第91話「化け物の一端」

整備した道を疎らに行き交う人々の真上を飛び越える。


森の中突っ切るより遥かに楽だ。整備しといて正解だった。


とりあえず途中までは整備した道を通って、森の奥に近い村から森の中に入ろう。


「な、なんだ!?いきなり影が……」


「あらミノリちゃんじゃないの!人間って飛べるのねぇ……知らなかったわ」


飛ぶじゃなくって、跳ぶね。


人間は飛ばないよ。翼もないのに飛べる訳ないでしょ。


跳躍と着地を幾度となく繰り返し、道行く人々を驚かせながら先へと進む。


アレンがラクサ村を発ったのは6日前。おそらくもう現場に到着して巣窟掃討してる頃だろう。


整備する前だったらまだ最奥の村にも到着してなかっただろうけど、こうして行き来が楽になった分早く現場に着いてるはず。


「……急がないと」


手遅れになる前に。


自然と足に力が入り、さっきより高く跳躍した。



―――――――――



最奥の村から森に転がりこんで数十分。


ようやくお目当ての集団を見つけた。


最奥の村から巨大生物の巣窟までは道なき道を進む。だから必然、馬車が走行した跡が目立つ。あとはそれを辿ればいい。


馬車と数名の見張りを発見し、気付かれぬよう音を殺す。


巨大生物に囲まれた兵士達が遠目に見えた。そこには当然アレンの姿も……ん?


なんか、アレンがいっぱいいる。同じ顔がいっぱい。ちょっと引いた。


アレンの能力初めて見たなぁ。多分、少ない兵士の数を分身で補っているんだろう。


でも数打ちゃ当たるって訳でもなく、分身の動きは単調。分身もアレンが自分で操らなきゃいけないらしいからその分集中力を必要とし、動きが単調になるのだろう。


ちょいとばかし頭が回る巨大生物はアレンの分身の攻撃を避けながらアレンの本体を狙う。正直どれが本体かさっぱり分からないけど。


アレンとアレンの分身、その他の兵士も奮闘してはいるが、一掃するには実力がいまひとつ。


皆それなりの実力があるけど、1匹を複数で安全にボコるいつもとはワケが違う。


四方を巨大生物の大群に囲まれて逃げ道がなく、尚且つ分身を含めても巨大生物の方が圧倒的に数が多い。


アデラが言った通り全滅するのも時間の問題だ。


木々の上を猿の如く俊敏に動き回り、弓を構えた。


私の相棒はおんぶ紐で括って背負っている。なのでこうして両手が使えるわけだ。


「距離……目測120メートル。矢の数は30本か……剣で殺ってもいいけど、それだと気付かれるよね……」


兵士の中には犬と人間が混ざったような種族もいる。見た目だけで判断するならとても鼻が利きそう。


できれば気付かれずに終わらせたいんだよなぁ。


今回の巨大生物の巣窟掃討は国のお偉いさんの命令だ。私が代わりにやったと知られたら、一般人に危険な仕事を無理矢理やらせたとか難癖つけられるかもしれない。


あんまり疑いたくないけど、国の子飼いが兵士の中に紛れてる可能性もある。どちらにせよ国に報告する義務がある。


難癖つけられるだけならまだいいけど、第2の掃討命令が下されたり処罰をくらったりするかもしれない。


また私の行動のとばっちり受けるかもって考えたら、兵士の前で好き勝手暴れるのは得策ではない。


私の考えすぎかなーとも思ったけど、油断して足元掬われるより取り越し苦労だったーって笑い話になった方がよっぽどマシだ。


巨大生物が近くにいないことを確認しつつ木の上から地面に降り立つ。


足元の小石を拾って、ぽーんっと真上に投げる。


「小石で攻撃の軌道をずらして兵士が倒しやすくする。危ないと思ったら一思いに殺る」


真っ逆さまに落ちてきた小石をぱしっとキャッチする。


同居人に襲いかかる数多の巨大生物を見てゆるりと目を細め、舌舐めずりをした。



それはまるで、生け贄を前にした悪魔のように。


あるいは、殺戮を試みる死神のように。



かつて“化け物”と言われたときと同じ顔で、一歩踏み出した。



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のらりくらりと異世界生活 深園 彩月 @LOVE69

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