走れ正直者
ハイロック
「走れ正直者」
『交差点で100円拾ったから交番に届ける』、どころか1円拾っても届けるような男がいた。
それが
彼はとにかく嘘がつけない、いい意味でも悪い意味でも正直で、思ったことは素直に言ってしまう。学校の先生に寝ているところを注意されて、「つまらないので寝ていました」とか、「昨日両親がプロレスごっこをしていて気になって宿題ができなかった」とか、周りが恥をかいて怒らせるようなことばかり言ってきた。
まあしかし小学生の頃は珍しいことではない、こういう馬鹿が一人はいるものである。周りの人も友人も
ところがその正直さは続く。
中学1年生の時であるが、彼はある女の子に告白された。彼は、端正な顔つきをしており、運動神経もよく、馬鹿ではあるが成績もよかった。
「まっすぐ君、私と付き合ってください」
「いやです」
「……な、なんで?」
「だって、ブスとつきあいたくないです」
確かに告白された子はかわいくはなかったが、あまりにもひどい断り方だった。噂はあっという間に広がり、
それでも女の子にはモテた。
「まっすぐさん、私と付き合ってください」
「いやです」
「……えっ、私ってブスかなあ?」
「ブスじゃないけど、性格が最悪だと思ってます。僕はあなたのことを信用してません、嘘しかつかないし、見栄っ張りだし。僕はうそつきが嫌いです」
「……ひどい」
こんな例もあって、女子の間での評判はますますひどくなった。
この出来事については一部で喝采されたらしいが。
部活動のエピソードでこんなことがあった。彼はサッカー部であったのだが、やはりそこでも思ったことを素直に言ってしまう。
「なんで、先輩方はサッカーが下手なのに、僕たちよりそんなに偉そうにしてるのですか、なんでレギュラーなんですか?僕が試合に出たほうがいいと思うんですけど」
大変にもめた、先輩は激怒したし、同級生も正直を避けるようになった。いじめを受けて、サッカー部で孤立していったが彼はめげない、めげないというか気にしていなかった。
「僕は正直に生きろと言われました、あなたたちはなぜ、自分の間違いを素直に認められずにいじめとか無視とかいうくだらないことを始めるのですか」
終始こんな感じだった。何を言っても無駄だと思ったのか、いじめはすぐなくなり、気づけば彼はサッカー部のキャプテンになった。世の中は不思議である。
キャプテンになっても彼は変わらない。
新入生に対して、「君は下手だから、サッカーをやめたほうがいい」とか、同級生に対して「2年生の方が上手だから、レギュラー外すね」とか正直に言い続けて、もちろん言われた方は心底むかついたが、まあ正直が相手じゃ仕方ないかという気持ちになった。
おそばせながら中3で性に目覚めた。あいかわらずもてる彼ではあったが、すでに女の子達は正直と付き合うのだけは嫌だと思っていた、隠し事をできない彼に恋愛は不向きなのである。
そんな中、正直は町でとてもきれいなお姉さんを見つけた、高校生だろうか。
すぐさま、その女性の元に近づき声をかけた。その隣には彼氏がいたのだが……。
「お姉さんを見てとてもセックスしたいと思いました。僕は童貞です、やらせてください」
まっ直ぐな目で、女性を見つめると、女性はただたじろいでいた。もちろん正直はその彼氏に殴られた。しかし、正直も負けずと殴り返す。
「なんで、お前みたいな不細工で中身のなさそうな奴が、きれいな女の子と付き合ってるんだ。別れろ!」
そんなことを言いながら、ケンカになった。街中で行われたそのケンカはすぐさま警察が呼ばれ、正直は連行されることになってしまった。
ここでも正直は素直にすべてを話してしまう、「カップルの女の子とやりたいと思ったから、彼氏と喧嘩した」一言でまとめるとこうなる。
やばいやつだ、町中でやばいやつと評判になったのだ。
その後の正直の人生も
しかし人生はわからない。
彼の友達がユーチューバーになると、正直すぎるやつがいると彼は一気に話題になった。彼のエピソードはいちいち面白い話ばかりで、ユーチューブの視聴者を虜にしていった。
気づけばテレビで、コメントを求められるようになった。一切テレビの事情や人のことをおもんばからない彼の言動にお茶の間は実に痛快だった。一躍人気コメンテーターになった。
嘘をつかないを通して50年、彼はとうとう、世界で最もクリーンな政治家として総理大臣になった。民衆は彼を支持した、何せ彼は嘘をつかないのだ、野党も彼に対してなんの追及もできなかった。同時に彼は一切の団体の圧力や要求も聞かなかった、ただただ自分が正しいと思うことだけを正直に世の中に訴えつづけた。
「自衛隊は軍隊だ、今すぐ憲法を改正して、軍隊にするべきだ」
そうだそうだー、民衆は支持した、憲法は改正された。
「お年寄りに甘すぎる、医療や年金は削減して若者に金をかけるべきだ」
そうだそうだー、民衆は支持したようだ。
「少子化がどうにもならない、女性には3人以上子供を産んでもらうべきだ」
そうだそうだぁ、ん、そうだろうか?
まあ、でも
「核兵器が必要だ、持たずして、国は守れない!」
そうか?そうだろうか?
まあ、でも
民衆は支持した。
「中国は危険だ、あいつらは、日本を乗っ取ろうとしている。今すぐ核をうとう!」
えっ!
いいのか?それは、さすがに。
まあでも正直に考えたら、中国っておかしいもんな。
民衆は支持した。
そうして核は放たれた、中国に向かって!
第三次世界大戦がはじまったのだ。
リーンリーン、らーんらーん。
走れ正直者 ハイロック @hirock47
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