廃遊園地にて

英王

廃遊園地にて

 廃れた遊園地の中を一人、月明りのみを頼りにして歩く。半透明になった、この体を透けさせながら―

 この遊園地は家族との思い出の場所だった。両親と妹と来たときは、まだ家族はギクシャクしておらず、穏やかな家庭があった。しかし妹が死んだことをきっかけに、夫婦喧嘩は絶えなくなり、次第に家の中は荒れていった。結果、私は塞ぎこみがちになり、学校で一人でいることが多くなった。更には不良グループに目を付けられ、金を無心され、金がないときは殴られた。誰にも相談することができなかった。両親は言わずもがなで、教師は不良グループの一人が議員の娘だとかで見て見ぬふりだった。辛かった。だから、死んだら、この苦しみから解放されるんじゃないかと思った。

 そしてなけなしの金で最期の思い出にと遊園地を訪れた。ふらふらと懐かしい遊園地の中を歩き回った。楽しそうにするカップルや親子連れを見るたびに、もう自分はあの光ある世界には戻れないのだと、悲しいような寂しいような気分になった。「彼」に話しかけられたのは、その時だった。私はよっぽど、酷い顔をしていたに違いないから、心配になって話しかけたのだろう。「彼」は不思議と私に似た感じがして、一緒にいると気分が軽くなった。ついつい自分の身の上話をしてしまった。そうすると「彼」は静かに真摯に私の話を聞いて、ただ一言『そう』とだけ言った。私はその一言に、重みを感じた。ただの相槌にとどまらない、様々な想いが乗っているような気がした。その後、「彼」と、どう別れたかは覚えていない。ただ、ほんの少し気が楽になり、結局、自殺することなく家に帰った。

 数年後、もめにもめたが両親は離婚した。私は母方の実家に引っ越すことになり、不良グループと離れることもできた。新しい学校では、友達もでき、前向きな気持ちになれた。進学先も決まり、過去のことなど、なかったのように楽しい毎日だった。しかし、それも長続きしなかった――

 自動車が歩道に突っ込み、私はひかれてしまった。即死だった。が、何の因果か、幽霊として彷徨うことになってしまった。誰も私に気付かない。いくら話しかけても反応してくれない。圧倒的な孤独―。その時に、ふと遊園地で会った「彼」を思い出した。風のうわさで遊園地が経営不振で潰れてしまったことは知っていたけれど、不思議と遊園地跡にいけば、この辛さが解消される気がした。

 寂れた遊園地に行き、かつてのようにふらふらと歩き回った。ふと背後に視線を感じて振り返ると――風に揺れる蔦の絡まった観覧車を背景に半透明な「彼」が悲し気な微笑みを浮かべて立っていた


「結局、こっち側に来ちゃったんだね」

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