価値観博物館へ寄贈はいりません!

ちびまるフォイ

応援コメントされたいという価値観

近所にバカでかい建物ができたので見に行くと、博物館だった。

ただ、博物館なのに恐竜の骨すらない。


展示されているのは「価値観」だけだった。


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【戦時日本の価値観】


天皇が絶対であるとされ、国のために死ぬことが良しとされた価値観。

戦争に徴兵されるのは当時名誉なことで、近所から祝福された。

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「へぇ、こんな価値観もあったんだなぁ」


「今じゃ、こんなの価値観持ってたら確実にヤバい奴だよな」


友達と冷やかしながら価値観博物館を見て回る。


価値観博物館では、当時の価値観に合わせて求められた品や

当時の価値観を体験できるコーナーなどが充実している。


友達と時間つぶしするなら最高だ。


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【バブル期の価値観】


高身長・高収入・高学歴の人間は価値の高い人間とされ、

当時は高級な車などを乗り付けることがステータスとなっていた。

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展示コーナーには当時人気だった高級車が停められている。


「こんな車で来られたら逆に緊張するよな」


「ほんとそれ。成金主義って感じで、今じゃ失笑されるな」


どの価値観を見ても、存在そのものが疑わしいほど現代と似つかわしくない。

価値観は時代とともに大きく変わるものなんだなと感じる。


「おい、これ見てみろよ」


友達が価値観のひとつを指さした。



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【ラノベ期の価値観】


学内では友達と同じ部活に入り、ゆるい学生生活を過ごすのが理想とする価値観。

あえて前には出ずに陰から周りを盛り上げるフィクサー役が良いとするもの

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展示室には「理想の生徒会セット」なるものが組まれていた。


「あはは、なんだよこの価値観。まじで意味わかんねぇ」


「あ、ああ、そうだな……ははは」


「放課後に少ない友達で部室に集まってだらだらゲームするのが理想、だってよ。

 ますます陰キャの集まりじゃん。だっせー」


「ほ、ほんとだよな……」


価値観博物館から出て友達と別れた後、俺はひとりで布団にもぐって叫んだ。


「うあああ! まじかよ!! 俺の価値観って古いのか!?

 学校ではめんどくさいを口癖にニヒルでクールなキャラでありつつも、

 異性のいる部室で静かで穏やかな時間を過ごしたいとか思ってた——!!」


危なかった。

もし、今日価値観博物館でこのことに気づかなかったら

友達の前で「いたい奴」だと思われていたにちがいない。


「よし、ちゃんと現代の価値観にあわせないと!」


価値観博物館では現代の価値観も展示されている。

見る必要ない、と話を合わせた後で、トイレを行くフリをしてメモしてきた。


「なになに、現代の人はSNSは必須!? まじかよ!

 それに、友達との関係はこまめに連絡するもので……ふんふん。

 現実の充実度とネットでの充実度をイコールに近づけるのがいいのか」


SNSでリア充ぽい写真を上げたホームレスとかはダメなのか。

あくまでも、等身大の自分であり続けて、それが評価されるのが今の価値観か。


翌日から、現代っ子デビューは始まった。


「よぉ、俺もインヌタはじめたぜ!!」


「……おお」


「始めたんだぜ!!」


「……だから?」


「いや、リアクションうすいなーって思った」


「みんなやってるだろ、フツーに。逆になんで報告するの?

 今、呼吸してるぜ!ってわざわざ宣言しないでしょ」


「で、デスヨネー……」


のっけからつまづいて幸先真っ暗の奈落コースになった。


その後も「無理して若者文化を取り入れるおじさん」のような見苦しさをいかんなく発揮。

友達との距離を詰めるどころか、逆に自分の不勉強さをさらすだけになった。


「だ、ダメだ……どうしても現代の価値観が入らない……なぜだ……」


床に手をついて考えたところ、既存の価値観が邪魔していることに気が付いた。


「そうだよ! 今まで俺はラノベ価値観こそ正しいと思っていたから

 それを無理して現代に沿わせようとしたから駄目だったんだ!」


気がつくなり、学校の窓から価値観博物館へと飛び出した。

ガラスでずたずたになったのを見て事情を察したのか、館員も深く追求しなかった。


「お願いします、俺の価値観を寄贈させてください!!」


「はぁ……また突然ですね」


「俺に古い価値観があるばっかりに、

 新しい価値観を取り入れようとしても古い価値観が邪魔してしまうんです!」


「事情はわかりました。ですが、あなたの寄贈しようとしてるラノベ価値観は

 すでに当博物館で展示されていますから不要です」


「そこを何とか!」

「いらないです」


「スペアとか、観賞用に使ってくださいよ!」

「もとから観賞用です」


館員の冷静な態度を見てこれは正攻法でいけないとわかると、

自分の精神年齢をぐっと下げて博物館の床の上でじたばたした。


「やだやだ! 寄贈させてくれなきゃいやだーー!!」


「ちょっとなにしてるんですか!」


「うわーーん! 寄贈させてよ寄贈させてよーー!!」


「お菓子買ってもらえない子供ですか……」


あきれた館員はやれやれとばかりに頭を抱える。


「わかりました。寄贈を受けましょう」


「本当ですか!! やった!! 最初から言ってくださいよ!

 ここまでみっともない姿さらす必要なかったじゃないですか〜〜」


「なにさまですか……」


館員は人差し指を立てて警告した。


「ただし、1つだけ条件があります」


「いいでしょう。俺の貞操ささげましょう」

「そんな汚いものいりません」


「あなたの価値観を1つ寄贈してもらいます」


「価値観ですか?」


「はい。人間にはいくつも価値観があるんです。

 宗教観や食事観、人間観などなど人はたくさんの価値観で構成されています。

 そのうちの1つを寄贈してもらいたいんです」


「いいですけど、そんなの寄贈しても意味あるんです?」


「価値観博物館には、さまざまな価値観を持った人が来ますからね

 いち個人のしょーもない価値観でも、他人から見れば見新しいものなんですよ」


「ま、こっちもラノベ価値観を回収してもらえるなら願ったりかなったりです」


「では失礼しますね」


館員は専用の価値観掃除機の吸い込み口を俺の頭にくっつけた。

爆音とともに、価値観が吸い出される。


「ありがとうございます。

 では続いてラノベ価値観を回収させてもら……ってあれ?

 どこいくんですか? まだ回収してませんよ、いいんですか?」


「ああ、そうなんですね。もういいです」


「あれだけラノベ価値観を捨てたがっていたのに?」


「はい、もうなんかどうでもよくなりました。俺は俺ですしね」


「そうですか。ではまた来てくださいね」


その後、価値観博物館にはまた新しい価値観が展示されることになった。





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【 友達価値観 】


友達がいない人間は寂しい人間だと考える価値観。

孤独や孤立をおそれ、友達に合わせて集団で行動することに価値を感じるもの。

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