うるさい雨

十一

雨音

 そう。

 偶然。

 わかってる。

 なのにどこかで思ってしまう。

 これはもしかして運命なんじゃないかって。

 スクールバッグの奥底に仕舞いこんだ折り畳みの傘を出すためにはとにかくどこかに避難しなくちゃならなくって公園の四阿あずまやっていうの?木製のテーブルとベンチが設置してある屋根つきの休憩所に駆けこんだら先輩がベンチで休んでいてその小さな偶然が嬉しくなって運命なんて感じてしまったんだけど彼がちらりとこっちを見る視線を追って自分の身体をは見下ろしたら制服の半袖ブラウスがぐしょぐしょになって肌に張りついていていたものだからとても隣に並んで座る気分にはならなくてテーブルを挟んで反対側のベンチに座って前を隠すみたいにしてスクールバッグを縦にして膝の上に置いてみたけど先輩のほうはとてもじゃないけど見れずにうつむいたまま濡れて重くなった前髪を意味もなく弄んでいるとこうやって一緒の場所に二人でいるのに話すらできないのがむなしくなってきて思い切って視線を上げてみたのに当の先輩はわたしのことなんて眼中にないみたいにスマホを触っているからもうむなしさを通り越して悲しくなってテンションだだ下がりでうつうつしていると先輩はスマホで何やってるんだろって会話のきっかけになりそうな疑問にも誰か女の子とLINEしてるんじゃないの?だってあの先輩だよ?彼女くらいいてもおかしくないじゃん暇なときに小まめに連絡取り合っているんだって不安になってますます気分が塞いでいく。

 逃げ出したいって思いながらもそれができない。

 なにをするわけでもなくただ無言で時間だけが過ぎていく。

 ほんとなにやってんだろバカみたいじゃんわたし。

「あのさ」ふいに耳に届く声。

 先輩がこっちを見ていた。

 もうスマホも触ってない。

 それからわたしたちは話す。

 どうってことない会話。

 いつもみたいに。

 ただしゃべる。

 それが楽しい。

 嬉しい。

 幸せ。


 そして日が傾いて来たころ、わたしたちは二人して立ち上がる。

 まだまだ話は終わらなくて。

 二人並んで歩く。


 もう傘は必要ない。

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