未解決事件

 男は未解決事件の犯人ぶるのが好きだった。「五年前、練馬の一家が惨殺された事件があっただろ」そんな風に切り出しては、実際には何の関わりもない犯行について己の仕業だと得意げに吹いて回るのだ。相手は誰彼かまわずだった。

「あれは俺なんだ」

 男は共犯めいた様子で声を潜めてその決め台詞を言っては、にやりと笑って相手の肩を軽く叩いた。自分に返されているいぶかしげな視線には気づきもしなかった。彼は犯罪とは無縁の男であり、同時に誰からも相手にされない男でもあった。

 一度、真犯人を騙った相手がたまさか当の事件の被害者だったことがあった。男は「おっと」と言って、いたずらを見つかった子どものように誤魔化し笑いをすると、ひょこひょこと爪先立ちでその場から去ったのだった。

 あるとき、柄の悪い連中が唐突に家に押しかけてきて、男に同行を求めた。男は誤魔化し笑いをして用事があるとかどうとか言ったが、有無を言わさず拘束された。男は「おれは何もしていない!離せ!」と言って暴れたが、顔を殴られるとあっけなく気絶してしまった。

 それきり男の姿を見たものはいなかった。

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a man with NO mission つくお @tsukuo

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