記録終了

さいごに

「……いえ、これ以上は蛇足ですね」


 そうまとめると、彼は頭を下げた。


「こんなにも長い間、こんな僕の話を聞いてくれてありがとうございました」


「いえ! 私こそ、最後まで聞かせて貰えて光栄でした……!」


 本心から告げて、私も頭を下げる。

 予想以上だった。とても幸運だった。彼女の話は、私にとっては何より──


「ああ、そうそう。最後にこれを受け取ってもらえませんか?」


 彼は机の引き出しから何かを取り出した。


「僕より貴方の方が相応しいと思うのです」


「これって……」


 それは少しも色褪せていない、赤いリボンだった。

 受け取り、首元にリボンを巻く。少し重いそれを結ぶと、彼は目を細めた。


「ほら、貴方の方が似合う」


 もしかしたら、彼は私を通して彼女を見ていたのかもしれない。

 …………私は、彼女のリボンを受け取るに相応しい人間になれているだろうか?


「……彼女は」


 そこまで言いかけて彼は首を横に振った。少しだけ目頭を抑え、私に微笑む。


「何でもありません。きっと、そうだったと思うので」


「…………はい」


 私は、胸を張ってそう答える事が出来た。



 ──彼女は、最期まで幸せだったと。



「貴方に、聞いてほしい事があるんです」


 今度は私が話す番だろう。

 そう。これは、


 ──私が見た、『彼女』の物語だ。


 了

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大正アルケミスト復讐譚 独一焔 @dokuitu

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