初めての捜し物の依頼だよ!やったね!
───コンコン
控えめに扉が叩かれ、開く。
そこにいた人は言った。
「あのー、依頼で、探して欲しい物があるんですけど……」
──ちなみに、この一つの依頼はこの世界を揺るがす物語の始まりだとは誰一人思いもしなかった。──
その瞬間、俺は盛大にガッツポーズをしていた。
初めて俺が担当する依頼が来て、皆が唖然とし、依頼人がオドオドしている中で、だ。
「はい!喜んで、依頼内容は何でしょうか?」
俺は自分でもわかるくらいに張りきって、声を出していたらしい。(フィーネによると、相当にやけてもいたらしい)
俺のいきなりの大声に怯えていた依頼人は少ししてから被っていたフードを取り、話し始めた。
「え、えっと・・・・・・探して欲しいのはこの指輪なんです」
その依頼人は女性だったが、彼女が取り出したのは綺麗な細工が施された小さな指輪だった。
俺は、ん?と思った。なぜなら指輪はそこにあるからだ。
すると彼女は慌てて補足し始めた。
「こ、この指輪は一対になっていて、この指輪のもう片方を探して欲しいのです。とっても大事な物で・・・・・・どうかお願いします!」
彼女は必死そうに言った。
なるほど、この指輪が一対だと言うのなら彼女が必死なのも頷ける。
「わかりました。そのご依頼お請けします。じゃあ準備をするので少々お待ちください」
そう言って俺は紙とペンを取り出した。
皆一様にわからなそうな顔をしているが無視して俺はペンを走らせる。
しばらくして、紙には円形の複雑な模様が描かれていた。
フィーネはこれが何かわかったようだ。
俺はまだわかっていない数人に説明する。
「これは『魔法』を少しでも学んだ人ならわかるんですが・・・・・・正体は『魔法陣』です。物を捜すのに特化した。では、始めます」
あれ?そういえばアリサもルリも魔法学院に通ってなかったっけ?
そんなことを思いつつ俺は指輪を魔法陣の中心に置き、呪文を唱えていく。
「我求むるは失せし物。銀に輝く小さな円環。一対となりし物の片割れの居場所を示せ!」
俺が唱え終えると魔方陣が光を放ち始めた。
そして指輪が小さく震え始めた。
まるでその場所に行こうとするように。
「あ、あの・・・・・・これ、今どうなってるんですか?」
やはり、彼女は『魔法』を学んだことが無いらしい。
俺は依頼人に今何が起きているかを教えた。
「これは『魔法』の中でも『召喚術』と呼ばれる術の応用です。俺はこの『魔法』を用いて仕事をするので。実はこれ、魔法と言っても一種の占いなんですよ」
占い。それは古来より人々の間で行われ続けてきたある意味最も密接な『魔法』と言えるだろう。
例えば、豊作を願う祭であったり、霊などの声を聞く「降霊術」であったりと常人には不可能である。
そのため数少ないその術を扱う人間をシャーマンと呼んできた。
そして、その術を多くの人間に使えるように変化させた物が『召喚術』であり、金を作り出し、世界の理をねじ曲げる『錬金術』。自然の法則に干渉する『魔術』を総称して、『魔法』と呼ぶ。
実はそう呼ばれるようになったのは実は最近のことだったりもする。
少しして、魔法陣の上の指輪がジリジリと動き始めた。
ほんの少しずつだけどこの方向は・・・・・・?
「指輪が動き始めましたね。この魔方陣の四隅は東西南北を示していますから、右上に向かって動いているので北東かな?この街のね」
しばらくして、指輪は魔法陣の北の位置の右側で止まった。これは確かに北東側だ。
「指輪の位置がだいたいわかったのであとはこちらで捜索します。そうですね・・・・・・三日後にまた来て下さい」
俺がそう言うと彼女は「ありがとうございます」と一言言って立ち去ってしまった。
なんかもやっとするが今はこの指輪の片割れを探さなくてはならない。
・・・・・・と、今気づいたがその指輪が光を失った魔法陣の上に置きっぱなしだった。
「やっべ、指輪返すの忘れてた・・・・・・」
するとフィーネが指輪を手に取りじっくりと眺め始めた。
「別に良いんじゃない?この指輪の片割れだというのなら形も似てるはずだし、どうせ三日後には会うんだからその時見つけたのと一緒に返せば良いわよ」
何かが気になるのかフィーネは指輪を見つめたまま答えた。
どうしたんだ?俺が気になってそう聞くと彼女はそっけなく答えた。
「何でも無いわ。捜すならさっさと終わらせちゃいましょ」
そう言ってフィーネは部屋から出て行った。
今日は捜しに行く気は無かったのだが……
「まあいっか、どうせ今日だけじゃ見つからないだろうし」
このハトルムの街は広い。
捜し物をしてだいたいの位置がわかってもそんなに簡単には見つからない。
魔法陣で示された場所に行き、さっきの呪文を繰り返して正確な場所を絞っていくのだ。
さっきは指輪がその位置を示すのに十分は掛かった。あまり何度もはできない。
俺は急いで支度を済ませた。
───一時間後
俺らはハトルムの街の北東部で指輪を探していたのだが……
「日が暮れちゃうとはね……そういえばあの依頼を請けた時点で五時くらいだったしね」
日が暮れては捜すことはできない。
繁華街なら今でも明るいが、この北東部は貧民街でもある。これ以上居ると付いてきたアリサ達の身に危険が及ぶ可能性がある。
俺はそう思い、今日は引き上げることを彼女達に伝えた。
「わかりました……明日は授業があるので午後からですけど、私達も一緒に探したいのでカイルさん。明日は午前中寝てて良いですよ」
そんなことを言ったアリサはフィーネに窘められているが俺はそんなことはどうでもよかった。
俺の目にはアリサが天使に見えていた。
───翌日、昼過ぎ
俺は身体を揺さぶられる感覚で目が覚めた。
目を開けるとそこには昨日、天使と見間違えた少女であるアリサが立っていた。
「ほらカイルさん。昨日言いましたよね、指輪捜しに行きますよ」
俺は昼過ぎまで寝ておきながらグダグダと動き始めた。
あ~働きたくねぇ……。が今の正直な心情である。
「できるだけグータラ生活を俺は送りたいのに……」
俺がそう零すと隣で俺を待っているフィーネが呆れた様子で言ってきた。
「全く、この依頼請けたのはカイルなんだから責任取って最後までやり切りなさい」
やっぱりフィーネは真面目だ。
いつも依頼は全てフィーネに任せてる感じだけどちゃんと彼女は終わらせている。
「カイル、わかっているなら働いて。この仕事が終わったら何か美味しい物でも食べに行きましょ」
おっと、フィーネはどうやら俺の考えてることがわかるらしい。
でも、美味しい物は捨て難い……。
そして俺は美味しい物、という餌に見事に引っ掛かり真面目に働くことになってしまったのであった。
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