第151話伝道者は言う、「空の空、いっさいは空である」と。~

(原文:第12章8~14)

8 伝道者は言う、「空の空、いっさいは空である」と。

9  さらに伝道者は知恵があるゆえに、知識を民に教えた。彼はよく考え、尋ねきわ め、あまたの箴言をまとめた。

10  伝道者は麗しい言葉を得ようとつとめた。また彼は真実の言葉を正しく書きし るした。

11  知者の言葉は突き棒のようであり、またよく打った釘のようなものであって、 ひとりの牧者から出た言葉が集められたものである。

12  わが子よ、これら以外の事にも心を用いよ。多くの書を作れば際限がない。多 く学べばからだが疲れる。

13  事の帰する所は、すべて言われた。すなわち、神を恐れ、その命令を守れ。こ れはすべての人の本分である。

14  神はすべてのわざ、ならびにすべての隠れた事を善悪ともにさばかれるからで ある。


「伝道者の書」の最終になり、最初のテーマに戻った。

人生は、無目的で空しい。

伝道者は、自らの探求により得た知識を箴言の形にまとめ、民に教えた。

適切で麗しい言葉にするために推敲し、その結果得た、真理の言葉を書に書き連ねた。

伝道者は、様々、突き棒や釘のような鋭い表現を行った。

しかし、伝道者は、自分が語った言葉以外にも、気を配れと言う。

全てを記すにも、またそれを学ぶにも、人間の体力では疲れてしまい、無理であると、語る。


そして、最終的な結論は、すでに知られていること。

すなわち、

「神を恐れ、その命令を守れ」

「神はすべてのわざ、ならびにすべての隠れた事を善悪ともにさばかれる」


全ての事は、神には隠されてはいない。

すでに全てが、神の前に明らかになっていて、やがては善悪ともに、裁きにあう。

今が無事であるからと言って、そうではない。

そして、それを自覚しなければならない。


「神を恐れ、神の命令を守れること」は、全ての人間に課せられた課題と思う。

無思慮、無配慮からの傲慢な態度をあらため、謙虚な気持ちを忘れないこと。

出来る限り懸命に働き、その報酬からの飲食を楽しむこと。

成功は続かず、健康も年齢を重ねれば衰える。

それを自覚して、弱者は当然、他者に辛く接しないこと。

等々、特に新しいものはなく、すでに聞いて来たものばかりであるけれど、それを忘れてしまうのが、全ての人間の課題なのだと思う。



この「伝道者の書」の書かれた当時の時代と、現在の日本、世界との状況は異なる。

また、この「伝道者の書」が書かれた中東の文化と、日本の文化とは、異なる。

そもそも、「伝道者の書」における細かな文脈を、日本人がどれほど理解できるのか、そのような疑問も禁じ得ない。


しかし、そうかと言って、全く心に響かないという人は、少ないのではないだろうか。

どこか、時代も社会的、文化的、宗教的背景も異なる、今の日本人にも訴えかけてくるものが、確実にある。

そして、その「訴えかけ」を心に感じ取った時に、「今の時代、それから今後はどうするのか」、それを考え出すことになるだろう。

そして、「考え出した人」の心の中で、「伝道者の書」は、再び輝きを始めるのだと思う。





※「伝道者の書」これにて、終了といたします。

 ご愛読ありがとうございました。





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旧約の世界 伝道者の書 舞夢 @maimu

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