円盤男

安良巻祐介

 

 往来に円盤男というのが出ると聞いたので、もう宵の口であったが、草履を履いて見に行った。

 昼過ぎに家へ来て話していった知人の話では、それはかなり奇怪な見た目をしており、目撃してあまり気持ちのよいものではないという。

 奇怪とはどんな感じなのかと聞いても、知人の感想は曖昧かつ感覚的で、あまり要領を得なかった。ただ、色についてはやけにはっきりと、銀色だ、と言った。

 なんとなく、部屋の押し入れの奥にあるはずの、昔撮った円盤写真を思い出した。

 夕焼けが赤く染める道に、ぼんやりと長い影を伸ばしながら通りに出ていくと、遠くで笛の音がヒウと鳴った。

 そこらに注意して見回すけれども、くだんの怪人らしい男はどこにも見えない。

 ただ、胸を病んででもいるらしい酔っ払いが一人、体を壁に擦り付けるようにしながら、かぼそい足取りで歩いていた。

 ぼうっと眺めたまま、夕焼けの色に侵食される頭の奥に、いつの間にかぽっかりと四角い区切りができていて、その中の薄呆けたビルの群れの真ん中辺りを、潰れ球に羽の生えたような物体が、音も立てず飛んでいる。

 その色は、何色だったろうか。

 視界から消えて行く酔漢の覚束ない足取りに、脳裏の飛行物体の軌跡を重ねながら、ふと、円盤男とはつまり、こうしてこの道を見ている自分達一人一人じゃないか、と思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

円盤男 安良巻祐介 @aramaki88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ