とある魔術師の戸惑い
兎荷
第1話
「ぬうう…」
目の前の依頼書の山を前に、頭を抱える。
どうしてこうなった。
まず浮かぶ言葉はいつもこれだ。
後悔先に立たずとはよく言ったものだが、どうしてこう、何かすると後悔をする結果しか訪れないのか。
優先事項の高い依頼書が一番上にある。
依頼主は…
ここ、ソフィレアン市の領主からのものだ。
内容はシンプルで、一言で足りる。
・魔道具の作成
これである。
依頼された魔道具とは?
これもいたってシンプルで、夜になると明かりを灯すだけの機能を持った、言わば自動点灯式魔晶石ランプの事だ。
材料や構造、作成方法もシンプル。
素材があればすぐにでも作成できてしまうものでしかない。
だが。
問題も当然発生する。
最も面倒な問題が、依頼数だった。
要約するとこう。
・街道の安全のために明かりが欲しい。メンテナンス要らずで壊れにくいのがいい!
とりあえず1000個
死ぬわ。
一応材料は用意するとの事だが…これ、やるとしたら一人で作るの? マジで?
依頼料を見たが、まあそれなりだった…しかし、労力とストレス、諸々含めるとデメリットのほうが大きい。
メリットは依頼料だが、デメリットを考えると受けたくない。
・依頼を受けて損をする要因1。
これは俺という個人に対しての依頼であるということ。
領主からの直接依頼という名誉がある?
いやいや、いやいやいや。
これ、仮に受けるとしたらマジでヤバイ。
まずは魔術ギルドから追われる。
主に単独受注の罪(容疑とかじゃない)でこの街には居られなくなる。最低でも。運が良くて追放。運が悪いとこの世界から追放される(死
次に、職人ギルドに睨まれる。
街道工事を請け負っている、昔ながらの職人集団の仕事を横からかっぱらった形になるからだ。
いや、ランプだけだったらいいよ?でも街道に一定間隔で設置するとなると支柱を立ててその上にランプを取り付けるといった作業が必要になる。
それを、ただ一回の魔術師が監督すると?(笑
笑えない。
そして技術の流出だ。
シンプルで単純なアイテム。でも、これ作るのってめっちゃ苦労しているんだよ。
どんだけ研究したと思ってるの。街道なんかに放置(もうそういった認識)したら盗まれるでしょ。盗まれると俺の研究の成果も流出することになる。
ううむ…
依頼書は山のようだった。
2枚目、3枚目と目を通すが、どれも似たり寄ったり。
何なんだこいつら。
俺を何だと思ってんの。
無所属の魔術師だからって舐めてんじゃないの?(おこ
よし。
決めた。
逃げよう。
◇
旅をする者たちにとって、手入れのされているキャンプ用の広場というのは、とても重要なものだ。
複数の商隊や冒険者パーティ、個人で旅をしている者たちの憩いの場と言える。
この場では争いはご法度であり、協力し合うのが普通なのだ。
とある旅の商人が目を付けたのは、その中の一人だった。
個人で旅をする者は珍しくもないが、それが魔術師の装いだったのが目を引いた。
夕食に招待し話を聞いてみてたところ、何処かの都市の魔術ギルドに登録しているということでもなく、これまた珍しい無所属の魔術師ということだった。
当り障りない話題から探りを入れると、これまた結構優秀な魔道具技師であることが分かり、当然雇用の誘いをかけたのだが、硬い笑顔で固辞された。
次の日の別れ際に、食事のお礼にと魔道具を貰った。
旅のお供に役立ててくださいと言うことだったが、それは自動点灯式のランタンだった。
高価なものなのでは!?とびっくりしたが、個人的なお礼なので、売ったりしないなら問題ないですよ、ということだった。
魔術師の彼はそう言って去っていった。
商人はとても得をした気分になり、次の街――ソフィレアン領主へのいい旅の土産話ができたと喜んだ。
とある魔術師の戸惑い 兎荷 @tokka1234
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