明日のきみぼく

御劔シュガー

1.毎朝毎夕君を見る

・Side.鵜奏うかな


 ———最近、気になる人がいる。

女々しいなどと言われても致し方ない。けれど、時と場所を選ばず彼女のことを考えてしまうくらいに俺は彼女に惹かれているのだ。


 電車に揺られながら隣に座るその子を流し見る。

綺麗でいて可憐。女子を見る目に自信があるわけではないが、彼女を言葉で飾りあげるならこんな感じだろう。

一見冷たくも見える眼差し。その中にふとした時に垣間見える温かさ。彼女はきっと優しい子なんだろう、と他人の目線からそう思う。


 まぁ、言ってしまうと———カワイイ。

超絶可愛い。当たり前だ。でなければ、一目惚れなどしない。

4か月前。

今年の四月。入学シーズン。

俺は高校二学年に進級し、新一年生を迎える側となった。

別段心変わりなどもなく、いつものように登校しようと電車に乗り込んで……、

———そして彼女を見た。

 正に、『その時、篠宮鵜奏に電流奔るッッ!!!』といった感じだ。

見事に一目惚れした。一目で惚れた。

自分がこんなにも安い男だったとは信じたくはなかったが、それほどまでに彼女は綺麗で可憐だった。

ついでに言うとドチャクソ好みだった。


 この4か月、毎朝毎夕登下校時に彼女は俺と同じ電車に乗っていた。

一言も会話することはなかったが、俺にとってのその時間は何時いつよりも何処どこよりも幸福に満ちていた。


 名も知らぬその子が着ている制服は、この近くにある公立大学付属高校のものだ。

所謂セーラー服。今は夏服のようで白が基調の薄い生地となっているが、最初彼女を目にした時は上下黒色の冬服だった。

そこに通う中学時代の友人に聞いてみると空色のスカーフは一年生の証だそうだ。

つまり後輩である。

名前も知りたいところだが、男ならそれくらいはズバッと自分で聞きに行くべきだ。

4か月声一つかけられなかったお前が何を…とか言われそうだが。

切っ掛けさえあれば、話しかけよう…そう思ってはいるものの肝心のその切っ掛けが訪れず……。もういっその事思い切って連絡先でも聞いてみようか、とか思っている。

例え、ナンパと思われようとも彼女と知り合いになれるなら万々歳だ。


 とかなんとか考えていると、電車が停車した。俺の降りる一駅前まで来ていたようだ。

最後にもう一度…、と彼女を横目見る。

うわっち、目が合った。

でもうん、可愛い。これで今日も1日生きていける。


 ガタン、と音をたて電車が駅を離れ始めた。



・Side.玲華


 ———最近、気になる人がいる。

気づかれないように彼の顔を盗み見る。

端正な顔立ち。整った顔の造形は大人っぽさを滲ませ、見る度にどくんと心臓が跳ねる。


電車でいつも私の横に座る彼は近隣高校の先輩のようだ。

以前、電車内で彼と恐らくその友人の会話から判断するに彼の名前はウカナ。漢字及び姓は不明(あるいはウカナが名字かも)。

しかし、珍しい名前だ。うん、多分珍しい。

字はどう書くのだろう。

兎奏?鵜奏?それともひらがなか。

興味がある。知りたい。聞きたい。

彼のことを———もっと。


 「———っ!?」


 め、め、めめ、め、目が合った!!

びび、びっっっくりしたぁ…。

眼を逸らしてうつむいて、けれど爆発したかと思うほどの心臓の鼓動はそんな簡単には静まらず。こんなことで、これぐらいのことで、簡単に私の顔は熱く赤くなるんだ。

どうして目が合ったのかとか、急に眼を逸らして意識してるのとかバレバレじゃないかなとかそんな事が脳内を渦巻きながらも、そこで彼が降りる駅が来た。

私は次の駅が自校への最短なのでまだだ。

ウカナさんが席を立ち駅の人込みへと消えていく。

これで、彼と夕方まで会えないのだ。

……同じ高校なら良かったのに。


 自分で言うことでもないし、分かっているなら改善しろと知り合いには言われそうだが、私は基本的に大人しい。

クラスでも必要最低限の義務的な会話しかしないし、私が笑って会話する人間などこの世界に6人いるかいないかだ。

理由は単純。超が二つ三つ付くほどの人見知りだからである。

氷像クールだとか冷血少女だとかいう二つ名は、そんな私の内面を見てからつけてほしい。

 これでも必死に笑顔を作ろうと努力しているのだ。

まぁそんな私、飛鳥玲華あすかれいかが他校の、それも毎朝毎夕同じ電車に乗るだけの憧れの先輩に話しかけることが出来るだろうか。———出来るわけがないやん。


 ……何度も挑戦した。

けれど、いざ話しかけようとすると呼吸が詰まり、顔が熱いを通り越して痛みすら訴えてくる。勇気は羞恥によって悉く破壊された。

いっそのこと、彼が何らかの切っ掛けによって、何故か私に好意を抱き、なんと私に話しかけてくる、というまさかの展開を期待したりもしている。


 少女漫画とか乙女ゲーみたいに、私が痴漢にあいそうな所をかっこよく助けてくれたり———、……しないかな。


 ガタンガタンと音をたて進む電車に揺られながら切に願う。

—————いつか、彼と話せる日が来ますように。

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