大石悠生の場合 1
すぅ、と気持ちよさそうに寝息をたてている和花を見て、この子に警戒心というものはないのかと心配になる。
「きっと、ハルだから大丈夫、とか言うんだろうなあ……」
大丈夫じゃないよむしろやばいよ、俺お前のこと好きなんだからな。
まあ、言ったところで冗談にしか思われないんだろうけど。俺たちはそういう関係で、そういう関係にしたのは他の誰でもない俺自身なのだから。いまさらそれを後悔しているなんて、言えるはずもなかった。
「ほんっと、最低だ」
小さく自嘲する。さっきコンビニで和花に会った時、思わず家に来ないかと誘ってしまった自分を殴りたい。和花は承諾するに決まっているのだ。自惚れなどではなく、和花は俺のことを信用してくれているから。
「ごめんね、こんな下心ありまくり野郎で」
とりあえず、このままここに寝かせておくのは俺にも和花にもよくない。とはいえ男の一人暮らし、来客用の布団などあるはずもない。
「……まあ、ソファよりはまし、だよね」
誰に対してかわからない言い訳を呟きながら、寝室へ移動するために起こさないよう抱き上げる。
「かっる……」
ちゃんと食べてるのかこれ。腕も脚も、少し力を入れたら折れてしまうんじゃないかと思うほど華奢で、簡単に壊れてしまいそうだ。
和花をベッドに横たえると、俺が普段使っているブランケットをかけてやる。
──ああ、俺のベッドで和花が寝てる。
状況を改めて客観的に見ると、これはなかなか、うん、クるものがある。
「俺のものになればいいのに」
ぽつり吐き出した言葉に、どこかの外れてはいけないストッパーが外れた気がした。
音を立てないようにクローゼットを開けて、一本のネクタイを手に取る。そして、片方の端でそっと和花の両手首を縛ると、もう片方の端をベッドにくくりつけた。
「……やば」
何してんだ俺は。
それでも、自分の声色に隠しきれない興奮が滲むのを感じる。どうしようもなく昂ぶる劣情を鎮めるため、俺は寝室から──和花から離れることにした。
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