第5話 別れ
まるで御伽噺のような長い話だった。
私は、彼の話を半分信じて、半分疑った。人間とはそういうもので、大人とはそういうものだ。素敵な話ではあるけれども、本当に妖精がいるのかどうかはわからない。けれども彼の指には枯れた花冠があって、しかしそれは彼が自分で巻き付けた糸であるかもしれない。
それでも私は、彼の頼みを聞くことにした。もし私がサリィに、あるいは別の妖精に会えたのなら、その話は現実であるからだ。そして、彼の愛も。
天使や妖精のように思える彼のその長い話が終わって、しばらくして、列車はようやく駅へと着いた。列車が止まって、荷物を手にして、彼と共に出口へと向かう。出口へと向かう人々、あるいは駅のホームにいる人々の雑踏が、ひどく懐かしく思えた。まるでいままで夢を見ていたようだった。夢のような話を聞いていたのだから。
やっとのことで、彼と共にホームへ降りる。そして彼は、私へ笑いかけた。
――僕の話を聞いてくれて、ありがとうございます。頼み事について、どうかよろしくお願いします。
そして、改めて荷物を手にして、歩き出す。
――僕はもう行きます。またどこかで。それでは。
私も彼に、話をしてくれた礼を伝え、別れを告げた。彼が向かった方とは、別の方へ歩き出す。
それでもふと気になって、振り返ったのだ。
彼の姿はもうなかった。私の背後にあったのは、雑踏だけだった。どんなに遠くを見ても、彼の姿を見つけられなかった。
まるで彼の存在そのものが、幻想であったかのようだった。
私は彼を捜すのを諦めて、先へと進んだ。
彼が再びサリィに会えることを祈って。
その後、彼がサリィに会えたのかは、知らない。
サリィの花冠 ひゐ(宵々屋) @yoiyoiya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます