第98話 エピローグのようなプロローグのような
「なあ、リク。来年にはここも拠点として使えるようになる。ちゃんと帰って来いよ」
切ったばかりの丸太を木材置き場に運びながら、アルが話しかけてくる。
森の民を連れてイリーナの森に入った俺たちは、あの遺跡の入口の側にあった廃村を作り直して、第一の拠点にすることに決めた。遺跡の中も整備しなおして、いざという時の城として使うことになっている。
俺たちが最初に開放した森の民は二百人弱。その多くが昔、森で生活していたのだから、暮らしに困ることはほとんどなかった。彼らに住居の建築を任せつつ、俺とアルは暇を見つけては剣闘士仲間数人と、別の場所に囚われていた森の民を次々と解放した。まだアルハラの国内が混乱している今だからこそできることだ。
数人ずつでも、何か所からも救い出せばかなりの人数になる。
そして俺たちがイリーナの森に拠点を築いたことを聞いて、他国に逃げていた同胞もまたぽつぽつと集まった。
今では森の中にすむ同胞は四百人を超えた。対外的には国として名乗りを上げ、イデオンやガルガラアドとは交流も始まった。
そして今は湖の対岸に、第二の拠点作りを始めている。
「分かってる」
俺とリリアナは旅支度を整えて、国王となったアルにあいさつに来たところだ。国と言ってもまだ、ひよこ以前の卵のようなものだが。
「おーい、リク、リリアナ、もう行くぜー」
向こう岸で手を振っているのは西の鳶の面々だ。奴らはあれから英雄扱いにほとほと疲れ果てて、しばらく遠くの国に行くことになった。ルーヌ山を挟んで大陸の反対側には、イデオンやアルハラとはまた違った文化が発達しているらしい。
その旅に、俺とリリアナも誘われたんだ。
俺とリリアナは一応、名目としては新国家「イーレ」の外交官として旅に出る。……ま、まあ名目はな。
「お土産はいりませんから、帰ってきたらポチくんに会わせてくださいね」
「シモンはまだそんなことをリリアナさんに……」
シモンとカリンは腐れ縁だからと、ここで新国家つくりに尽力してくれている。それ以外にも何人も、種族の壁を越えて国民として協力してくれることになった。
レーヴィはガルガラアド、ヨルマはイデオンに居て、それぞれ「イーレ」との窓口になってくれている。
「留守中に何か変わったことがあれば、声が届くかどうかは分かりませんが頑張ってみます」
クリスタと弟のクリストファーは秘書として、国王になったアルを補佐している。クリスタの遠話の能力は最近ますます磨きがかかり、ここからアルハラまでは問題なく声が届く。それ以上離れたことがまだないので、それはこれから試してみることになるだろう。
「ではの。みな、達者でな」
「リクさんもリリアナさんも、気を付けるんですよ」
「大丈夫じゃ。私もリクも、旅には慣れておるからのう」
「……心配です。いいですか、私の言ったことをきっちり守ってください。魔石を人前で作っちゃ絶対にダメですからね」
「ははは。俺たちも見張っとくよ」
イリーナの森に笑い声が響く。
これは別れではなく新しい旅のスタートだから。
了
―――――――――――
あとがき
リクとリリアナのスローライフはまだまだ遠い先のようです。
結構あちらこちらを旅してみましたが、どの国にも魅力的な場所がありました。いずれまた訪れてみたいけれど、今はまだ見ぬ遠い国へ思いを馳せてみつつ……。
これにて完結といたします。
たくさんの応援を、本当にありがとうございます。
蛇足ではありますが、この度、この作品でカクヨムのコンテストに参加することにいたしました。読者選考があるため、もし少しでも面白かったと思っていただけたなら、☆で評価していただけると助かります。
よろしくお願いいたします。
【追記】
ここに至るまでにすでに星を入れてくれた皆様へ。
その星に励まされてここまで来ました。最後まで楽しく書けたのは、ここまでに読んでくださった方の応援があっってこそ。
コンテストは一つの目標ではありますが、結果に関係なく最後まで読んでくれた皆様に感謝を。
ありがとう!
安佐ゆう
元勇者と元魔王が冒険者になりました ~ゼロから始めるスローライフ……のはずが?~ 安佐ゆう @you345
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