大石悠生の場合 2

 戻ってきた時には和花が目を覚ましていて、顔を見たら、声を聞いたら、鎮まったはずの仄暗い感情がまた頭をもたげて。

「はる、き……っ」

 和花の声音が甘さと熱を帯びて、俺の理性を散らしていく。小さくかすれた声に何度も名前を呼ばれるだけでたまらなくなってしまうほど、俺はどろどろに溶かされていた。

「ねえ、わか……好き、好きだよのどか」

 絶対に言わないと決めていたのに、自分の口から零れる想いは止められない。

 もういいや、どうせこんなになってたら、何言われたかなんて聞いてないでしょ。半ば開き直って、何回目かわからないキスを落とす。

「はるき、すき、だよ」

「……は?」

「すき、ねえ、はるきは?」

 ──何この子。自分が何言ってるかわかってるのか。というかこれ、そもそも現実なのか?

「はるぅ?」

 ああもう、そんな声で、そんな顔で、俺の名前を呼ばないで。

「好きだよのどか」

「ほんと?」

「うん、きっと俺の方が大好きだよ」

「だめ、わたしのほうがすきだもん」

「そうなんだ……」

 可愛いの暴力すぎないか。幸せの拷問だ。こんなの耐えられる気がしない。

「だから、がまんしないで、ね」

 ふいっと顔を逸らして恥ずかしそうに呟く和花の頭を撫でると、手首を固定していたネクタイを解く。

 長い時間拘束されていたそこは、擦れて赤くなってしまっていた。

「ごめん、痛かったよね」

「だいじょぶ」

 にひゃ、と笑う和花を抱きしめて宣言する。

「じゃあ、もう我慢しないけど、いい?」

「うん」

「……優しくできる自信、ちょっとないんだけど」

「えー、そうなの?」

 しょうがないなあもう、と今度は俺が頭を撫でられて、しばらく二人でくすくすと笑い合った。






 近くて遠かったあの頃には、もう戻らない。

 腕の中に閉じ込めて、嫌だって言われても離してなんかあげないから、覚悟しててね。

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あなたのことが好きだから 神條 月詞 @Tsukushi_novels

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