まだ見ぬ母星は青く見えるか

蔵居海洋

第1話

 あるところに津村という男がいました。


 性格は一度も信号を無視したことがないほど生真面目な男でしたが、気難しい性格というわけではありません。

 誰からも好かれているとまではいきませんが、人間関係に支障をきたしたことはないのです。


 容姿も道を歩けば誰もが振り返るほどではないのですが、かといって、特段悪いというわけでもなく、それなりに整っているという表現がしっくりくるのでしょう。


 仕事も優秀とは言えませんが真面目にこなし、順調にいけば昇進するだろうと目されていて、上司からの評価も悪くはありません。


 ただ、彼には足りないものがありました。


 それは、恋人や親友と呼ばれるような、家族を除いた、深い人間関係です。それにはある理由がありました。


 彼は自身を縛り続けるものや管理されることが嫌いだったのです。会社も、人も、法律も、口にはしませんが、とても嫌がっていました。

 そんな価値観を持っていた彼は恋人や友人を作ることはしませんでした。


 ある日のこと、彼は亡くなった両親の遺品を自身も住んでいる実家の倉庫へしまっているとき、倉庫の奥から奇妙な長さ三〇センチほどの銀色の立法体を見つけたのです。

 その妙な物体にとても強い興味をひかれた彼は、嬉々とした表情で手に取りました。

 すると、それはまばゆい光を放ち、空中に人を形作り始めたのです。程なくして宙に映し出された者は自身を津村の遠い祖先だと言いました。さらには、地球ではない遠く離れた別の惑星から来たと言うのです。


 津村は始めは冗談だと思いましたが、謎の立法体と宙に映し出された人、そして何よりも今まで自分を取り巻いていた霧が晴れ渡るようになくなったことによって、これは真実だと思い込みました。


 映像はその後も喋り続け、それによって自身が乗ってきた宇宙船が倉庫に眠っていること、また、その動かし方を伝えました。


 他にも続きはあったようなのですが、地球に来た理由を話そうとした瞬間、ノイズが空中をはしったかと思うと、光の放射は断続的になり、ついにはうんともすんとも言わなくなり、続きを見ることは叶いませんでした。


 しかし、男はそんなことを気にも止めず、一心不乱に隠された宇宙船を探し始めました。まだ見ぬ故郷に帰るためです。


 次第に日が暮れ、星々が大地に光を注ぎ込み、虫の鳴き声が奏でられ始めても彼は空腹を満たすこともなく、宇宙船を探し続けました。


 その甲斐あってか、宇宙船を見つけることはできました。ですが、動きません。長い間船と格闘するうちに壊れていると彼は気づきましたが、諦めはしませんでした。


 彼は即座に直すことに決めたその時から、今までの生活を続けながら、宇宙船を修理するという日々を始めました。


 その様子を見た周囲の人の目には、いつになくやる気のある津村が映っていました。

 いつもより愛想の良い彼。

 いつもより輝いている彼。

 いつもより仕事に熱心な彼。


 中には、そんな津村を見て心惹かれる同僚もいました。

 よく飲み会にも誘われるようにもなりましたが、その悉くを断りました。

 宇宙船を直しているとき、まるで童心に帰ったような男の姿はどんな時よりも輝いていました。


 努力の末、男は宇宙船を直すことが出来ました。身支度を済ませ、男はいよいよ長い旅路に出たのです。


 ――――

 ――


 長い旅の果て、宇宙船は何事もなく進んできました。船は自動操縦、男は特殊なカプセルの中で眠っていたため容姿は旅に出たころと変わっていません。

 故郷の星をこの目で見るために、近くまで来たら起きるように設定していた男は、目覚めると子どものようにはしゃぎながら、船の中から星を見ました。


 そこには、白く光り輝いた美しい星がありました。男の胸は今までにないほど高鳴ります。船はいよいよ星に突入し始めました。撃ち落されたりしないかという考えは彼の中には微塵もありません。そんな思いが通じたのか、船はスムーズに着陸態勢に入ることができました。


 男は新しい人生に対する興奮し、着陸した船から降りました。

 目の前には発光する街並みや空に浮かぶ建築物、一五メートルほどの美しく輝く白い鳥の群れなど、今まで見たこともない光景が広がっており、男は感動に胸を打ち震えさせます。


 ほどなくして、容姿は地球人と変わりない、役人のような白い制服を着た人が数人やってきて、握手をするかのように手を差し出します。男はその手を固く握り締めました。


 数十秒、握手にしては長い時間ですが男はそんなことを気にも留めません。それからほどなくして手を離されると、別の役人から腕輪を差し出されました。それを男は右手に嵌めると時間のようなものが表示され、確認した役人はこう言いました。


「君の先祖は与えられた作業をこなさず、星から逃げた。君には、先祖が働くはずだった時間と君に課せる時間分働いてもらう。こなせなければ次の世代にも引き継いでもらう。その場合、君の配偶者はこちらで決めさせてもらう。では、作業に入れ。」


 役人は男を掴むとどこかへ連れてい来ます。

 男は、先祖が地球へ逃げてきた理由を理解しました。

 先祖は自身と同じように縛り付けられることから解放されるために、星から脱出したのだと。






 自由を求めて旅に出た男。しかし、彼の思惑とは裏腹に先祖の故郷は地球よりも酷い管理社会だった。その後彼がどうなったのか、それは誰にも分からない。











 如何でしたでしょうか、これは私の見た夢をもとに執筆したものなのですが、その中でも特に思い入れのあるもので、初めに書くならばやはりこれにしたいと思い書き上げました。


 その後、彼がどう過ごしたのかについては、夢を見た私にも分かりません。


 初めて書いたため粗のあるものになってしまい、今後も自身のスキルを上げるべきだと痛感しております。感想、批評を頂けましたら幸いです。


 次作は夢か物語にするか迷っていますが、またお会いできることを楽しみにしております。

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まだ見ぬ母星は青く見えるか 蔵居海洋 @kuraikaiyou

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