2.コンビニエンスストア
・Side.
「ぃらっしゃいあせー!」
お客の来店を報せる無機質な機械音と共に、男の気の抜けた声が響く。
続いて俺もレジの前で声を上げた。ッしゃぁせー!!
日本全国的に展開した有名チェーン店舗の制服を着こみアルバイト中の俺、
大学の学費は全て払う代わりに生活費は全て自分で稼げと親に言われましての一人暮らし。
まぁ、俺ももう成人だ。いつまでも親の脛を齧って暮らすわけにはいかない。
———は、良い。それは良い。別に良いのだ。
学費を払ってくれるだけでも、本当に有難い。
けれど、今の俺の生活はと言うと毎日毎日バイト三昧。
大学が終われば夜までバイト。土曜もバイト。日曜もバイト。
一人暮らしを始めて親の有難みを知ると言うが、全くもってその通りだ。
自分で暮らしていくお金を稼ぐことがこれほど大変だとは思いもしなかった。
まだ、家で高校生してる弟が羨ましい。
今日も家に帰れば待っているのは孤独だけ。
コンビニ弁当を食べ、風呂入って寝る。毎日この繰り返しだ。
………彼女ほしい。
あああああああ、マジで彼女ほしい。欲しいよ彼女。
家に帰ればご飯作ってくれてる彼女が欲しい。癒してくれる天使が欲しい。
出来れば黒髪ロングで清楚っぽい、そう——目の前のこの子のような……。
「これ、お願いします」
どすっ、と目の前に商品が置かれた。
「あっ、はい!」
しまった気が抜けてた。
ぼーっとしてんなよ俺。しゃんとせいっ!
……いやでもこの子ホント可愛いな。
好みドストレート、直球ドストライク。
腰上までのびた黒髪。凛とした表情は童顔の彼女でも綺麗に見せるほど引き締まっている。
高校生だろうか、制服的に。
あれ?でもこの制服どこかで……って母校のじゃねーか。
俺の通っていた高校、弟が今通っている学校のもの。見覚えがあるのも当たり前だ。
いいなぁ弟よ。
こんな可愛い子と同じ学校なのか…。
知り合いだったりすんのかな、裏山。
「1902円になりまぁす」
「はい」
声も可愛いし。
なんというか堂々としてる?
クラス委員でもしてそうな感じ。
女の子が財布から2000円を取り出し、それを受け取ってお釣りを渡す。
———れれ?でもこの子の顔にも見覚えがあるような?
そうだ——この子前にもこのコンビニに来てた。
その時も俺がレジで、さっきみたいに可愛いって思ったんだっけ。
あれが確か1週間ちょっと前。ここにはよく来るんだろうか。
「ありがとうござっぁしたぁ」
「有難うございました」
律儀に、丁寧にお辞儀をし商品を持って彼女は店を後にする。
・Side.
生徒会会長職。
私の学校内における肩書きはそれだ。
我らが
生徒会役員や在校生たち、教職員各位、そして地域の人々に生徒保護者各位の手助けを借りて、つい
周りからは——主に、副会長等からは堅物堅物と、毎日のように揶揄される私だが人並みには娯楽も嗜むし趣味だってある(盆栽だ、なんて言うとまた馬鹿にされそうだが)。
—————それに……、私とて年頃の
色恋にだって興味はあるのだ。
コンビニの中をガラス越しに覗く。
視線の先には一人の男性。短髪で長身長の好青年。
…所謂、気になっている人、だ。
あぁ!今、髪掻き上げた!!
—————やば、かぁっこぃぃいい!!!
ってぇ、落ち着け私!早速崩壊するな!
「でも、やっぱり格好いい……」
お釣りを渡す時の笑顔、あれだけで昇天出来そうだ。
『なぁにがカッコいいの?』
「突然話しかけるな、びっくりするだろう」
スマートフォンからの親友の声に返事する。
『いやいやいや、まず電話中にトリップしないでよ』
「すまない、だって…彼が髪を……」
『知らないから。もー、ハクちゃんがだってとか使うと違和感が凄いよぉ』
そんな事を言われてもな…。
大体春香は彼の素敵さを分かっていない。
一度連れてきてはみたが、へー、とかふーん、とか。
彼を見て、どうしてそんな極薄反応が出来るのかまるで理解できない。
まぁ、惚れられても困るからその分には問題ないし良いのだが。
それに、まぁ———春香には副会長がいるし、他の男には興味ないというのは分かる。
一人を好きになると他の人に意識がいかなくなるのだ。今の私がそれ。
彼を好きになった理由があるのか、と聞かれてもすぐには答えられない。
よくここのコンビニで見かけるうちに、彼の人柄に惹かれていったとしか。
特に大層な切っ掛けがあったわけでは決してないのだ。
好きになってからは、それはもう毎日彼のことを考えて(生徒会活動中は控えてはいたが、それでも———)朝昼晩問わず何処でも脳内は彼、だ。
彼女はいるのだろうか、とか。好きな人は?とか。年齢は?とか。今、何処で何をしているんだろうか、とか。私の顔は覚えてくれていたりするのだろうか、とか。告白したいシチュエーションだとか。告白されたらどうしよう、だとか。付き合えたら何しよう、とか。キスしたいな、とか。彼の裸を見たいな、だとか。えっちなアレソレとか。とかとかとか。
『おおーい、聞いてるハクちゃぁん?』
「あ、すまない。全然聞いてなかった」
またトリップしてしまっていた。
いつもこんな感じだ。これも私をここまで夢中にさせる彼が悪い———だなんて責任転嫁して、そう言った時の彼の返し言葉を捏造したりして脳内妄想する。私の中の彼は突然押し倒してきたり、キスしてきたり、抱き締めてきたり、凄く積極的なのだ。
『まぁ、そこまで重要なことでもないし、いいけどー。あ、っとご飯の時間だから切るねー』
「ああ、ええと……、りょ!」
『ふふっ、ばいばーい』
ピッと電話が切られた。
画面の右上、時間を見るともう7時を回っていた。
私ももう帰らなければ。我が家、白石家は門限がかなり厳しい。
最後に、働く彼の横顔を一瞥し帰路に就く。
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