第6話

<前回までのあらすじ>

一枚目のモンスターカードを入手した一行。

レベルを上げつつ、次に向かったのは

怪しい雰囲気漂う街、カニングシティだった...。


ーーーーーーーーーー


「やっと街に着いたよ」


キタキツネの声で安堵した。


「疲れましたよ・・・」


かばんは額の汗を拭った。

道中気持ち悪いモンスターが出てくる度博士が一々、

自分の後ろに隠れるのだ。


しかも、自分では攻撃しない。

そのうえ、命令口調、お礼は何も言わない。


色々文句は言いたいが、かばんの性格上それは出来なかった。


一同は休息を取る事にした。


「あっ、そう言えば...、ここに地下鉄があるんだよね」


「なんだ?地下鉄って」


「乗り物ですよ。バスや船とは少し違いますけどね。

主に地面の下を走る電車っていう乗り物のことを言うんですよ」


僕はヒグマにそう教えた。


「流石、博識だね...。ねえ博士...、博士?」


「もうこんな変な世界から出たいのです...」


平常の顔と比べると、とても疲労困憊しているようだった。


「キタキツネは頭おかしいのです...。こんな世界を楽しめるなんて...」


そう、タイリクに愚痴を漏らした。




「ねえ、せっかく休むなら地下鉄に乗ってカニングスクエアに行こうよ」


キタキツネが顔を喜ばせながら提案した。


「お店とかも沢山あるんだ」


この世界を知っているのは、彼女だけだ。

特に異論なくそこへ行くことにした。





<カニングスクエア>


「いやあ、地下鉄って面白いね!」


"クゥーン!"


タイリクも、彼女のペットのシロクも嬉しそうだった。


「...、あれがよく面白いって言えますね...。うるさいし揺れるし...」


博士の機嫌は如何にも悪そうで、睨まれてしまった。




確かにキタキツネの考えは正しかった。

休息するにはピッタリな場所だ。


ハンバーガーの店に入った。

食べ物を与えた事で博士の苛立ちは多少消えたようだった。


5人が食事をしていると。


「キャーッ!!!」


突然、何処かから悲鳴が聞こえた。





「どうしたんでしょう・・・?」


「無視で良いのです」


「いや、待って。これは経験値大量確保の匂い...」


キタキツネの顔が緩む。

彼女は早々に立ち上がり、声の元に向かって行った。


「どうしましたか?」


「あっ...、キ、キミっ!!た、助けてくれないか!?」


正装の男が酷く狼狽しながら言った。


「彼女に渡すつもりの指輪がっ...、黒い奴に奪われたんだ...。

う、上の階へ物凄い速さで逃げていった...。

頼む!か、彼女が来るまで40分しかないんだ!」


「わかりました!僕達に任せてください!」


意気揚々にそう答えた。


「ああ、助かるよっ!!お礼は何でもするから!」





キタキツネから事情を聞かされた。

彼女以外は、全員内心で「えぇ...」と思っていた。

博士も露骨に嫌そうな大きな溜息を吐いた。


とはいえ、困った人を無視する訳にもいかない。


渋々、エスカレーターに乗り上の階へ向かった。



そんな中、異変が起きたのは、3階に到達した時である。


「...ん」


「どうした?キタキツネ」


ヒグマが声を掛ける。


「何か、耳がキーンとするんだよね...」


顔を顰めながら言った。


「そうなんだ。私もちょっとね...」


タイリクも同様だった。


「そうですか?僕には何も聞こえませんけど...」


「きっと疲れですよ。欠員が出たらここから先は危険なので諦めるのが賢明なのです」



「いや...、ここで諦めたらゲーム終了だよ!

3人だけでも、命ある限り諦めずに突き進んでほしいっ!!」



色々あったが、結局、3人で行くことになった。





5階に行くと、CDやスピーカーやらの出てきた。


「・・・博士さん、ちゃんと攻撃してくれてますか?」


「もちろんです...」


ますます、彼女に対しての不信感が募った。


(絶対博士さん...、攻撃していない)




「かばん...、ちょっといいか」


息を乱したヒグマが話しかけてきた。


「どうしたんですか?」


「とても、申し訳ないんだが...、さっきから頭が痛くてな...。

私はここで、降りるよ...。頑張ってくれ」


「え...」


そう告げると、ヒグマはエスカレーターで来た道を戻って行った。


先程から何なのだと疑問に思う。

ヒグマたちが、何故体調が不良になったのか。


それも気になるのだが、博士と2人になってしまったのが、

何となく、心に引っかかるというか...。

ハズレくじを引いたような感覚だった。


「ああ...、申し訳ないのですが私も体調がすぐれ...」


「博士さん、嘘は良くないですよ...。さっさと指輪を取り返しに行きましょう」


かばんは嫌々な顔を浮かべる博士の腕を取り、最上階に向かった。


一方、2階では...。


「君もあの音にやられたのか...」


タイリクが言った。


「ああ。今回ばかりは、お前に文句は言えないな...。

私もあの音には耐えきれなかった」


「タイリクやヒグマもダメだったのに、何で博士とかばんは平気なんだろう?」


キタキツネもかばん同様に疑問を抱いていた。




そして、最上階。

先程まで、聞こえなかった音が微かに聞こえた。

確かに不協和音というか、何となく不快になる音だ。


「この扉の先に何かありそうですね...」


「面倒なのです...ハァ...」


その何気ないセリフが、彼女を苛立たせた。


「面倒って...、博士さんは何もしてないじゃないですか!」


「失礼な。ちゃんと役立ってますよ」


「じゃあ、それを見せてくださいよ?」


博士に言い聞かせ、扉の中に入った。






「...んー?誰だァ?」


目の前にいたのは、真っ黒い人型の影、青いギターを持っている。


「あの、指輪を盗んだのはあなたですか?」


落ち着いた口調でかばんが尋ねた。


「指輪?あの男が持ってたヤツか。コレか?」


手のひらで指輪をポイと打ち上げた。


「多分、そうです。返してもらえませんか?」


「嫌だね。アイツ、毎回毎回このスクエアでデートばっかしやがって、

目障りだし、癪に障る。アイツが振られればメシウマってもんだ」


「...ところで、お前は誰なのですか」


「俺は、ジェラシーロッカー...。別名、幸福の破壊者!」


そう自己紹介すると、ギターを鳴らした。


「うわっ...」


2人は思わず耳を塞いだ。

この不快な音色は彼のせいだったのだ。


「俺はなぁ、幸せなヤツが大ッ嫌いなんだよ...。

このスクエアに来るリア充共を駆逐してやるぜ...。

返して欲しけりゃ俺を倒すんだな!」


この音を何とかするためにも彼を倒さなければならない。


「博士さん、一緒に戦って...」


「お、お前が一人で戦うのです。ピンチになったら助けてやるのです」


後ろに一歩下がる様にして、博士が言った。


「は、えっ...?何を言ってるんですか!

ちゃんと役立って見せるって言ったじゃないですか!」


「だから最後に助けると言ってやってるのです」


腕を組み高圧的な態度でそう主張した。



「博士さんは炎が平気になったみたいなこと言っていて、

本当はそうでも無かったんですね、助手さんが目の前に捉えられても

助けないんですか。僕が居れば僕任せで」


「私は炎が見たくないのです!使えるものを使わないで何がいけないのですか」


「そうやって人を...、特に僕を物扱いするのが頭に来るんですよっ!」


「お前が言えたことですか!お前だって他の人に色々な事をやらせてるじゃないですか!」


「それとこれとは別ですよ...!それに、ここまで僕が博士さんのことを庇って来たのに、

何なんですか、その高圧的な態度は!」


「長だから態度は高くて当たり前なのですっ!」


「何ですかその理論は。サーバルちゃんよりアホなくせして...」


「この私がサーバルよりアホだと?

そんな侮辱を言うとは...、お前は人間の屑です!」




「何だぁ?テメェら。喧嘩か?

いいねえ、俺はそうやって仲間同士で罵り合うのが大好きなんだよ!」




「ウルサイです!」

「黙ってろなのです!」


2人が口を揃えて言うと、風の弓矢と炎が彼に向かって放たれたのだ。



グサッ、と彼の体を貫通した。



「・・・テ、テメェら!調子乗ってんじゃねーよ!!」


ギターを勢い良く鳴らすと共に、疾風が吹いた。



「...愚痴は後で言い合いましょう」


「...ええ、"静かな所"で」


そう言って、弓を構えた。


「俺のマジを見せてやるよ!」


ギターを鳴らすと、黒いオーラが放たれ、黒い翼が見えた。

不快な音波の攻撃が飛んでくる。


風のスキルで空中を左右に飛びつつ、ジェラシーロッカーに近付く。


「博士さん!」


「火傷しないでくださいよ...!」


杖を振り火炎の玉を放つ。


「ッチ...」

(2方向から別々にっ...て、帽子野郎の姿がねえっ!)


かばんは彼の背後に周り、弓を三本構えていた。

"確実"に狙える。


「...ブリーズアローっ!!」




「クソがッ!!」


彼は後方に吹き飛ばされながらも、足でブレーキを掛け、咄嗟にギターを掻き鳴らした。

不快な音波が飛ぶ。


逆に彼女も一歩下がり避ける。


その時だった。


「あなたの弱点は上ですねっ!」


「...ああっ!?」


博士は翼で飛び上がり上空から技を放ったのだ。


「フレイムバイト!」


長く噴き出た炎は、ジェラシーロッカーを包み込んだ。

更に、かばんも後ろから弓で追加に攻撃した。


「小賢しい奴らめッ...!」


バリアを張り、その攻撃を半減させた。


「堅いヤツですね」


「はい...」


「リア充をこの世から消すまで俺は倒れるワケにゃ行かねーんだよっ!!」


ジェラシーロッカーが声を荒らげた。


「くだらない夢ですね」


「さっさとやっつけるのです」


彼が思いっきりギターの弦を弾いたのと同時に青色の音波が飛んで向かって来る。

2人は同時に風の矢と炎を放った。














「一仕事終えた後の団子は美味しいのだー...」


「焼きそばも中々だけどね...」


アライさんの気まぐれで進んだ挙句、大きな白い鳥と出会い、

やって来たのは桜咲き乱れるジパングのキノコ神社であった。


食事をしてる最中、ある人物が話しかけてきた。


「桜を荒らすカラスを退治してくれてありがとうな。助かったぞ」


「木野子さん・・・」


2人に依頼をしてきた、キノコ神社の巫女だ。


「お主らは、エリニアに行きたいのだろう。

あの白い鳥に伝えておいたからな」


「ありがとなのだ、恩に着るのだ」


「...また、力を貸してほしい時があると思う。

その時は、協力してくれるか?」


「もちろん、アライさんにお任せなのだ!」


「困ってる時はお互いさまだからねー」


「それはとても助かる...。

まあ、しばらくはこの桜でも見て休んで行ってくれ。

旅が良いものである様に、祈っておるぞ」


そう礼を言うと去っていた。



「アライさん、口にあんこついてるよー」


それを口実にして自分の指で取った。


「あ...、ありがとなのだ」


少し照れ臭そうだった。

何を今更、と内心で思いつつ、彼女の目を盗み指の餡を口に入れた。

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