはショックだった。大事な物が一つなくなったのだから。


 それからというもの、増えてはこぼれ落ちて、増えてはこぼれ落ちた。その時には何が無くなって何が増えたのか、もう分からなくなってしまった。


 それに気がついた時、私は何かを得て失った。それで何をしたのか?キラキラを全部捨てたのさ。


 その後は濁っていく。ただひたすらに。今じゃもう真っ黒。濁っていることにすら気がつがないほどに。


 あぁ、もう私はキラキラを持てないのかな。


 そんな事を思いながら私は同僚を見る。それに気がついた同僚は私を見返す。


「何か付いてる?」


「何も。」


 羨ましくて、素っ気なく返事をする。


「そうかい。」


 同僚は私の素っ気ない返事に素っ気なく返す。いっそ、このことを言えたらな。


 私は言うつもりなどないのに口走った。


「あのやっぱり、付いてる。」


「ふーん。何が?」


 素っ気ない返事に私は口走った事を後悔した。なんて返事をしよう。言ったってどうせ分かってもらえないことは分かってるのに。


「キラキラが。」


 分かってもらえないことを知ってるのにまた、口走ってしまった。


「どんな?」


 返事がきたことに驚いて私は思わず答えてしまった。


「濁ってないキラキラが一杯。」


「ふーん、そっか。」


 やっぱり信じてくれない。誰も、絶対。また、私の心が濁っていく。


「僕はキラキラしてるのか、そんな感じに君からは見えるんだね。だとしたら、君はいったい何を見てるのかな?」


 私にそんな事を言う人は初めてで、何を言えばいいのか分からなくなってしまった。いつもは冗談に思われるのに。


「わ、わたしは、」


 必死に言葉を絞り出すが出てこない。そんな私を見かねてか、同僚は私に声をかけた。


「君は自分が見たものに捕らわれすぎてないか。君が見ているものが全てではないと思うけど。」


「でも、私は、」


「じゃ、僕の話をしようか。」


 それはまるでキラキラが一杯の生活だった。でも、それは濁っていた。


「分かったか?君の見ているキラキラは最初は本当にキラキラだったかも知れない。でも途中からキラキラとされているものしかキラキラに見えてない。」


 それは分かっていた。でもそれに気づいてしまったとしたら、私はもう成り立たない。だから、見て見ぬふりをして生きていたというのに。


「ついでに僕には君がキラキラして見えるよ。」


 なんで?なんで?私がキラキラしてるの?


「なんでだろうね?僕は知ってるけど、教えられないよ。それは君が気づくべきものだから。でもね、君は変わったんだよ。さっき、僕に話してくれた時からね。」


 どういうこと?どうして?


「せっかくだから、仕事終わったらご飯食べに行かない?君がキラキラするようになったお祝いに。」


 私はよく分からないまま、首を縦に振っていた。


「では、決まりだ。早く仕事を終わらせよう。」


 仕事を終わらせてる途中にふと時計を見た。そこには反射した私が映っている。私は小さな小さなキラキラが一つ輝いていた。


 あぁ、私はキラキラを持てたんだ。

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キラキラ宝石 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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