ＣＨ‐Ｕ‐ＫＡ

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「へえ、この娘が」

「ああ。その、すまないが頼めるか？」

「いいよ、チュウカの頼みだもの。……おいで、こっちよ」

　

　軍と衝突してから数日後の裏街。時間は活動時間。

　以前チンピラ共に破壊された時よりも数日前の光景を取り戻していたアキラの店を訪れたチュウカは、女子高生という愉快な手土産を持って来ていた。本日この店は貸し切りとし、裏街の主たる人間から存在すら忘れた人間、認識すらされていなかった人間などが、次々と顔を変えながらも似たような笑顔と涙でチュウカの元を訪れた。店は祝勝会と銘打っているが、チュウカに勝利の実感はない。彼に残ったのは、痛いだけなのに訪れる予定の時代だけだ。

「はーい、こんばんは♪　ゆいです！」

　俺はまたこの女の横になるのか。しかし、いつもの女性陣はパーティーと俺が連れて来た女子高生の対応で忙しい。新人は挨拶だけ終えると、指名されない限りは暇なようだ。

「指名した覚えないけど」

「ん～？　じゃあ、逆指名？」

「……やめてくれ。ガキ相手に使う言葉じゃない。それと、このアヒージョってなんだ？」

「あ、それ私知ってる！　昨日聞いたの！　えっと、えっと……」

　彼女はわざとらしく、しかしそれは紛れもなく彼女自身である証拠でもある仕草であった。覚えていることを既に思い出しているのに、まだ思い出すふりをして、それからようやく思い出した時の真似をした。

「ニンニク！　ニンニクって意味だよ！　たしか、アメリカかどっかの言葉で――」

「スペインな。それと、アヒージョは〝刻んだニンニク〟のことだ。だから、無難に名づけるんなら、きのこと鶏肉のアヒージョってとこか」

「すごい！　アキラさんってプロのシェフだったんだ！」

「……料理サイトに出ているレシピにそっくりだがな」

　ゆいの言葉によって大いに機嫌を良くしたチンピラ擬きのアキラであったが、チュウカの言葉によってすぐにしょげてしまった。山の天気よりも変わりやすい性格だな。

「今日は最後まで居るの？」

「いや、食べ終わったから帰る」

　すると、彼女は少し心から嬉しそうにして、それから寂しくなったようだった。こちらはここ数日で予報しやすくなった。

「そっか。わかった」

　彼女は傍に置いておいたコートを取った。どうやら俺もここ数日で予想しやすくなっていたらしい。

「じゃあ、いこっか？」

「ああ」

　チュウカは偽中華包丁をもう持っていない。無論、この店に置き忘れたわけでもない。もう持っていないのだ。だから何も持たずに立ちあがった。

　アキラに一言掛けて、扉を開けて待っているゆいの方へ足を向けた。後ろの方で今夜の主役がどうとか言っていたが、俺はそんなに身分が高くなった覚えはない。いつもいつでも裏街（このまち）の居候だし、借り物も返さない一級虞犯少年だ。

　正確に言えば、居候しているのは期待の大型新人の一人暮らしの家なんだが、このまま話せばそれこそ主旨から逸れるだろう。色気しかないつまらない話だ。無粋な聞きたがりが現れた時になったら、長々と話してやる。

　じゃあ、また今度。そのうちに。

　.01st　　了

　→続