第9話「ニュース」
「何で今更……。」
元日明高校野球部監督の牛頭は朝のニュースを見て愕然していた。
あの事件から2年、牛頭はまさかいまさらになってあの事件の名前を目にするとは思わなかった。
テレビ画面には、深刻な表情で原稿を読み上げるアナウンサーと、右上に「日明高校のピッチャーが告げる2年前の真実」というテロップが映っていた。
アナウンサーは淡々と述べる。
『週刊文潮のインタビューでは、宮司投手は、あの時のデッドボールはわざと投げたもので、監督やコーチの命令でやむを得ず投げたものですと述べています。2年になった今になって告発した理由を、刑事訴追されるのが怖くて、いままではウソをついてきたが、2年間、罪の意識にさい悩まれ、どういう結果になっても真実を話さなければいけないと感じたから、と説明しています。』
「ば、馬鹿な……」
牛頭は、茫然として画面を見つめ、手にしたテレビのリモコンを落とした。
アナウンサーはさらに無機質の言葉を続ける。少なくとも牛頭には非常に無機質な言葉だと思えた。
『早速、警察は宮司氏に再度の事情聴取に向けて動いてるということです、また、日明高校の元監督、コーチにも捜査の手が及ぶことは間違いない模様で、今後の展開が待たれるところです……この場合の、監督の責任はどうなりますか』
アナウンサーの問いかけに、元警視庁の人間だというコメンテーターが答える。
『ええ、非常に珍しいケースでして、普通、再び起訴はされないんですが、当事者が自ら故意であるという旨の新証拠を提出してる以上、今度は起訴されるでしょうね。問題は監督、コーチの責任がどこまでかといったところですが……もし、宮司くんが殺人や傷害致死に問われるようであれば、共同正犯という形で責任を取らなければいけないことは間違いないでしょう』
コメンテーターの言葉を聞いて、落としたリモコンを拾った牛頭は、テレビの画面を消した。
(共同正犯だと……冗談じゃない。あのバカはなんでいまさら、こんなことをしたんだ。あいつにだって何の得もないというのに、罪の意識などくだらない!何としても私の責任だけは避けなければ……芝、芝の口だけは封じなければ)
さっそく牛頭が、携帯電話を取り出して電話しようとすると、すでに携帯電話には複数の着信履歴が残っており、中には芝コーチの名前もあることに気づいた。
(さすがに、考えることは同じか。)
そしてふと気になって、カーテンを開け二階の窓から下を見下ろすと、玄関周辺に十数人の人が待ち構えていることが分かった。中には、テレビのカメラを構えてるクルーたちが見受けられ、いうまでもなく牛頭のコメントを待っているのであろう。
「くっそ、マスコミめ!」
思わずその言葉を口にして、そして牛頭は芝の着信履歴に手を伸ばした。
某タックル事件に思いを寄せて ハイロック @hirock47
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