歴史の語り部

 さて、唐突だが歴史を語らせて貰いたい。

 なに、別に怪しいものでは無いさ。

 

 名前?そうだな……『筆者シナリオライター』とでも名乗っておこうか。


 これはあくまでも既に起きたことであって、これからも起きるであろうことだ。私はそれらをただ全てを書き記すのみの存在だからね。


 前置きが長くなったね。では語らせてもらおうか。まずはこの世界に起きたことを。







約1700年前。世界で初めて『魔法』というものが民衆に認知された。

 

 〇世界の法則に干渉する『魔術』

 〇世界の理をねじ曲げる『錬金術』

 〇人ならざるものを呼び起こし使役する『召喚術』


 そして、それを行使するのに必要な大気中に存在する『魔力』。

 その『魔力』を用いた3種類の術を総じて人々は『魔法』と呼んだ。


 人々の生活は一変した。

 魔法一つでなにもかもができるのだから。

 

 争いの方法も、ただ剣と剣を打ち付けるだけのものでは無くなった。

 戦のために開発した魔法を駆使し、殺すべき敵は遠くに霞み、戦場から罪の意識は薄れていった。


 そんな中一つの小国が『魔法』研究によって頭角を現していった。

 その国は高度な『魔法』と巧に訓練された術士によってその小国は力を付け、周囲の国からは恐れられた。


 それからしばらくして、その小国と、隣国の強大な帝国とで『魔法』の共同研究が行われる事となった。


 世界で初めての試みだった。


 その頃その小国は、近隣の国を戦争によって飲み込み、既に大国となり、対話すらもタブーとされていたからだ。


 この『研究』への誘いは意外にもその国から友好的な返事が返ってきた。

 当然、どの国にも裏の思惑はあったがね。


 研究内容は《擬似生命体顕現研究》と呼ばれるものだった。

 言ってしまえば世界各地に存在する神話や伝承の中に登場する生物を現実に呼び出す、というものだった。


 当時、この研究は世界中の注目の的だった。


 もし成功すれば、当時の生物学や、魔術学などといった学問が大幅に進歩すると期待されたからだ。


 だが、結論から言うとこの研究は失敗した。


 実験の事故による失敗では無い。

 原因は、帝国側の殺人事件である。


 この事件によって、いくらか良好になっていたその国と帝国の仲は瞬時に最悪となった。


 その後、帝国は誰の意見も聞かずその国に即時報復を仕掛けた。

 その国は帝国による報復に応戦。

 『魔法』の大国同士の戦争へとなった。


 そして、周囲の小国を巻き込んだ大戦へとすぐに発展した。


 悲惨なものだった。

 大規模な魔術攻撃で街一つを吹き飛ばされれば反撃として"召喚術"でバケモノに人々を襲わせ、殺させた。


 その戦争は何年も、何十年も続いた。

 いつだったか帝国は切り札として《神》と呼ばれるバケモノを使役し、戦争に組み込んだ。

 それに応じるようにその国も切り札として《精霊》と呼ばれる存在を造りだし、戦争に組み込んだ。

 《神》を殺すための《精霊》。

 《精霊》を殺すために進化する《神》。

 常にいたちごっこの泥沼となっていた。

 

 人々は『絶望』ですら生易しい負の感情を抱いていた。

 その感情は人から人へと伝搬した。

 そして、『魔力』にまで干渉できるほどに強まった負の感情によって未だかつて出会った事の無いモノと人々は出会った。


 そんなとき、何十年も続いていた大戦が急に終わりを告げた。

 理由は《魔獣》と呼ばれるこれまでに存在していたバケモノとは一線を画すバケモノの誕生である。

 

 人々の負の感情によって生まれた存在は人を喰らい続けた。

 これにはさすがの帝国等も対応せざるを得なくなり、急遽休戦協定が結ばれた。


 《魔獣》は増えつづけた。

 "魔法"で殺しても切りが無く、魔力があれば再生するのだから。

 そして《魔獣》は常に学習し、進化続けた。

 そうして切りもなく現れる《魔獣》に対して生まれる『困惑』『落胆』『絶望』『悲嘆』等といった負の感情こそが、さらに《魔獣》を生みだした。


 そして、その負の感情を纏った魔力は人類へ影響し始めた。


 だが、この影響は図らずとも人類へよい結果となった。


 獣の特性を得たウェアビースト。

 高い魔術適性を得たエルフ。


 人類の一部はその二種に進化した。

 それは人類にとって転機であることは間違いなかった。


 

 帝国は自らが造りだしたバケモノである《神》で抵抗し続けた。

 だがある日、その《神》は人間に牙を剥いた。

 同じく、《魔獣》に抵抗し続けた《精霊》は人間の手を離れ、いつしか行方不明になった。

 こうして、人類は一切の抵抗手段を無くし、誕生から人間に比べずっと早い速度で学習し、進化し続けた《魔獣》に負けたのだ。


 だが、それでも人類は数十年を掛け、かろうじて《魔獣》棲息圏と人類の領土を分け隔てることに成功した。

 

 それまでも研究は続けられ、人類はついに《魔獣》の急所とされる《コア》を発見した。


 大発見だった。ついに人類が《魔獣》に対して優位に立てるかも知れない。そんな希望が皆の中にあった。

 だが現実はそう優しくなかった。

 

 追い詰められた人類の武装では《核》を破壊できなかったからだ。

 どうやらその《核》を破壊するのには最低でも鉄板を貫通するだけの威力が無いとダメらしいのだ。

 それでも人類は抗った。罠や『魔法』を駆使して少しずつ、でも着実に倒していった。

 そうして、人類は泥臭く、《魔獣》と戦い続け、生き延びている。

 《魔獣》は進化する。だがそれに応じて人類も戦略を練り上げてバケモノを殺す。

 なぜなら、学習し、対応するのは人類の十八番であるからだ。




 これは世界第二位の大国ルトリア王国が生まれる少し前。

 物語が始まる1500年前のお話。




 さあ、ここからは私自身も世界の行く末を皆と共に見守って行くとしよう。

 

 いずれ私は姿を現すだろう。その時はまた話し相手になっておくれ。


 では、世界を見守ろうじゃないか。




 

 

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