強盗が最後に行きつく先のハンバーガー屋さん

ちびまるフォイ

ファーストに事が運ばない強盗たち

『最近、集団による空き巣被害が後を絶ちません。

 犯人グループは自らを『盗賊ギルド』などと称し、

 民家をはじめ無人の店やガソリンスタンドを襲撃しています』


テレビを消すと、覆面をつけて銃をしのばせた。


「よし、行くか」


男は入店するなり、銃を突きつけた。


「おら、全員手を上げろ!!」


開店中にも関わらず店には店員しかいなかったのは幸いだった。

強盗はカバンをカウンターに乗せる。


「俺は"現代のねずみ小僧"だ。ここにありったけの金を詰めろ」


「ど、どうして名乗るんですか……!?」


「同業者の盗賊ギルドっていうクソ空き巣集団と一緒にされたくないんでな」


「あなたのチーム名のがダサイですけど……」

「うっせぇ!! 頭に穴開けてやろうか!!」


強盗はカバンをずいと店員に突きつける。


「ほら、早く金を詰めるんだよ!!」


「お客さん、でも……うち、ファーストフード店ですよ?

 普通、こういう強盗ってもっとお金がある銀行とか行きませんか?」


「バカが。銀行みたいなところはセキュリティもなおしっかりしている。

 対策もばっちりだ。だが、こんなファーストフード店なら警戒も甘い。

 強盗も薄利多売の時代なんだよ」


「し、しかし……」


「なんだ? 命より金が惜しくなったのか?」


「実は……収められるお金がないんですよ」

「なんだと?」


「当店は見ての通り、閑古鳥も近寄らないほど客が来ませんで……。

 売り上げはおろか強盗さんに出すお金すらないんですよ」


「はぁ!?」


強盗の作戦はすっかり頭から崩壊してしまった。

かといって、ここで「じゃあこれで」と引き下がっては通報のリスクも高い。

なにせ逃走金を手に入れる前提で、逃げる作戦を練っていた。


「そ、それじゃ……ここで稼いだ金を俺に収めろ!!

 俺が逃げられるだけの売り上げを出せたら、回収して去ってやる!

 その間に妙な動きでもしてみろ! スイカみたいに頭吹き飛ばすからな!」


「めっそうもない! 我々も警察のご厄介なんてごめんですって!」


強盗は銃を持ちつつ、体裁はファーストフード店の店長として滞在することになった

けれど、店員の言っていた話は本当で客は誰も来なかった。


「全然こないじゃねぇか! これじゃ強盗終われねぇよ!!」


「なにが悪いんでしょうね……」


「お前ら気合が足りねぇんだよ! 24時間営業年中無休で働け!

 シフト入ってない奴は外で宣伝でも売り込みでもしてこいや!!」


「ひぃぃ!!」


強盗は銃を突き付けて店員の尻を蹴った。

店員は店の外で必死に売り込みをし、店もずっと開け続けた。


それでも。


「目標金額が貯まるどころか、減ってるじゃねぇか!!」


強盗は銃をまた振り回した。

なんかもう見慣れすぎて店員も怖がらなくなっていた。


「24時間も開けっ放しでお客さんが来ないでしょう。

 せっかく作ったハンバーガーも廃棄になるんです、もったいない。

 それに売り込みが過ぎると逆に引かれますし……」


「むぅ……たしかに、押しの強い店員がいると服を買いずらいな……」


「もう無理ですって」


「お前らちょっと協力しろ」

「え?」


強盗は全員分の覆面を用意して、近くにある別のファーストフード店を襲った。



「オラァ!! ここの一番偉い奴を出しやがれ!!」


「動くんじゃねぇぞ!!」

「ちょっとでも動いたら容赦しねぇぞ!!」


「お前らうまいな」

「まぁ……」


妙に統率の取れた動きで、おびえ切った店長の口に銃を突っ込んだ。


「な、なにが目当てだ!? 金か!? 金なら出すぞ!!」


「よこせ」

「え……」


「ノウハウをよこせ!!!」


前代未聞の要求に店長は目を点にさせた。


「それは……できません」


「なんだと!? この銃がおもちゃだとでも思ってるのか!」


「ちがいます! 言葉で伝えることができないんですっ!

 ノウハウは経験や実務の中でしか身につけられないんです!」


「だったら、バイトにさせろよコラァ!!!」


「なんなんだあんたたちはーー!?」


強盗は別の店でアルバイトとして働くことになった。

近くにあるのに、自分たちの店とは天と地の売り上げの差があった。


「いったい何が違うんだ……」


「そこ! 勝手に商品をつまみ食いしないで!!」


強盗たちはメモを片手にバイトをしつつノウハウを勉強していった。

軽く働くだけでも学べることが多く、メモが追い付かないほどだった。


「強盗さん、わかりましたよ。この店は効率的に動いています。

 待ち時間の長さがうちの弱点だったんです!」


「なるほど。お前らの強盗で見せたチームワークを

 現場でも生かせるように訓練しないとな」


「強盗さん、この店のメニューを見てください!

 店に入ったときに一番原価率がいいメニューが目に入るようになっています!」


「そう来たか……! 客の注文をこっちでも操作するんだな」


「強盗さん、この店……ゴミがひとつも落ちてません!

 お客さんが汚れないような包装の工夫もされています」


「くっ……! また来たくなる店づくり……そういうことか!!」


強盗達は学び尽くしのバイト経験を済ませた後、自分たちの店に戻っていった。

店に戻ってからはノウハウを組み込みつつ、自分たちなりの改良を加えて店をリニューアル。


「いいかみんな、リニューアル後の店のスローガンは――」


「キレイ! 楽しい! おいしい!!」


「店をあけろーー!!」


新装開店のふれこみもあって客が流れてきた。

廃墟のようだった店は生まれ変わり、近所の人の憩いの場として定着した。


「前より雰囲気が良くなったねぇ。おしゃべりにちょうどいいわ」

「この店、お掃除ロボットがいるの、メニューも持ってきてくれるんだよ!」

「安いメニューが美味しくなったよね。高いのも試したくなるなぁ」


高齢の人からお子様まで大人気の店舗に返り咲いた。

強盗の逃走用資金もあっという間に集まった。

ついに強盗はエプロンを取った。


「それじゃ、俺はそろそろ帰らせてもらう」


「強盗さん……! お願いです、店の売り上げだけは!

 あなたのことは神に誓っても通報しませんから!」


「それはできない。俺は強盗だ。人から物を奪うのが仕事」

「そんな……」


「だから、この店で一番うまいハンバーガーをよこしな。

 抵抗すれば、お前の頭を吹っ飛ばす」


強盗の笑顔の要求に店員もスマイルで答えた。


「はい、喜んで!!」


店員たちは渾身のハンバーガーを強盗に提供した。

強盗は嬉しそうに食べて「ごちそうさま」だけ行って店を出ていった。

店員たちはその背中にいつまでも頭を下げていた。








「で、どうします?」


店員たちはエプロンを取った。


「店に空き巣しに来た俺たちを最後まで店員だと思ってたな……。

 まさか、閉店していたこの店を復活させるなんて思わなかった」


「俺たち"盗賊ギルド"に戻るんですか? アニキ」


「いや、こっちの方が明らかに稼げるわ」


のちに全国で大人気となる店『盗賊バーガー』の誕生となった。

盗賊の由来は「笑顔を盗む」などと客側が良いように解釈されていった。

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