穢れた英雄の妹
西桜はるう
穢れた英雄の妹
とある路地裏の行き止まり。
片手にピストル、片手にソードを持ったエヴァは息を切らすことなくただ黙って立っていた。
ことが終わったのだ。
エヴァの仕事が。
「残念だったね。兄さんに関わらなければもう少し生きてられたのに」
エヴァの足元に転がっているのは、今しがた生きていた商工会議所の会長だ。
体はピストルで蜂の巣され、ソードで首が切り落されている。
「エヴァ、終わったか?」
まるで何かの見物に来た面持ちで、エヴァの兄・グリーンがそばに寄ってきた。
「終わった」
「うわぁ、派手にやったなあ。見るも無残ってこのことだな」
「兄さんの邪魔になる奴だからね。これくらい派手にやらないと」
「さすが英雄の妹。お前のおかげで俺の周りは俺を崇めてくれる奴らばかりになった」
「兄さんのためなら」
エヴァの仕事は、『英雄』と崇められる兄のグリーに刃向かう人間を闇に葬ることだ。
死体は容易に見つかる場所に移動させ、見せしめにする。
そして、グリーンを自然と崇めるように仕向けるのだ。
グリーンはたしかに英雄としての活躍は目覚ましかった。
人々を食らうドラゴンも退治した、腐敗した政治を粛正し街に活気を取り戻した。
人々はグリーンを本当に英雄を讃え、崇めた。
それでもやはり、グリーンをよく思わない人間も当然のごとく現れてくる。その人間たちをグリーンはさらなる活躍で納得させるのではなく、妹に闇に葬らせることを選んだのだ。
少しでも不審な動きをすれば消される。
「今回はどんな噂を流そうか?」
エヴァはサッとソードを振り、血を振り切りながらグリーンに訊いた。
「そうだなあ。こいつ、何したんだっけ?」
「裏社会に根回しして、兄さんの弱みを探してた」
「じゃあ、その裏社会の奴らに殺されたってことで決定だな。それで頼むよ、エヴァ」
「分かった」
エヴァに始末された人間は、必ずエヴァがよくない噂を流して『殺されて当然』ということにするのがグリーンのやり方だった。
エヴァは表向きはグリーンのサポートをする仕事に従事していることになっていて、グリーンともども人々の尊敬の念を集めていたため、噂を流すことなど容易なことなのだ。
「エヴァ。俺の可愛い妹よ。俺がこれからも『英雄』であり続けるためにはお前が必要なんだ。分かるな?」
「分かってる。仕事もちゃんとやる」
「そう、それでいい」
歪んだ光を瞳に宿して、グリーンはエヴァの髪を優しく撫でた。
エヴァはこれからも何人もの命をその手で奪うだろう。
穢れた英雄である、兄のために……。
『お兄ちゃん。お兄ちゃんは、ずっと私の英雄だよ』
穢れた英雄の妹 西桜はるう @haruu-n-0905
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