バラ色の人生、だとか。灰色の青春、だとか。黄金時代、だとか。
色は色々と、人生を彩るものです。
このお話は、人生お先真っ暗、いえ真っ黒になった主人公が初恋の人によく似た女子高生に出会って動き出すという、ありきたりと言えばありきたりな始まりです。
ですが。
散りばめられていく伏線。
優しく、けれど確実にこちらの心を突き刺してくる登場人物のセリフ。
丁寧に、確実に、形を成して紡がれる地の文。
人間心理の真理に迫りつつ、ロマンを突き詰めに突き詰めた文体。
それら全てに誘なわれ、ラストを目撃した時、あなたは淡い感慨に囚われることでしょう。
あるはずがなかった、けれどないはずがなかった青春を追い求めた一人の人間の話、ぜひ一読ください。
タイムスリップと恋愛。この要素を取り入れた作品は現代文学で言えば『時をかける少女』、古典で言えば『浦島太郎』、漫画ならば『ドラえもん』など、枚挙にいとまがない。
不可能を超えて愛する者と再会するという要素でいえば、源流は『オルフェウス』や『イザナギとイザナミ』などの神話にすら遡ることができるだろう。
本作は言うなれば、それらの作品から丁寧に抽出されたエッセンス、熟練のバリスタの手による一杯の珈琲のような作品だ。
時をかける少女の如き青春の甘酸っぱさ。
浦島太郎を思わせる、愛の代償への苦悩。
オルフェウスやイザナギが黄泉路を行くが如く、主人公は愛するものを求め、過去の世界を直走る。
果たして、彼は先人の轍を踏むこと無く、前だけを見て進めるのか?
それとも過去の闇を振り返り、愛するものを再び失うのか?
その結末は是非、この作品を読んで知って頂きたい。