プラント 三十と一夜の短篇第27回
白川津 中々
第1話
20xx年。
世界は植物によって支配された。
道路やビルに敷き詰められた蔦と生い茂る広葉針葉。各国の温度湿度はアマゾン川周辺の数値をゆうに超え、地球全土は恐竜怪鳥大歓喜な気候へと変貌を遂げたのである。
「畜生。今日も悍ましいったらない」
窓の外からコンニチワする規格外の紫陽花に悪態を付く大源寺は、そのまま紫陽花に小便を引っ掛けた。トイレはない。巨大紫陽花に破壊されたのだ。おかげで彼は糞を放るのも野に立ち忍ばねばならないのである。その心中は、察するに余りあるところであろう。
「せめて食えりゃ、食費が浮くんだがな」
大源寺は唾を吐き捨てそう言った。紫陽花には毒が含まれている為、食用には適さないのである。
「紫陽花紫陽花。焼いて食うのは鯵の開き……」
大源寺は紫陽花のあじの部分と魚類の鯵を掛けたつまらない駄洒落を恥知らずにも口にした。果たして30そこそこの男が斯様な退屈を吐くものだろうかと、賢明な諸君は疑問に思うであろう。しかし、彼とて好きで斯様な悲しい独り言を吐くのではない。世界は巨大植物により支配され、大源寺以外の人類は死滅してしまったのだ。一人残された彼は半ば狂気となり日夜独り語ちるのが日課となってしまったのである。人なれば、世に孤独だけが残されれば、誰に語るわけでもない言葉を呟いてしまうのも無理からぬ事であろう。あぁ悲しきかな脆弱なる人の精神よ。話す相手がいないというだけで、こうも落ちに落ちぶれるとは何たる惰弱か……いや、ハナから人間は狂っていたのかも知れない。何せ地球が植物の惑星となったのは、保護団体に属するマッドサイエンティストがバイオニクスを用いて、『我々』をかつての人間達と同じく、食物連鎖の外に立たせてしまったせいなのだから!
諸君。我々は人類で最後に残ったこの大源寺を、今後どのように処すべきであろうか。優しく見守り、命の輝きを存分に堪能するか、はたまた、害物として駆除するか……
あぁ、きっと、かつて栄華を極めた人間も、弱者を前にして、同じような選択を迫られていたのだろう。生かすべきか死なせるべきか。いずれにしても、我々は彼の最後を看取らねばなるまい……
プラント 三十と一夜の短篇第27回 白川津 中々 @taka1212384
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