序章 神殺しの物語
発端の依頼
何でも屋
大陸第二位の魔法大国、ルトリア王国の第三位の大都市『ハトルム』の郊外。
そこにある丘の上にこの俺ことカイルが経営する何でも屋がある。
何でも屋といっても仕事は主に2つだけだ。
魔法を使った『捜し物』と『手紙の代筆』だ。
そして、その仕事すらもサボって相方に任せていた俺は最近、それはそれはとても重要なことに気づいてしまった。
「なあフィーネ。そもそもこの街の人にこの店があるってこと知られて無いんじゃないの?」
俺がソファーに座って隣で本を読んでいるフィーネに何となく聞くと、彼女は呆れたような顔をしてこちらを向いた。
「カイル・・・・・・ようやっとそのことに気づいてくれたのね。私はちょっと嬉しいわ」
すると、近くにいたアリサや他の2人も苦笑(1人は無表情のまま)しながら頷いた。
どうやら気づいていなかったのは俺だけだったらしい。
「よし。……この店を少しでも有名にするアイデア募集ー」
俺は少し考えてからそんなことを言った。
すると、みんな少しは考えてくれてる。ちょっと嬉しい。
はい。と最初に手を挙げたのは意外にもルリだった。普段はぼーっとしてるからあんまり興味無いのかと思ってたけど。
「……例えば、チラシを作って配ってみるとか」
なるほど。確かにチラシを配るなり街中に貼るなりすれば人の目には留まるだろう。
すると、ダメよ。フィーネからと声が掛かった。
皆で彼女の方を向くと真面目な顔で彼女は言った。
「そんなのカイルはめんどくさがってやらないわ。きっと」
なんともひどいものである。
さすがに俺も反論した。
だが、返って来たのはやっぱり真っ当なものだった。
「だってカイル、普段から仕事しないじゃない。だからチラシを作りたくとも余裕はないわ」
はっきり言われてしまうと黙るしかない。
恐らくここまではっきりと物事を言える人は少ないだろう。
しばらくして、はい。とまた手が挙がった。
今度はアリサか。彼女は真面目だからな。個人的には少しユニークなのも出てほしいのだけど。
「えっと……街中でこのお店の名前を叫んでみるとかどうでしょう」
なんとも予想より斜め上を行くすごいのが来てしまった。
少しの沈黙の後、俺は何となく言われることを予想しつつ彼女に聞いた。
「……えっと、アリサ?それは誰がやるんでしょうか?」
するとアリサはきょとんとした様子で当然といった調子で言った。
「もちろん、カイルさんですよ?」
やっぱりねー!
何となく予想はできてたけど!
俺はちょっと頭を抱えたい気分になった。
どうやら4人ともどんな形であれ意地でも俺を働かせたいらしい。
そんなことを考えてる内に周りではあーだこーだと意見が交わされていた。
聞こえて来たものは、
『巨大看板を作ってみる』
『カイルから経営権を奪う』
『お店を移動させる』
などエトセトラ・・・・・・というか二つ目のは絶対フィーネが言っただろ。
でもまあ、確かにチラシを作ってみるのは名案かもな。
その気になれば魔術使って書けるし。
「ねえ。今『チラシ作るなら魔術使えばいいやー』なんてこと考えてたでしょ?そんなことはさせないよ?当たり前じゃん」
俺の思ってることを見透かせるらしいフィーネはニッコリとそんなことを言ってきた。
はあ、とため息をつき俺は降参とばかりに両手を挙げた。
「じゃあカイル。あとでデザインとか教えるから手書きでお願いね?」
そんな恐ろしいことを言うフィーネはなにも知らない人が見れば素晴らしい、俺にしてみれば恐怖の笑顔をしていた。
────チリンチリン
さて、と逃げるように俺が立ち上がろうとしたとき入口に取り付けているベルが音を鳴らした。
「久しぶりのお客さんだ。チラシ作りはまた後でな」
ドヤ顔で俺がそう言うとフィーネはちょっと悔しそうだった。
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