イケナイ張り込み刑事 ー熱情派ー
ちびまるフォイ
こちら何も異常ありません
「あん牛乳とコーヒーパン買ってきました!」
「よし。やっぱり張り込みにはこれに限る」
刑事は部下の買ってきた2品を事務的に口に放り込んでいく。
顔の位置は動くことがない。
「あの、刑事。いったいどこにホシがいるんですか?」
「教えられるわけないだろ」
「なんでですか? もうさっきからずっと張り込んでいるのに
少しくらいホシの情報を教えてくれれば、交代で楽できますよ」
「いいか新米。よく聞いておけ」
刑事は新米の鼻先に指をずいと突き付ける。
「張り込みっていうのはな、繊細で慎重なものなんだ。
仮にここでお前にホシの張り込み先を教えたとする。
そうなったらお前はそっちばかり見るだろう」
「え、ええ……張り込みですし」
「それだと相手が俺たちの存在に気づいてしまう。
相手に感づかれずに張り込むことこそが大事なんだ」
「なるほど……」
「わかったらコンロとボンベ買ってこい」
「何かするんですか?」
「外は冷えるから鍋を作る」
「感づかれずに張り込む気ないでしょ!?」
と、部下の提言を遮るように刑事の無線が鳴った。
刑事は部下そっちのけで無線を取る。
「はい、こちら○○丁目のGパン刑事です」
刑事はいつも下着をなぜかデニム生地であることから
Gパンツの刑事、略してGパン刑事と自分で自称していた。浸透はしていない。
「……はい、はい。ええ、ちょうどその近辺です。ええ、異常ありません」
無線が切れると、刑事はまた張り込みモードに切り替えた。
「刑事、今のは?」
「本庁からだ」
「本庁はなんて?」
「新米。いいか、覚えておくことだ。
ヘマをするのはいつだって先走った奴だってことを」
「わかりましたよ……」
・
・
・
張り込み続けて、もう何時間経過したのかわからない。
「刑事、そろそろ教えてもらえませんか?
お互いにもう体力の限界ですし、交代で眠っておきましょう」
「バカ。どうして俺たちが2人で張り込んでいるのかわからないのか」
「パシリ役じゃないんですか?」
「ちがう。眠ったときに起こすためだ。
交代で眠ったときに、居眠りしたらそれこそ取り返しがつかない」
「はぁ……」
刑事は張り込み慣れているのかじっと監視を続けている。
本庁からの無線連絡も頻繁に送られるようになってきた。焦りを感じる。
「……ええ、わかっています。見回りは続けていますが、めぼしいのは……」
「そうです。まだ見ていませんね、ええ。問題ありません」
「はい、はい。引き続き行っていきます。では」
刑事は無線を切ってまた監視を続けた。
「刑事……もう本庁も焦ってるみたいですし……」
「現場の俺たちが焦ってどうする。大事なのは監視し続けることだ。
ごちゃごちゃ言ってないで、あん牛乳買ってこい」
「はい……」
部下はもう何度目かのパシリのためコンビニに向かった。
会計を済ませ、外の風に吹かれ頭が冷えるとあるアイデアが思いついた。
「もう刑事も本庁も張り込みの限界だ。
この先張り込んでもいざってときに体が動くかどうかわからない。
だったらもう今から突撃して検挙したほうがいいに決まってる」
疲弊しきった頭で取り調べをしても見落としが出るかもしれない。
より確実に検挙するには今が攻め時だろう。
「刑事、買ってきました」
「おう」
刑事は袋を確認し、中に入っているものを手に取った。
「これは?」
「何時間も見ているから疲れていると思って、栄養ドリンクも追加しました」
「気が利くな」
刑事は栄養ドリンクを飲んでから、パンと牛乳へと手を伸ばした。
そして、栄養ドリンクのラベルを張り直した安眠ドリンクの効果が利くころ
刑事は電信柱の陰で静かな寝息を立て始めた。
「よし、刑事が起きてたら確実に止められるからな……」
刑事が見ていた位置に顔を合わせると、目線の先に部屋が見えた。
おそらくあれが刑事の見張っていた部屋だろう。
相手に気づかれないよう、わざと遠回りして、裏から玄関に回り込んだ。
手錠を出しやすい位置に準備し、もしもの時のために銃にも手をかける。
ホシのいる部屋まで行くと、玄関前のインターホンを押した。
ドアは開かない。
警察手帳を取り出し、高圧的にドアをたたいた。
「警察だ! ここを開けろ!!」
慌ててドアが開くと、中から若い女が飛び込んできた。
「警察ですか!! やっと来てくれたんですね!!」
「や、やっと……?」
「さっきからずっと部屋を見てくる元彼のストーカーがいるって本庁に通報してたんです!
なのに、いつまでも警察が来なくて……。
どうしてもっと早く来てくれなかったんですか!?」
そのとき、本庁からの無線が俺にも届いた。
『おい、応答しろ。その近辺にいるストーカーはまだ見つけられないのか?』
イケナイ張り込み刑事 ー熱情派ー ちびまるフォイ @firestorage
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