3.オサナナジミ

・Side.春香


 野花春香わたし野花紅葉ののはなもみじは幼馴染だ。

幼い頃から、というか生まれた時から何をするのもずっと一緒。遊ぶのも、宿題するのも、登下校だって(家がお隣だったということもある)。

 そのうえ、互いの親同士が結婚した義兄妹。

高校もお互いに離れたくないみたいな、そんな理由で家から近い高校に入学した。

 

 ———『産まれた日も一緒とか運命じゃん。付き合ったほーがいーよ』、と友達は言うが、

正直自分が彼のことを好きだと思っているのか、そこが分からない。


 好きか嫌いかと問われれば、勿論好きだ。大好きだ。

ずっと一緒にいたいと思う。結婚したいとも……。

 けれど———、けれど、それが恋心なのかが分からない。

結婚しなくても一緒にいることは出来る。正直、それで良いとも思わなくもない。

……やはり、分からない。


 ガラッと音をたて教室前側のドアがひらいた。

顔を出したのは、その《・・》紅葉だった。


 私を見つけ、笑顔で手を振ってくる。

 ので、振り返した。


 恋心なのか、やはり分からない———けれど、こういうの…幸せだ。


 「なぁ~にが幸せなの…?」

 

 口に出してたみたい。

目の前でさっきまで談笑してた友達になんでもないよ、と言っておく。


 「まぁ、春香が会話の途中で意識飛ばすのはいつものことだしね」

 「え?それはハクちゃんでしょ」

 「あれはエセ完璧美少女の変態。妄想にイっちゃってんの。んで、あんたは変人枠」

 「変人?私が…?そんなことないと思うけど……」


 ふっ、と鼻で笑われた。少し心外。


 「あ、それ分かる。春香ちゃん会話の所々がズレてるし、唐突に歌いだしたりするもんね。アホの子なのかな、とか思ってた」


 隣の席で次の授業の予習をしていた女の子まで共感している。少し侵害(誹謗中傷されない権利の)。


 「アホの子っていうか…、モノホンの変人?春香あのフォルダ見せてあげて」

 「え?うん、まぁいいけども」


 スマホを取り出してギャラリーから、ある写真を一枚選んで彼女に見せた。

ただの紅葉の写真——なのだが、

「きゃぁあ!!な、なにこれ!??」とプラス赤面で驚かれた。


 ただの紅葉の半裸・・の写真なのだが———。


「驚くよねー。で?なんでそんな写真とってるのかな、春香クン?」

「お父さんがお義母さん、あ、義理のね。お義母さんと再婚したその日の夜に撮ったヤツなんだけど。お風呂入ってた紅葉がパンツだけ穿いて出てきてさ。びっくりするよねー、水着は見たことあったけどさ。でね、これ!紅葉って滅茶苦茶良い体してるんだよ!?色気がヤバくない!?えっちだよね!気づいたら思わず連写してた、へへへへ!」

 「あっ、はーい(こいつ、やべーわ)」

 「…………(………)」


 ?

なんかズザッて幻聴おとがしたような?


 「マジ引くわー」

 「うん…、ちょっと引いちゃった」

 「えぇ…。なんでぇ?」


 自分は何かおかしいことをしているのだろうか。

ズレているのだろうか。変人だね、とは確かによく言われる。ずっと言われてきた。

分からない。自分はそれなりに周りに気を使いながらも、自分のしたいことをしているだけなのだが。


 「いや、まぁね?確かに紅葉君はイケメンだし、裸に興奮するのも分かる。でもそれを撮って、フォルダーまで作って集めますかって話」

 「全部が全部裸じゃないよ?普通にカッコいい私服とか、可愛い寝顔とかいっぱいあるし」

 「そうじゃなくてさ…。好きな人でも普通はそんなことしないよ?ストーカーレベル」

 「えー、そうなのかなぁ」


 紅葉に撮っていいかは聞いたし、良いと思うんだけどなぁ。


 「それに、このフォルダ友達の分あるよ」

 「……え?」

 「そう、そこなんだよね。この子知り合いの名前のフォルダーパソコンにめちゃくちゃ作ってんの」

 「えぇ!!こっっわ!!!…あ、本音出ちゃった———でも怖ッッ!!!」

 

 失礼な子だ……。

そんなに言うなら今度この子の分のフォルダも作ってやろうか。

勿論撮影の許可はとるけど。


 ふと、脈絡なく紅葉が気になりそちらを見てみた。

紅葉の方もクラスの友達と喋っているようだった。笑顔が良い。許可は後でとるとして、とりあえず一枚……。


 「だから急に会話キャンセルするんじゃない」

 「あはは……」


 パシャ。教室に音が響き、直後にチャイムが鳴った。



・Side.紅葉


 オレの幼馴染は変わり者だ。

小学生の時はペンで目の上に目を描いて「これで授業中に寝ても大丈夫だね」などと供述し皆を笑わせたり、中学生の時は男女別々の教室で着替えてる時に外のほうが涼しそうなんて理由で廊下で着替え始めたり(すぐに先生に止められたが、彼女的には下着までなら見られても問題ないらしい。よく分からない倫理感である)。この前、学校に家で捕まえたカメムシを20匹ほど持ってきて教室で飼いたいなんて言い出したり。

 目に見えて変人なのだ。春香は。


 「副会長。もうすぐ中間テストだが、君は大丈夫なのか?」


 放課後。生徒会室で会長———白石さんから突然そんな質問を投げかけられた。


 「はい。いつも通りだと思いますよ」

 「そ、そうか。君も春香もすごいな…。男女が一つ屋根の下、色々疲れるだろうにいつも10位以内をキープしていて……」

 

 ??

ちょっと何言ってるかわかんない。

それに凄いのは会長、貴女の方だろう。いつも総合1位なのだから。


 「だが、節度はきちんと守らねばな!高校生らしい関係を——その、具体的には…をだな…ちゃんと付けないと、……出来ちゃうから…」

 「はぁ……」


 時々会長はよく分からない。

よく分からないなりに分かっている。

堅物すぎる会長にも思春期らしい所があって安心だ。

 春香に言わせれば変態の域だそうだが。

まぁ別にいいんじゃないかな。年頃なんだし。


 書類分別の息抜きに、眼鏡を外しレンズを拭いていると、

「こうしてみるとホントにイケメンですよね、野花先輩って」

書記さん——1学年後輩(つまり二年生)の女の子——がそんな事を言ってきた。


 「そ…う?ありがとう」

 

 こういった類の誉め言葉は有難くも返し辛い。

「そんなことないよぉ…えへへ」が正解なのか。はたまた、

「俺もつくづくそう思うぜ、へへっ」が正解なのか。

 

 「確かに、君は美男子だ。さぞおモテになることだろう———春香も苦労人だな」

 「いえ、オレなんて皆の眼中にもないと思いますよ。それに、オレはその春香が好きなので」


 苦笑交じりの会長の言葉にオレが答えると、

おお、と謎の歓声が周り(生徒会役員の数人)から上がった。


 「ああ、そうだったな。訂正———春香は幸せ者だ」

 

 可笑しそうに笑う。

ここだけを切り取れば凛とした美人の生徒会長、といった風なのだが。


 「別に付き合ってるわけではないですけどね」

 「ふむ。そこが疑問だな…。君達は何故交際しない?」


 直球ドストレートですね。

球速も文句なし。三振とれるぐらいだよ。


 「まぁ、小さい頃から幼馴染でやってきましたから。きっと怖いんですよ———今が変わるのが」

 「成程、まぁ有りがちなパターンだな」

 

 ちょっと失礼じゃあないかな、この人は……。

確かにありがちだとは思うけど、きっとこれは本人じぶんたちにしか分からない悩みだとも思う。

自分が相手を好きなのは分かる。けれど、相手が自分を好きかは分からない。

それでも、それだけなら問題はない。関係はない。支障はない。

普通の告白はそういうものだ。元より相手が自分を好んでいてくれているかなんて分かるはずもない。

—————しかし、幼馴染オレたちとなると話は変わる。


 産まれた時から絶えなく共にいた。

その関係を崩したくない、というヘタレ・オブ・ヘタレ。


 「そろそろ、下校ですね」


 会計クン(二年生男子)のその言葉の直後廊下に生徒の影がちらほらと見え始めた。


 「では、今日はここまでにして帰ろうか」

  

 それぞれが荷物を持って席を立ち、挨拶をして生徒会室を出始めた。

 じゃあ、オレも———、

 「帰るか、紅葉君」

 「はい」


 彼女は春香の親友であり、家も俺達と同方向。

なので、下校はいつも途中まで一緒なのである。

曰く、「お邪魔虫と言われるだろうことは先刻承知。でも独りで帰りたくない」。


 もう部屋には他におらず、オレが先に、続いて白石さんが出て鍵を閉めた。


 生徒会室は下駄箱の真ん前である。

見ると、下駄箱では春香が部活(テニス部)の後輩と話していた。

オレと白石さんが出てきたのを確認すると話を切り上げて、こちらへ駆け寄ってきた。


 「終わった?帰ろー」

 「りょ」「あぁ」


 そして、オレ達は下駄箱を出、自宅に向かう。


 余談だが、白石さんは最近周り——主にオレ——に堅物と言われるのも我慢の限界にきたらしく、若者言葉———所謂JK言葉を多用し始めた。そマ!?、とか、先程のりょ、とか。全く慣れてない感があるが。そこが可愛いと評判だ。

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明日のきみぼく 御劔シュガー @mithurugi

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