第4話 考え方って大事

「今日、二人でお茶しない? オススメのお店があるんだけど……」

「へっ? ……まあ、良いよ」


 アンに喫茶店に誘われたブツは、断る理由もなかったので、彼女に付き合うことにした。そして今、二人は間にコーヒーと紅茶を挟んで向かい合っている。


「この前は余計なことを言ってしまって、ごめんなさい」

「……は?」


 いきなり謝られて、ブツは戸惑った。


「何でアンが謝るの?」

「この前のシャックとのケンカ、あれ私のせいよ。悪いことしちゃったわ」

「え、あれ僕センショーにはムカついていたけどアンには別に……」

「でもきっかけは私の一言だし……」


 アンの本当に申し訳なさそうな様子を見て、ブツは心の底から思った。ああ、この子は本当に優しい子なんだな、と。


「気にしなくて良いよ。僕が悪いことくらい、最初から分かっているから」

「そんな……」

「……僕、淋しいんだ。自分だけ良い時間帯が全くないっていうのが。だから、僕の次に凶日とされているシャックに仲間意識を持って欲しくて、わざわざああいうケンカを仕掛けるんだ。まあシャックは自分に自信があるから、効果ないんだけど」


 ブツは軽く笑い、紅茶をすする。そんな彼をを見て、アンは話を始めた。


「……仏滅に結婚式を挙げるカップルもいるの、知ってる?」

「……え?!」


 アンの衝撃的な言葉にブツは目を丸くし、カップから口を離した。


「仏滅だと値引きされるから、その日を狙う人もいるらしいの。あとゼロからのスタートということで、新しいことを始めるには仏滅は最適な日とも言われているのよ」

「……はー……」


 ブツは口を開けていた。信じられない。まさかアンラッキーの塊と思っていた自分が、こんなメリットもあったなんて。


「ブツが気にしているほど、仏滅は悪い日ではないと思うわ。大事なのは、やっぱりその人の考え方だと思う」


 自分が伝えたかったことを伝えられたアンは、ここで初めてコーヒーをいただく。


にがっ……」

「あ、大丈夫?」

「やだ私ったら、まだお砂糖もミルクも入れていないなんて……」


 アンは自分のちょっとした失敗に笑う。そのときブツは思った。

 僕の場合、こんな風に自分のことを笑い飛ばせないな。ほんの少しでもダメだったら、絶対に自分が嫌になる。僕は本当に自分が嫌いだ。

 ……でも……。


「……アン、ケーキとか食べる? 僕が奢るよ」

「えっ! そんな、今日は私、この前のお詫びにブツにごちそうするつもりだったのに……」

「僕が知らなかったことを教えてくれたお礼だよ。だから……、はい」


 ブツはアンに、メニューを渡した。


「ほら、何が食べたい?」


 この二人きりのお茶会は、ブツにとってもアンにとっても、素敵な思い出の一つとなった。

 また、ブツは決心をした。もっと自分自身のことをよく知り、自分自身を好きになることを。

 そして、シャックの生き方を認め、彼に謝ることを。

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