第3話 昼には特に力入れてます

 外から帰ってきたトモは、空っぽの弁当箱を持って台所へ向かった。


「ごちそうさまシャック。今日もおいしかったよ」

「そうか! 弁当箱、そこに置いとけよ!」

「いや自分で洗うよ。作ってもらっているんだから、それくらいしなきゃね」

「そうかぁ? ま、その前にこれ飲めよ。お疲れ」


 そう言って、シャックはトモに缶ジュースを差し出した。


「ありがとう」

「おうっ。はー、夕飯何にすっかなぁ」

「何でも良いよ。シャックの作るものは、どれもおいしいからさ」

「へへっ……。どんなに嫌なことがあっても、飯がうまけりゃ少しは救われるじゃん? だからオレ、ぜってー料理は頑張りてーんだ! 特に、昼は……」


 全てに凶とされる日、赤口。その中で唯一吉とされる時間帯が正午だ。シャックはそこで気を抜かず、より懸命な姿勢を見せる。


「オレが昼に力入れればさ、もっと良い時間になるだろ? それと他の時間帯の分を計算したら……まあプラマイゼロになるかなって。いやプラスか?」


 悪い時間帯ばかりの日なのだから、せめて自分自身はいつも明るく元気でいよう。そう心がけているシャックは、毎日みんなのために絶品の料理を作る。


「あとさ……お前のためでもあるんだよ、トモ」

「えっ?」

「だってお前、正午に元気なくなるじゃん」


 友引は、唯一正午が凶の時間帯とされている。


「だから昼に良い飯を食って、頑張って欲しいってこと!」

「そっか……」

「それにオレ……お前が励ましてくれたから、こうしていられるんだし……」


 シャックの耳が赤く染まっている。しかしそれに気づいても、トモは口に出さない。


「とにかく! そんな友達思いのヤツに、オレは優しくしてやりたいってこと! お前には元気でいて欲しいってこと!」

「シャック……!」


 トモは、シャックの言葉に嬉しくなった。


「ありがとう! これからもよろしく!」

「あ、ああ……」


 二人は握手した。シャックは照れくさそうだが、本当は喜んでいる。


「さーて、そろそろ夕飯作るかな……」

「あっ、おれも手伝うよ!」

「えー、仕事で疲れたんだから休んでいろよ」

「良いから良いから」

「……ホントお前の、そういうところがさ……」

「うん」

「……えっと……」

「何?」

「な、何でもねぇっ!」

「……そっか。うん、分かった!」


 オレ、マジで好きなんだけど。そう続けたかったシャックだったが、急に恥ずかしくなって結局言えなかった。それでもトモは、笑顔だった。




「……あいつもオレみたいに、楽しい生き方を見つけられたら良いんだけどな」


 夕飯の支度の中で、シャックは呟いた。それをトモは聞き逃さなかった。


「あいつ?」

「ブツだよ」

「あー……」

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