立てこもり×立てこもり

ちびまるフォイ

お前それでも人間か

閑静な住宅街に並ぶ2軒の家の前に人だかりができていた。


「無駄な抵抗はやめてでききなさい!

 実家のお母さんは今の君を見てなんて思うか考えてみろ!!」


「うるせぇ! いいから俺の娘を開放しやがれ!」


立てこもっている1軒の家の窓から包丁を突き付けている男。

その向かい合わせの家には、娘に包丁を突き付けている別の男がいる。


「お前こそ、私の息子を離したまえ!!」


向かい合わせの家の立てこもり犯は、息子に包丁を突き付けていた。


「この子の命がどうなってもいいなら、逃走用の車を用意しろ!」


「君こそ、私の息子に傷一つつけてみろ。この子がどうなるか……」


「やめろ! 女の子の顔に傷をつけるつもりか!」

「君こそ、大事な息子に手を出すことは許さんぞ!!」


「こっちの要求は金だ! 金と逃走用の車を用意すれば解放する!」


「私の要求も同じだ! 金と逃走用の準備をしてもらいたい」


「うっせぇ! てめぇが用意するんだよ! 息子がどうなってもいいのか!」

「君が用意したまえ! 娘の血はみたくないだろう!?」


「……」

「……」




「ちょっと待って、これおかしい」


「私も思っていた」


「俺たちがお互いに脅しあってても用意できないよな」


「私が見てない間に、息子が刺されるかもしれないと思うと

 不安で金も逃走用の車も用意できないよ」


「俺だって、愛娘を傷つけられたらたまらない」


二人の立てこもり犯は腕を組んで悩み始めた。


「俺たち、脅す相手が間違ってない?

 こういうのって、もっと公衆に対して脅すものじゃないかな」


「そうだな。やってみてくれ」


立てこもり犯の1人は別の窓を開けて、野次馬に向けて脅しをかけた。


「おいコラ!! 金と車とYシャツと私を用意しやがれ!! 

 さもないと、この子を串刺しにするぞ!!」



「やめろぉぉぉぉぉ!!!」


向かいの家から絶叫が聞こえた。


「貴様!! 私の息子をどうするつもりだ!!」


「いやだからさっき、脅す相手を変えようって……」


「それは知っている! だが、被害者は私なんだ!!」


「お前どっちの味方なんだよ!!」


「君だって、私がこの子に包丁を突きつければ黙っちゃいられないだろ!」

「それは……」


2人の犯人は再び考えた。


「あ」

「何か思いついたのか?」


「結局、お互いに弱みを握り合っているから悪いのだ。

 私たちはお互いに人質交換すれば、お互い無関係になるだろう?

 これで心置きなく、立てこもり要求が続けられるはずだ」


「なるほど」


2人の犯人はお互いの人質を変えて、それぞれ包丁を突き付けて要求した。


「オラァ!! 俺の娘がどうなってもいいのか!!」


「私の息子が刺されたくなければ、金と逃走用の車を用意するんだ!!」




「「 いや、これはおかしい 」」


二人はすぐに包丁を置いた。


「自分の子を人質って、俺しか損してないじゃん。これダメだって」


「私も、包丁を突き付けている間に良心の呵責で自分を刺しそうになった」


「もっとちゃんと立てこもりできる方法はないものかな」


「うーーん……やはり人質は他人に限るな」


「それだ!!」


犯人のひとりはポンと手をたたいた。



「俺たちの要求は同じじゃないか! 金と逃走用の車、そうだろ!?

 だったら二人で協力すればいいんだよ!!」


「話が読めないな。どうすればいいのだ?」

「ちょっとこっち来て」


犯人は別の犯人の家に移動した。


「これから、俺がお前を人質にして警察に脅す。

 そうすれば金と車を手に入るだろ?」


「おお、なるほど。それを折半すればいいのか!」


「ここまで完全に包囲した警察なんだ。

 犯人が死亡してしまって、マスコミにたたかれるのは一番避けたいはず」


「私の命は何よりも人質向きということだな」


「俺たち悪い奴だな」

「まったくだ」


二人は段取りを確認してから、野次馬に見えやすい窓辺へと移動した。

片方の犯人の首筋に包丁の刃先を当てて、ドスのきいた声で叫ぶ。



「オラァ!! この犯人がどうなってもいいのか!!

 こいつの命が惜しければ、現金と逃走用の車を用意しろ!!」



犯人の脅し文句に警察は答えた。



「そんなことしてみろ。ここに連れてきた実家のお母さんの頭が吹っ飛ぶぞ。

 3つ数えるうちに出てこないと、親族全員留置所にぶち込んでやる」


2人の犯人は泣きながら家を飛び出し手錠を首にかけられた。

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