放棄された異世界が交わる時、無職低レベのおっさんが無双する

 いきなりネタバレなんだけれど、この作品の魅力を正しくユーザーに伝えようと思った時、避けて通ることはできないと感じた。
 根底にあるのは、「低レベルのおっさんが無双する」というものではなく(もちろんそれもあるけれど)、「放棄された二つの異世界が交わることで、二重のステータスと価値観が発生する」という憎い遊び心。
 よくこれ思いついたなと、今あらためてレビューを書きながら感じています。
 今回のカクヨムコンの中で、一つアイデアで抜きんでているとは思うのですが、この辺りをもうちょっと言及してあげて欲しい。

 まぁ、言及するとネタバレになっちゃうんですけれどね。

 さて、主人公の名前は分かりやすいダン・ゴヤ。低レベルで無気力その日暮らしの冒険者(という名の無職)。ろくでもないおっさんが、うまい話を引き受けたのが運の尽き。奴隷少女のシルヴィを押し付けられて旅に出ることに。
 わりとこの時点でテンプレではない。
 普通ここからきゃっきゃうふふと奴隷少女といちゃいちゃしたり、なんか彼女にまつわる壮大な物語がはじまるかと思いきや――。

「父親に会わせてやりたい」

 というただそれだけで、物語は進んでいきます。
 本当にそれだけ。そのためだけに、出たくない武闘大会に巻き込まれ、竜退治をしたりと、主人公はずたぼろになっていく。最後の最後にゃお上に唾吐き、「いいから黙って金よこせ」と叫ぶ始末であるからほんとろくでもない。

 ほんとろくでもないけれど、だからこそ人間臭く、熱い。

 やはり梧桐さん、魅せてくれるぜヒューマンドラマ。

 残酷な世界の中で、目に見える範囲の人間を幸せにしたいと願うことは、決しておかしなことではない。そしてそのために命を捧げることほど、男の心に響くものはない。情けない展開や描写の連続ながらも一貫して作品の中に漂う男の生きざまは御見事としかいいようがない。

 くっそ情けなくて身も蓋もないハードボイルド。
 けど、ハードボイルドって、そういうどうしようもないものでしょう。

 男の期待を見事に裏切らない傑作。いろんな人が絶賛してますが、僕もその声に混じって絶賛しておきます。こりゃ今回のコンテストで読むべき作品だ。
 おすすめです。

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