第37話「準備編(わくわくが止まりませんね)」
家路に着いた由紀は、「ただいま」とだけ言い、早々に自分の部屋に入る。
買った竿を箱から取り出すと、由紀はまじまじと竿とリールを見やる。
「うーん。綺麗。エメラルダスのリールってこんなにデザインかっこよかったんだ。それに竿の握りやすさといい、素晴らしい。早く釣りがしたい……」
由紀はにんまりと竿とリールを見つめながら、自然と口角が上に上がる。
「さてと、PEでも巻くか、ハンカチ、ハンカチっと」
由紀の制服のスカートポケットからハンカチを取り出すと、学生鞄から少量の水が入っているペットボトルを取り出し、その水でハンカチを濡らす。
一緒に買ったPEラインを袋から出すと由紀はあぐら座りをする。リールを竿に取り付け、PEラインを竿に通し、手際よくリールのスプールにPEラインをくくりつけた。
「いい感じ。このままハンカチでテンションを掛けながら巻くだけ!」
竿に通しているPEラインを濡れたハンカチで握り、リールを巻いていく。由紀は次第に鼻歌を歌いながらリールと竿を見ながら、
「ああ、早くしたいよ。釣りたいよー」
大物を釣るイメージが脳内で浮かび上がる。イカ、タコ、アナゴと大きな魚たちが次々と釣れる姿が目に浮かぶ。高揚感が由紀の脳内を支配しているかのようだった。
次第にPEラインが巻き付いていた部品から、「カラカラ」と音が聞こえてくる。すべて巻き上げたらしい。
「よし。完成。我ながら完璧だね。うーん。素晴らしい」
PEラインをリールの引っ掛けにつけ、空回ししながら回っているリールを見る。
「早く釣りがしたいよ。釣りたいよー」
由紀は手に竿とリールを持ちながら、そのままベットに背中を預けた。首をベットにかけ、天井の灯りを見ながらつぶやいた。
すると机に置いてあったスマホがぶるっと振動する。誰かから電話みたいだ。
由紀は机にあったスマホを手に取ると、見慣れた名前が表示されていた。
「ゆんからだ。なんだろう?釣りの案件かな?」
ニヤリと期待としながら、由紀はゆんからの電話に出る。由紀が「もしもし」と言いながら出ると、ゆんのウルウルとした声が聞こえてくる。
「ゆーーーーーーーきーーーーーーちゃーーーーーーん。ううううううううう」
電話越しでも分かるゆんの泣き声、何かあったのだろうか?由紀は瞬時にスマホを耳から離す。再び、耳に当て話しかけた。
「なんだよ。ゆん。何かあったの?」
「由紀ちゃん!由紀ちゃん聞いて、リールの糸の巻き方が分からないよぉぉぉぉぉおおお」
再び、由紀はスマホを耳から離す。一息吐いてから、「よし」と言い、スマホを耳に当てる。
「ゆん、ちょっと落ち着こうか。深呼吸、深呼吸」
「ヒック、ヒック、はーはー。うんありがとう由紀ちゃん、落ち着いたよ」
「で、なんだい、ゆん。リールの糸の巻き方がなんだって?」
「うん。やり方がいまいち……、メバルで使ってるリールは以前やってもらったものだし、今回は一人でやってみようかなと思ったんだけど、ネット見てもいまいちやり方がわからないよー」
電話越しでも、困り果てている顔が脳裏に浮かんでくる。
「ねえゆん、今から
「本当!本当!ありがとう。今から行くよ。速攻で向かっちゃう」
由紀は電話越しで「はいはい」と言いながら、電話を切った。実のところ夕方を越え、夜の時間帯であることを考えても、リールに糸を巻くのは明日でもと思っていた。だけど、心の中で小さな期待があった。
「まあ、今日はゆんと話したい気分だったしね。それに明日は休みだし、別に」
由紀は竿とリールを見ながら、ふらっと立ち上がると、ベットに倒れこんだ。そのまま由紀は白い天井、蛍光灯の灯りを見つめていた。
ふぃっしんぐがーるず 誠二吾郎(まこじごろう) @shimashimao
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