第2話 先の兄妹
「ぶー子起きろ! 今日は楽しみにしていた映画の日だぞ!」
「ん~……今何時?」
兄の大きな声に起こされた妹は、寝ぼけ眼で目覚まし時計を見る。すると彼女の目はパッチリ開かれた。
「げっ! お兄ちゃん、まだ五時だよ! いくら何でも早過ぎでしょ!」
「はっはっは! 兄ちゃん楽しみ過ぎて早く起きちゃったよ! どうだ、せっかくだから早朝ランニングでも……」
「嫌! ボクはまだ寝る!」
「そんな~。ぶー子、兄ちゃん淋しいよ~」
「こんなに早起きして、後悔しても知らないんだからっ」
せっかちなセンショーと違ってマイペースなぶー子は朝が弱い。午前中より午後から活動的になる彼女。前に「将来、夜の仕事でもしようかな」と軽い気持ちで口に出したら、「危ないから絶対にダメだ」と兄にすぐ怒られた。
「あぁ~っ……! 俺は何てバカなんだっ!」
「今さら?」
映画を見に行った兄妹だったが、映画を最後まで楽しんだのは妹だけだった。センショーは早起きしたために上映中に眠くなり、熟睡してしまったのであった。何度も指でつついたり、袖を引っ張ったりして起こそうとしたぶー子。しかし兄が起きたときには、もうエンドロールが流れていた。
「せっかくの映画が~……」
「だから言ったのに」
もうっ、と呆れる妹。しかしそんな兄を横目に、ぶー子は昔のことを思い出していた。
「きゃあああああっ!」
ある先負の日、ぶー子は当番で一日中家にいた。当番の者は、その日人々を見守るために、ずっと家にとどまっていなければならないのだ。家にモニターがあるので、そこでひたすら自分たちを頼りにしている誰かたちの様子を確かめているのだ。
よりによって、そんな日に雷が鳴り響く。ぶー子は雷が苦手なのに。
「怖いっ……怖いよぉっ!」
家で一人怯えていたそのとき、
「ぶー子っ! 大丈夫かっ!?」
「お兄ちゃんっ……?」
妹のことが心配だったセンショーが帰ってきた。急な雨だったが彼は傘を買わず、妹の元へと走って向かったのだった。
「……お兄ちゃんっ!」
ぶー子はずぶ濡れの兄に、わんわん泣きながら抱きついた。
「こんなに濡れて、本当にバカなんだからっ! ……でも、ありがとうっ……」
兄との思い出を頭に浮かべながら、妹は言う。
「……でもボク、お兄ちゃんのそういうとこが……」
「まあ良いか! どうせソフト化するだろうし、テレビでいつか放送されるはず!」
「……は?」
あんなに落ち込んでいたというのに、もうすっかり元気な兄に、妹はポカンとした。センショーは行動も早ければ立ち直りも早かった。
「というか、また二人で見に行くか!」
「……ボクはもう見たから良いよ! お兄ちゃん、一人で行けばっ?」
「ええ~……。冷たいぞ、ぶー子!」
「知らないっ!」
何だか損した気分でスタスタ歩くぶー子を、センショーは追いかけた。
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